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■統合失調症とともに  森 実恵 さん

大阪読売新聞朝刊にて連載されたものです

以下、筆者のご好意により一部を転載させていただきました。

2005年10月30日


森 実恵(みえ)さんのプロフィール

大阪府在住。1958年3月26日生まれ。
大石りくエッセー賞佳作。北九州市人権作文佳作など受賞。
10数年前に統合失調症を発症し、その体験をつづった「
心を乗っとられて」を潮文社より出版。(Amazonカスタマーレビュー5つ星!)

まもなく読売新聞の連載は岩波ブックレットより、出版予定。

2006年には解放出版社より半生記を刊行予定とのことです。

ぼちぼちクラブ(大精連=大阪精神障害者連絡会)の活動や、自立生活支援センター・ピア大阪で精神障害担当ピアカウンセラーとして活躍されています。「一人で悩まず相談に来てください」


■統合失調症とともに (読売新聞寄稿連載)目次


(1) うるさい幻聴 今では友人 
(2) 間一髪 死に神との戦い
(3) 書くことが回復後押し
(4) 救急病棟で 初めて幻覚
(5) 耳鼻科や心療内科 知識乏しく回り道
(6) 殺風景な閉鎖病棟 心潤す花もなく
(7) まじめで傷つきやすい人々
(8) 本当は自然体で生きたい
(9) 働きたいが受け皿なく
(10)つらさ知って 薬の副作用
(11)家族の仲が壊れない秘訣
(12)多彩な妄想 次から次に
(13)患者が信頼できる説明を
(14)おっちゃんは太陽になった
(15)必死の叫び 「言葉のサラダ」に
(16)偏見広げる性急な報道
(17)長すぎる入院 生きる力を奪う
(18)気力衰える陰性症状 新薬に期待
(19)動機に明確な原因と論理
(20)独創と芸術 病が原動力に
(21)社会復帰に様々なハードル
(22)独語と空笑は幻聴との対話
(23)「欠格条項」 社会参加の障壁
(24)思考に忍び込む困った幻聴
(25)受診を拒む時、どうすれば…
(26)「治っていく病」正しく認識を

全部は掲載していません。

2006年3月3日出版された岩波ブックレットを読んで下さい。

『〈心の病〉をくぐりぬけて』【岩波ブックレット】 森 実恵
定価 504円(本体 480円 + 税5%) 


■統合失調症とともに(1)森 実恵
 2003/06/21 大阪読売朝刊 健康&医療面 

 統合失調症は百人に一人という頻度の高い病気です。誤解を生みやすい精神分裂病という病名は昨年、変更されましたが、一般の理解はまだまだ乏しいようです。患者自身から見るとどういう病気なのか、社会への思いとともに、連載で伝えていただきます。

 

◆うるさい幻聴 今では友人  
 幻聴とは、音源がないにもかかわらず、声が聞こえることです。統合失調症にはわりあい多い症状のようです。 
 私は幻聴とつきあって十年以上になりますが、いまだに退屈しない面白い病気だなと思います。音楽や機械の音も聞こえますが、ほとんどが人の声なので、考えてみれば、ずいぶん人間臭い病気ですね。
 朝の目覚めとともに幻聴とのつきあいが始まります。布団の中で「さっさと起きろ。今日は買い物に行くぞ。早くしろ、寝ぼすけ」という声に起こされ、朝食の準備をしている間もずっと声は聞こえています。聞こえる気がするのではなく、本当に声がはっきり聞こえるのです。
 「バカ、まずい、まずい」という声を聞きながら朝食を取り、カーテンを開けようとすると、「隣の人が見ているから駄目だ」と言われ、また閉めます。
 多重人格とは違うので、私の意識が途切れることも別人格と交代することもないのですが、幻聴はあれこれ勝手なことを言うので、ちょっと買い物に出かけても大変です。
 〈夕食の献立は刺し身、ワケギのぬた、もずくの酢の物、栗ご飯…〉と考えながらスーパーに入ると、幻聴がいろいろな指示を出します。
 幻聴A「お刺し身は食中毒が危険だから食べたくない。カレーが食べたい」
 幻聴B「カレーはコレステロールが多いから駄目よ。果物を買いましょう」
 幻聴C「何も食べたくない。可愛(かわい)いお洋服がほしいの」
 Aの声に従い、かごに入れた刺し身を元の所に戻し、牛肉を買おうとしますが、Bの声に従い、牛肉を戻して果物売り場へ向かいます。ところがCの声が聞こえてきたので、すべての食材を元の所に戻し、二階の洋服売り場に行きます。
 私は店内を右往左往する挙動不審の主婦です。
 幻聴D「そうだ、百万円のダイヤの指輪を買いましょう」
 さすがに理性のブレーキが働きます。幸いなことに、そんな大金もカードも持ち合わせておらず、この危ない幻聴からは救われます。
 帰り道、本屋の前を通ると「洋書を買おう」という声がして、つい買ってしまいます。ところが五分もたたないうちに「そんな難しい本、おまえに読めるわけないだろう。さっさと捨てろ」と言われ、買ったばかりの本はごみ箱に。
 今思い出してもおかしい幻聴もあります。「頭にお守りを付けろ、でないとおまえは殺される」という声がして、ヘアゴムの上にお守りを付けていたこと。「清めの塩をまけ、厄除(やくよ)けじゃ」と言われ、庭中に塩をまき、町を塩だらけにして走ったこと……。
 けれど今は、幻聴は飼い慣らされ、自分の心の中にいる何人かの友人、時に相談相手になっています。                          

 〈明日に咲く花〉


おとといも昨日も今日も苦しかった


幻聴のシャワーで目覚め、音の洪水の中で眠りにつく


明日も明後日もその次の日も苦しいだろう


幻聴のシャワーで目覚め、音の洪水の中で眠りにつく


けれど明日には小さな花が咲くかも知れない


愛という名の小さい花が


優しさという名の小さい花が


幻聴のシャワーの中に


音の洪水の中に

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■統合失調症とともに(2) 森実恵
 2003/06/28 大阪読売朝刊 健康&医療面

 ◆間一髪 死に神との戦い

 統合失調症は“命にかかわる病気”です。今でこそ幻聴と仲良くつきあっている私ですが、急性期には悪魔のような声に翻弄(ほんろう)され、何度か殺されかけたことがあります。
 そのような時に死ねば、形としては自殺でしょうが、脳内では幻の声とのバトルが繰り広げられています。自分の意志では戦い抜けず、結果として殺されてしまうと言ったほうが良いかも知れません。
 「死ね、死ね」という声が二十四時間、絶え間なく聞こえ、音量はラウドスピーカー六、七台分、人数は百人くらい。睡眠薬なしではとうてい眠れず、地獄のような責め苦が約三か月間続きました。
 それに加えて幻視(鎌(かま)を持った死に神が追いかけてくる)、体感幻覚(男性がいないのに愛撫(あいぶ)されている感じ)、幻臭(甘い物のにおい、ドブ川のにおい)、幻味(血の味、ゲジゲジの味)……。すべての感覚が病に侵され、私は一人、シュールレアリズムの世界に漂っていました。
 一分間に三十回、一日四万三千二百回、一か月で百万回以上も「死ね」と言われ、生き続けることの困難さ。 閉鎖病棟に三か月間入院した時、トイレの窓から飛び降りようとしました。その時は命拾いしましたが、退院してすぐ、ネクタイを輪にして頭を入れました。家族は包丁など家中の危険な物を目の届かない場所に隠しました。
 ある夜、私は洗面所にあった爪(つめ)切りばさみを手に取り、家から外へ出ました。「もう駄目だ、幻聴に殺される」。死に神に追われ、山の中を必死の思いで逃げ回り、いつのまにか崖(がけ)の上にたたずんでいました。脳内では、幻聴との精神戦争に疲れ果てた自我が「早く死んだ方が楽だ」と足を前へ進めます。
 私はみけんに爪切りばさみを突き立てました。痛みは全くありません。そのまま頭を下にした状態で数メートルずり落ち、まだ死ねないので、今度は手首を何度も深く切りつけました。血が流れ、頭を岩にぶつけながら数十メートルずり落ち、靴も脱げ、トレーナーもボロボロになっていました。
 かすかに鳥のさえずりが聞こえ、山の端から昇る朝日がとても美しく思えました。そこからどうやって家へ帰ったのかはよく覚えていません。父も母も寝ないで待っていました。母は一晩中、般若心経(はんにゃしんぎょう)を上げていたそうです。どういうわけか、この日を境に正体不明の幻聴は徐々に勢力が弱くなっていったようです。             

〈苦しみの中の喜び〉


苦しみの中に喜びがある


今まで


気づくこともなかった


人の優しさや


人の傷つきやすさに


初めて気づくようになって


苦しみの中に喜びを見出した 果てしなく続く幻聴との戦いに


私はもう疲れ果て


息絶えだえなのだけれど


今にも死にそうな私が


驚いたことに


他の人を励ましている


他の人を慰めている

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