脳の疲労 謎を解明 世界初 原因と阻害物質特定 ■帝塚山大・山本教授ら■
産経新聞2001年1月30日
脳の中枢神経を疲労させる原因物質と、その流入を阻害する物質を帝塚山大学(奈良市帝塚山)の山本隆宣教授(医学博士)と英・オックスフォード大学のエリック・エイ・ニュースホルム名誉教授らの共同研究グループが世界で初めて特定したことが二十九日、分かった。IT(情報技術)化が進み、人がコンピューター端末に向き合う時間が長くなったことなどから、最近は原因不明のけん怠感に突然襲われる慢性疲労症候群で悩む人が増えている。今回の発見は「第二のエイズ」ともされるこの疾病の治療に貢献する可能性もあるとみられ、注目されている。
原因物質は、体内で合成できないが成長に必要なアミノ酸の一種、トリプトファン。このアミノ酸は、睡眠の調節に関係する神経伝達物質のセロトニンに体内で変化する。トリプトファンが脳に過剰に取り込まれると全身に行動抑制が働き、眠り込むような疲労状態に陥ることが分かった。
研究グループは、別のアミノ酸の化学構造の一部分を補強して合成した「BCH」と呼ばれる阻害剤を投与すればトリプトファンの脳への流入を防ぐことも動物実験などで証明。国際誌上で発表し、各国の研究者からの問い合わせが相次いでいるという。
「BCH」は薬剤としての実用化も可能。しかし、若い間にトリプトファンの摂取を制限すると成長を妨げる例もあるため、条件つきで投与するなど疲労予防効果についての研究を進めている。
慢性疲労症侯群は原因不明の激しい疲労感が何カ月も続き、思考力の低下や微熱、視覚障害、記憶障害などに襲われる。原因は内分泌系や代謝の異常説、精神神経疾患などが考えられているが、はっきりとわからない。パソコン業務などが増えたための脳の疲労も原因の一つとも考えられている。欧米ではすでに疾病として、一般的に認知されているが、日本では認知度が低い。
山本教授の話「これからの時代は脳の疲労や、突然、極度の疲労感やけん怠感が襲う慢性疲労症候群のための疲労回復剤の必要性が出てくる。今回の成果は第一歩だ」