全国精労協Home > 不祥事 > 箕面ヶ丘病院

不祥事と人権侵害  箕面ヶ丘病院

この熱のこもった取材に敬意を表します。病院への医療監査でこれらの事実が分からなかったのでしょうか?疑問が三つあります。

・カルテもなくてなぜ監査が通っているのか。

・通常の監査でこれらの事態が、分からないとすれば、監査の方法自体に問題があるのではないか。

・これだけの人権侵害があっても、不正請求がないと病院のあり方が根本的に問われない精神医療行政。精神保健福祉法は誰の権利を守るための法であるのか。

この問題を取り上げてきた読売新聞の記者がこんなことを言っておられました。

「日本の精神医療の課題はたくさんありますが、こういう20−30年も前のような病院をなくすことが、最優先の課題だと考えています。大阪では、すでに大和川病院事件があり、行政はその後、入院患者から人権状況の聞き取りもしていたはずなのに、なんで今まで、電話妨害や外出制限などの実態を解明できなかったかも問題です。」


大阪府が箕面の精神病院に改善指導 患者拘束が日常化/看護婦数、基準の半分


 <大阪読売朝刊 2社面2001年8月31日>

 看護婦数が法定基準を満たしていないうえ、患者の処遇も不適切として、大阪府が、箕面市稲五の精神病院「箕面ヶ丘病院」(西川良雄院長)に対し、医療法と精神保健福祉法に基づく改善指導を行っていたことがわかった。日常的に一部の患者をひもで縛って身体を拘束するなど違法な実態が確認されており、府は病院側から三十一日にも提出される改善報告を受けて是正状況を調査する方針。
 府によると、同病院は一九七〇年設立で、内科、精神科、神経科がある。すべて閉鎖病棟で、ベッド数は百二十八床。
 今月初め、府が立ち入り調査したところ、看護婦数が医療法の基準(二十二人)の半数程度しか確認されなかった。病院側は看護婦数を二十五・四人と報告していたという。
 また、精神保健福祉法に基づく政令では、患者の尊厳を守るため、身体拘束を緊急時などに限定し、指定医がカルテに記載することを義務づけているが、記載のないまま、一部患者の腰付近をひもでくくってベッドとつなぎ、自由に動けなくする行為が日常化していた。政令の規定で原則的に自由とされている電話や面会についても、患者の希望通りにさせていなかったという。
 府は、こうした患者に対する不適切な処遇は、看護婦を法定基準通りに置いていない体制の不備から、繰り返されていたと判断。今月初め、看護婦を増員するか、入院患者数を現在の看護婦数に見合う水準まで減らすため、転院などの措置をとるよう、池田保健所長名で改善指導した。
 府に対し、病院側はこうした実態を認めているという。府は今後の調査で、十分な改善が確認されない場合、知事名での指導など、より厳しく対応する考え。


法定基準違反・箕面の精神病院 診療報酬を不正請求の疑い
 大阪府 看護職員数を水増し


<大阪読売朝刊 2社面2001年8月31日>

 看護職員が法定基準(二十二人)を満たしていないなどとして、大阪府が改善を指導している箕面市の精神病院「箕面ヶ丘病院」(西川良雄院長)が、府の三十一日までの調査で実際には十二人の看護職員しかいなかったことが分かった。診療報酬の請求先となる社会保険庁大阪社会保険事務局に対しても、医療法上の基準数を満たしていると虚偽の申告をしており、同事務局は水増しした看護職員数に基づき診療報酬を不正請求していた疑いがあるとして、不正分の返還を求める方針。
 府や同事務局によると、同病院はすべて閉鎖病棟でベッド数百二十八床。府や同事務局などには看護職員数は基準以上の二十五・四人を配置していると申告。患者六人以上に対して看護職員一人が必要な「特別入院基本料」での診療報酬を請求していた。
 同事務局は今月上旬から、府の調査と並行して病院に立ち入りし、看護記録などを基に、基準通りの職員配置が行われていたかなどを詳しく調査している。同事務局は、病院側が少なくとも半年以上、こうした不正請求を続けていた可能性があるとみている。
 一方、西川院長はこの日朝、読売新聞の取材に対して、「保健所の指導にすべてお任せしているので、コメントは控えさせていただきます」と、病院職員を通じてコメントした。


箕面ヶ丘病院」が改善報告書提出 大阪府、近く立ち入り調査へ


<大阪読売朝刊 2社面2001年9月1日>

 看護職員の水増し報告や入院患者の不適切な処遇があったとして、大阪府から改善指導を受けた「箕面ヶ丘病院」(箕面市、西川良雄院長)は三十一日、府池田保健所に改善報告書を提出した。医療法と精神保健福祉法に反する運営実態を認めたうえで、是正措置を盛り込んでいる。府は、報告書通りに改善されているかを確認するため、近く立ち入り調査を行う。


箕面ヶ丘病院の苦情が8年前から/電話隠し連絡妨害/患者外出は年2回


<大阪読売朝刊 2社面2001年9月2日>

 看護職員の不足や患者に対する違法な身体拘束などが大阪府の調査で発覚した箕面ヶ丘病院(箕面市)は、「外出できない」「電話を制限された」といった退院患者からの苦情が、府や市民団体に以前から寄せられていたことが一日、わかった。患者のほとんどが任意入院なのに閉鎖的管理が目立ち、最近では病棟の公衆電話を隠して外部への連絡を妨げていた。入院環境も長年、お粗末な状態が続いていた。
 市民団体・NPO大阪精神医療人権センターには約八年前から苦情が寄せられていた。法律上、府や人権機関への電話は制限できないのに「通話先を職員に聞かれ、家族なら『週一回にして』、府や人権センターなら『やめろ』と言われた」などというものだった。 府が八月上旬に抜き打ち調査した時は、電話機そのものが隠され、どこにもかけられない状態だった。
 人権センターが昨年刊行した「大阪精神病院事情ありのまま」によると、スタッフが昨年八月に訪問した際、一部の病室は壁の結露が目につき、「雨の日はタライを置く」と職員が話したという。
 任意入院は自由な外出が原則だが、病棟は二つとも閉鎖病棟。付き添う職員の不足から、多くの患者は春と秋の年二回しか近くの公園にも出られない。「あとの季節は風邪をひいたり、日光が強すぎたりするでしょ」と看護婦は主張した。
 金銭の自主管理は許されず、公衆電話を使うにも詰め所に申し出る必要がある。通話用に渡される十円玉は「市外は五十円、市内は三十円まで」。面会に来た家族と話す時も院長が必ず立ち会った。
 長期の患者にも私物用のロッカーはなかった。院長は「とった、とられたのケンカになるから。当分の着替えだけあれば十分だ」「看護婦の人数は多くないが、その分うちはアットホーム」などと語った。
 西川良雄院長は、読売新聞の取材に、「行政の指導の下、改善に努力している」とだけ話した。


大阪・箕面ヶ丘病院/医師数も水増し/知事名で改善指導


<大阪読売朝刊 2社面2001年9月6日>

 看護職員数の水増しや患者の人権侵害が発覚した大阪府箕面市の精神病院「箕面ヶ丘病院」(西川良雄院長、百二十八床)が、医師数でも法定基準を満たしていないことが五日、府の調査でわかった。病院側は基準に適合する数を府に届けていたが、出勤簿の改ざんが確認されたため、府は虚偽報告と断定し、同日、太田房江知事名で改善指導を行った。是正されない場合は、医療法などに基づく改善命令に踏み切る。
 府によると、同病院は、医師数が法定基準の三人を下回る二人なのに府には三・二人とするなど、偽った報告をしていた。病院側は水増しを隠すため、出勤簿を改ざんし勤務していない医師を出勤としたり、看護職員のタイムカードを偽造したりしていたという。
 府は病院側から改善報告を受けたが、隠ぺい工作などが裏付けられ、府の内規に基づく「重大違反事項」に当たると判断。より厳しい指導に切り替えた。


医師、看護婦数を虚偽報告 箕面の病院

<2001年9月6日大阪日日新聞>


 大阪府箕面阪市の病院が医師や看護婦の数が法定基準を満たしていない上、虚偽報告していたとして、大府は五日、同病院に対して重大違反事項と指摘するとともに、改善指導を行った。

 この病院は箕面市稲の箕面ヶ丘病院(西川良雄院長)。同病院は府に対し非常勤を含めた医師数を三・二人、看護婦数を二五・四人と報告していたが、先月八日に府が抜き打ちで立ち入り検査したところ、医師は二・七人、看護婦数は一二・七人にとどまり、医療法の定めた医師三人、看護婦二十二人を下回る違法状態にあることが分かった。

 府は病院への聞き取り調査などの結果から「文書を改ざんするなど医師、看護婦数の不足を組織的に隠ぺいしていた」と判断。先月十七日に立ち入り検査の結果を同病院に通知するとともに改善事項を回答するよう指示し、同病院は先月三十一日に改善計画を府に提出している。

 また、立ち入り検査では入院患者の腰をひもでくくりつけ窓格子に拘束したり、法で義務付けられている府や法務局へのホットラインを取り外すなどの行為も見られた。府はこれについても精神保健福祉法に基づいて改善を指導している。

 府は今後も立ち入り検査などを継続的に行う計画で、改善されない場合には法に基づく厳正な対応をする考え。

情報は→大阪日日新聞


◆[そして今]大阪ニュース検証 箕面ヶ丘病院問題(上) 社会復帰阻む閉鎖病棟/長期入院、電話も隠され


 <大阪読売・大阪府内版2001年11月4日>

 患者への人権侵害と職員数の水増しが八月に発覚した箕面市稲の「箕面ヶ丘病院」(西川良雄院長、百二十八床)は、他の精神病院の関係者が「三十年前の感覚」とあきれるほど、隔離収容主義の古い体質を引きずっていた。開放的な治療と社会復帰に努力する精神病院も増えているのに、なぜこうした病院が残っていたのだろうか。                    (科学部 原昌平)

 府が八月八日に抜き打ち調査した時の入院患者は百二十一人。府は、病状の比較的重い患者は転院、入院の必要がない患者は退院を図り、実際の職員数に見合う数にするよう指導し、今では七十人台に減った。転退院に協力している大阪精神病院協会は六十人にまで減らすよう求めている。
 転退院の内訳は十一月一日時点で転院二十九人、退院十四人。病状の軽い患者は多く、池田保健所は十月二日に患者向けの「社会復帰説明会」を院内で開いた。尼崎市など兵庫県出身の人が四割を占めることから、阪神間の保健所にも協力を求めている。
 しかし住まいの確保が容易ではない。家族の協力が得られない人、身寄りのない人が多いうえ、大阪教育大付属池田小事件の影響で、精神障害者に対する偏見が強まったからだという。

 関係者が驚くのは入院期間の長さだ。大半が十年を超え、三十年以上もざら。ソーシャルワーカーはおらず、社会復帰の訓練もない。病院は五年前、社会復帰促進と称してグループホームを隣に建てたが、全く使っていなかった。病院生活に慣れてしまい、社会へ戻る勇気を持てない人が目立つという。
 「患者も家族も他の病院を知らず、精神病院に入ったらこんなものかとあきらめていた感じ。彼らの人生の二十年、三十年は何だったのか」と池田保健所の精神保健福祉相談員、野田美紗子さんは嘆く。

 箕面ヶ丘病院は措置入院先に指定されておらず、医療保護入院(家族同意による強制入院)も十二人だけ。大半は任意入院で、退院も外出も本来自由なのに、「事故があると困るから、外出は家族と一緒でないとダメ」と閉鎖病棟に閉じこめてきた。
 事実上、任意とは名ばかりの強制入院が行われていたといえる。だが、任意入院の場合、行政への届け出が不要でチェックも少ない。
 府は六、七年前から外出制限の実態を知り、改善を求めていたが、「付き添う職員が足りない」という弁明に、強い指導はしていなかった。

 関係者によると、診療内容もずさんだった。病名が精神分裂病なら、どの患者も同じ二種類の薬で、量も同じという画一的な処方。カルテに医師の診察を示す印は定期的に押されているが、病状の記述はろくにない。死亡した患者の診断書は「急性心不全」という死因が多いという。
 病棟内やトイレの掃除、食事の配ぜんは患者の仕事だった。体の不自由な患者の入浴介助やオムツの交換、植木の水やりまで、比較的元気な患者がやっていた。
 外へ連絡しようにも病棟の公衆電話はふだん隠され、郵便も握りつぶされた。

 府は年一回の精神保健福祉法による実地指導の際、患者数人を適当に選んで院内の人権状況を聞く。しかし病院側は、その日だけ、本当のことを話しそうな患者約二十人をバスで外に連れ出していた。
 「結果的に、話を聞いたのは病院に言いなりの患者ばかり。電話も自由にかけられる、という答えが返ってきた」と柳尚夫・池田保健所長は悔しがる。

◇写真=住宅地の一角に建つ箕面ヶ丘病院。目隠しのように樹木で窓を覆っている(箕面市稲5で)

情報はこちら→(病院の画像あり)Yomiuri-On-Line


◆[そして今]大阪ニュース検証 箕面ヶ丘病院問題(下)  抜き打ち調査、偽装発覚/「外部の目」導入急げ


 <大阪読売・大阪府内版2001年11月5日>

 大阪精神病院協会(大精協)には、民間四十八病院が加入する。「箕面ヶ丘病院」(箕面市稲)もその一つだ。
 大阪では一九九七年、安田系三病院(廃院)の患者虐待や劣悪医療、職員数水増しが問題になった。その反省を込め、大精協は九八年から年一回、スタッフが互いに他の病院を見学して参考にする「ピアレビュー」を実施している。しかし箕面ヶ丘病院は唯一、受け入れを拒んでいた。
 箕面ヶ丘病院の西川良雄院長は長年、大精協の会合に出ていなかったが、九九年に大精協が刊行した病院紹介では「環境療養に重点を置き、質の高いスタッフを確保」「患者さんが主体的に判断し、行動できるように閉鎖から開放へ移行」とうたっていた。
 その陰で、男女三人の患者が自由に動ける範囲を制限するため、窓の鉄格子にひもでつなぐなど違法な身体拘束が日常的に行われていた。府は、西川院長に精神保健指定医として不適切な行為があったとし、九月、処分権限を持つ厚生労働省に報告した。
 病院ではその後、非常勤の指定医を雇い、看護婦の研修を進めている。
 関山守洋・大精協会長は「とても病院とはいいがたい状態だった。三十一年前の開設時と同じ意識でやっている病院があったのは驚きで、これまで実態を知らなかったのは非常に遺憾なことだ。現代の正しい精神医療を行えるよう改善させたい。助力と指導は惜しまない」と強調する。

 府によると、病院に実際にいた職員は常勤換算で医師二人、看護職員十二人。それぞれ精神病院の医療法基準の66%、54%という少なさで、看護婦は六十―七十歳代が多かった。
 発覚を防ぐため、辞めた看護婦の名前を借り、パート職員を常勤に装ってニセ書類を作る、府の調査の時だけ人を集める、といった方法で水増しが行われた。過去に問題となった他の病院と同様の典型的な手口だった。
 こうした偽装工作に効果的なのは抜き打ち調査。今回もそれで発覚した。府精神保健福祉課の幹部は「意図的な不正には結局、抜き打ちしかないだろう。今は確度の高い情報がある場合だけだが、疑いのレベルで予告なしに入ることも検討したい」と話す。
 診療報酬上の入院基本料は看護職員一人あたりの患者数によって一日の単価が決まる。箕面ヶ丘病院が届けていたのは「精神病棟特別2」という医療法基準に満たない最低ランクで、もともと点数が低いので不正発覚に伴って返還すべき差額は巨額にならないとみられるが、本来、悪質な手段で不正受給するのは詐欺にあたる。近年、職員の大幅水増しが発覚した病院は、いずれも保険医療機関の指定が取り消されている。

 問題病院がなくならない背景には、チェック体制の不備と患者支援の不足がある。
 大阪社会保険事務局で職員配置など診療報酬の「施設基準」を担当する職員はたったの二人。受け付け事務にも追われ、実地調査すべき府内の病院、診療所は千数百か所あるのに、月二、三か所しか回れていない。
 保健所には精神障害者や家族の医療・生活相談に乗る相談員がいるが、その人数は池田保健所管内で計三人だけだ。
 箕面ヶ丘病院について、NPO大阪精神医療人権センターの山本深雪事務局長は「もともと一般科より低い精神科の基準の半分という職員数で、まともな医療ができるわけがない。何十年も時間が止まったような病院経営が放置され、精神医療全体の足を引っ張っている」と指摘する。
 府の精神保健福祉審議会は昨年五月、様々な権利擁護団体のスタッフが閉鎖病棟まで予告なしに「ぶらり訪問」して患者の相談に乗る制度を提言した。そうした「外部の目」がふだんから入るシステムを早く実現しないといけない。
      ◇
 箕面ヶ丘病院の西川院長は、読売新聞の再三の取材申し入れにも応じていない。

情報はこちら→読売新聞・科学部


<2002年2月1日朝日放送

大阪 箕面ヶ丘病院 不正請求で医療機関指定取消

医師や看護婦の数が法定基準を満たしていないのに、入院基本料などを不正に請求していたとして、大阪府箕面市の精神病院が、1日、保険医療機関の指定を取り消されました。

大阪社会保険事務局に指定を取り消されたのは、箕面市稲の「箕面ヶ丘病院」です。箕面ヶ丘病院は、去年8月、医師や看護婦の数が法定基準に満たないことや、患者への人権侵害により、大阪府の立ち入り検査を受けていました。大阪府の調べによりますと箕面ヶ丘病院では、看護婦の人数について、法定基準を上回る24人と届け出ていましたが、実際には13人しかいませんでした。医師も基準より1人少ないにもかかわらず、入院基本料を減額せずに保険請求していたと言うことです。また、実際の診療以上に診療報酬を請求していたことも分かっています。今回、院長の保険医の指定も取り消され、保険医療が行えなくなったため、箕面ヶ丘病院は、実質的に廃院となります。

情報は→Yahoo! News

関連→資料庫>不祥事>箕面ヶ丘病院



<2002年2月1日大阪読売新聞夕刊2社面>

■ [奪われた歳月]大阪・箕面ヶ丘病院(連載上)


 ◆「ポチ」と呼ばれた患者 10年ひもでつながれ  医師「人手あれば…」

 「ポチ」と呼ばれていた男性(59)に会った。様々な人権侵害が明るみに出た大阪府箕面市の精神病院「箕面ヶ丘病院」に入院していた患者だ。大勢が出入りするデイルームの一角に、ひもでつながれたまま寝起きし、用を足すのもポータブル便器。そんな違法拘束を十年近く受け、昨年八月に府の抜き打ち調査で問題が発覚、ようやく転院した。同病院は患者全員の転退院が終わり、一日、保険医療機関の指定取り消し処分を受けたが、奪われた歳月と人間の尊厳には何の償いもない。(科学部 原昌平)

 ◆半径2メートルの生活
 窓の鉄さくから腰に延びた二メートルほどの白い布ひも。その届く範囲が男性の動ける空間のすべてだった。リノリウムの床に畳一枚と布団が敷かれ、食事は便器のふたの上で食べた。ひもが外されるのは、たまの入浴と行政の立ち入り調査の時ぐらい。それでも温和な男性に、他の患者は「ポチ、元気か」と冗談半分で声をかけた。
 入院は二十数年前。精神分裂病との診断だった。法的には退院も外出も自由な任意入院なのに、「乾電池や鉛筆など目についた物を口に入れる」という理由でつながれていた。両腕が動かせない拘束衣を着せられた時期もあったという。
 拘束には、精神保健指定医の診察とカルテ記載が法律上欠かせないが、何の記録も残っていない。だから違法拘束の期間も正確にはつかめないが、関係者によると、十年前に異物を飲んで開腹手術を受けたあとは続いていたという。

 ◆あきらめ
 同病院は医師、看護婦とも法定基準の約半分という極度のスタッフ不足。状態の悪い患者を隔離する保護室もなかった。西川良雄院長は、患者が大声を出したりすると「何とかしろ」と、よく職員に命じていた。
 週一回、当直に来ていた医師は「人手があれば個々の患者に気を配れて、拘束せずに済むのにと思いつつ、言っても変わらないとあきらめていた」と語る。
 男性は生活保護で入院していた。長期入院になると、福祉事務所のワーカーはめったに訪れない。身寄りがなく、病院に苦情を言う家族もいなかった。
 同病院に長く勤めた職員はこう振り返る。「昔、府に内部告発した職員もいたが、だれが言ったか病院に伝わっただけで、何の手も打たれなかった。当初は何とかしたいと思ったけれど、めげてしまった」

 ◆償いの手立ては
 転院先で面会した男性は愛想よくほほ笑んだ。しかし病状の影響なのか、言葉はなかなか出ず、生年月日と出身地を聞き取るのがやっと。院内の生活は普通にでき、異物を口にする行動も今はないが、何かを説明したり、意思表示したりするのは難しいという。
 「民事訴訟は本人の意思が原則。後見人を立てるにもハードルが多くて……」と、障害者問題に詳しい弁護士はため息をついた。
 西川院長は、職員水増しで不正受給した診療報酬の返還請求と、精神保健指定医の資格取り消し処分を受ける見込みだが、刑事責任を問う動きはない。読売新聞の取材申し入れには応じていない。

◇写真=違法拘束が行われていた箕面ヶ丘病院。樹木で外側が覆われ、内部は見えない(箕面市稲5)
◇図=箕面ヶ丘病院の元職員が描いた男性の拘束の様子。こうした形で10年近く病棟デイルームにつながれていた。「ポータ」はポータブル便器


<2002年2月1日 大阪読売新聞夕刊2社面>

■診療報酬不正受給 「箕面ヶ丘病院」の保険指定取り消し /大阪社会保険事務局

 大阪社会保険事務局は一日、診療報酬を不正受給していた大阪府箕面市の精神病院「箕面ヶ丘病院」(百二十八床)の保険医療機関の指定と西川良雄院長の保険医登録を取り消す処分をした。
 同病院は医師、看護職員数を水増しし、実態より単価の高い入院基本料や食事療養費を得ていた。不正額が確定すれば40%のペナルティー付きで返還を求め、患者側の自己負担分の差額も返還を指導する。


<2002年2月4日大阪読売新聞夕刊>

■[奪われた歳月]大阪・箕面ヶ丘病院(連載下)
 隔離収容が作る「無気力」 手紙は燃やされ、公衆電話もなく/半数が入院20年超

 ◆おとなしすぎて…
 「『指示待ち人間』というのか、こうしなさいと言えば何でも『ハイ』。買い物を勧めても自分では選べない。病状は軽く、会話は十分できるのに、意欲がなく自己主張に乏しい」 
 箕面ヶ丘病院(大阪府箕面市)から、三人の転院患者を一月に受け入れた民間病院の院長はそう話す。
 別の病院へ移った四十代の男性も似た状態だ。二十三年いた箕面ヶ丘病院への不満を尋ねても、現在の要望を聞いても、出てこない。母親は「一生預かって下さい」と言った。
 「息子が邪魔なのではなく、精神病院はそんな所だと思っている。病院が社会復帰に取り組むなんて想像もしなかったようです」とスタッフは当惑する。

 ◆31年目の自由
 箕面ヶ丘病院に昨年八月時点で入院していた百二十一人のうち、ほぼ半数は在院が二十年を超えていた。
 病棟では「看護人」と呼ばれる無資格の男性三人が目を光らせていた。外出はできず、娯楽や運動、日光浴の機会もなく、ベッドで寝るかテレビを見て過ごす。掃除、配ぜん、体の不自由な患者の食事・入浴介助といった院内労働だけが、たばこなどと引き換えに用意されていた。
 三十一年前、病院ができた年に入院した男性(69)は毎年、府が立ち入り調査に来る日に小型バスに乗せられた。行き先もなく走り回るバスは「余計なことを言わせないため」だった。
 「いくら手紙を出しても相手に届かない。燃やされたと後から聞いた」が、調査の日だけは病棟に公衆電話が置かれた。残った患者には「自由にかけられます、と答えるんやで」と西川良雄院長が言い含めた。
 転院先では開放病棟。ほぼ毎日外出する。「自由の実感はわかないけれど、この病院も早く出て、残された時間を生かしたい」

 ◆医療の名の下に
 長い歳月を経てなお反発心を持ち続けた彼のような患者は珍しい。
 府の改善指導を受けて昨年秋、散歩や買い物に出た患者の多くは、同行した看護婦に幼児のようにしがみついて離れなかった。「外の世界がこわいんですよ」と看護婦は言った。
 「収容所症候群」という言葉がある。ナチスの強制収容所や刑務所の無期囚などで報告された現象だ。期限なき隔離収容は、無気力、無関心で、管理に従順な人間をつくるという。
 日本の精神病院の入院患者は三十三万人。その半数は入院が五年以上、二十年以上も五万人にのぼる。
 「意欲の低下や自閉傾向は精神分裂病の慢性症状とされるが、病院収容がもたらす影響も大きい」と黒田研二・大阪府立大教授(地域保健福祉)は指摘する。
 医療の名の下に人生を奪われているのは、箕面ヶ丘病院の患者だけではない。


<2002年2月2日大阪読売新聞夕刊>

■ [奪われた歳月]大阪・箕面ヶ丘病院(連載中)
 触診もせず「大丈夫や」/分裂病の治療薬1種類だけ 「30年前のまま」

 ◆腸閉そく、転院せず
 昨年十二月、箕面ヶ丘病院(大阪府箕面市)に入院していた八十歳前後の男性患者が、異常なおう吐を繰り返し、腹痛を訴えた。
 西川良雄院長は、患者に触りもせず「大丈夫や。様子を見ろ」と言い、行われたのは栄養液の点滴だけ。二日後、非常勤の内科医が聴診とエックス線撮影で腸閉そくと診断、転院を求めたものの、院長は「必要ない」と主張した。
 その後も、痛み止めと吐き気止めを別の当直医が院長の了解を得ずに出した程度。「痛い、痛い」と訴え続けた男性は、異臭のする液体を吐くようになり、六日目に息を引き取った。老人性痴ほうだが、元気に歩いていた人だった。
 以上は、複数の看護職員が証言した経過だ。
 この種の腸閉そくは、鼻からチューブを入れ腸の内容物を取り出し、それでも悪化すれば手術が基本。どちらも転院しないと不可能だった。家族は「ここでできる範囲の治療でいい」と病院に伝えていたという。
 「あんなに苦しんで。『終末医療』ともいいようがない」と職員は憤る。

 ◆熱には風邪薬
 昨年八月に府が指導するまで、詰め所にはカルテも看護記録もなく、看護職員たちは、患者の病名も家族関係も薬の処方もよくわからないまま働いていた。
 院長の回診はなく、病棟の二、三階へ上がることもめったにない。体調の悪化した患者がいると一階に運ぶが、ひと目見ただけで「はよ連れていけ」。熱を出したら一律に風邪薬、高熱でも「水は飲ますな」、腹痛でも「メシは食わせろ」。解熱剤を出しましょうかと聞くと「お前は医者か」とどなられた。職員たちはそう証言する。

 ◆物言わぬバイト医
 精神分裂病への処方は、最初に開発された治療薬のクロルプロマジンばかり。他の病院の精神科医は「まるで三十年前のまま。薬の量は少ないが、どの患者にも画一的だった」と驚く。
 院長以外の医師は何をしていたのか。患者はひと月に一、二回、副院長の診察を受けたが、「調子はどうですか」などと聞かれる程度。一分ほどで終わっていたという。
 当直のアルバイトに来ていた兵庫医大、大阪大などの医師もあまり意見は言わなかった。「明らかに内科の病気でも『精神症状のせいや。様子を見ろ』と院長は言い張った。こちらはしょせん当直ですし……」と一人は打ち明けた。
 大阪府医療対策課は「(ずさん医療や事故がいくらあっても)医療法上、個々の中身に行政は口を出せない。病院と患者、家族の間で解決してもらうしかない」という姿勢だ。


精神医療ニュース

労働情報のページ

全国精神医療労働組合協議会

事務局 : 〒604-8854 京都市中京区壬生仙念町30-2

ラボール京都4F 京都民間医労連気付

Tel/Fax: 075-811-5672

E-mail mailto:zenkoku@seirokyo.com

全国精労協ホームページへ