厚生省保健医療局国立病院部政策医療課  リスクマネージメントマニュアル作成指針
     

                                 平成12年8月22日

医療事故の定義と記録

第1 趣旨
 本指針は、国立病院、国立療養所及び国立高度専門医療センター(以下「国立病院等」という。)における医療事故の
発生防止対策及び医療事故発生時の対応方法について、国立病院等がマニュァルを作成する際の指針を示すことによ
り、各施設における医療事故防止体制の確立を促進し、もって適切かつ安全な医療の提供に資することを目的とする。

第2 医療事故防止のためのポイント
 医療事故を防止するためには、各施設及び職員個人が、事故防止の必要性・重要性を施設及び自分自身の課題と認識
して事故防止に努め、防止体制の確立を図ることが必要である。このため、各施設は、本指針を活用して、施設ごとに
医療事故防止対策検討委員会を設置し、施設内の関係者の協議のもとに、独自の事故防止マニュアルを作成するととも
に、ヒヤリ・ハット事例及び医療事故の分析評価並びにマニュアルの定期的な見直しを行うことにより、事故防止対策
の強化充実を図る必要がある。

第3 用語の定義
1医療事故
 医療に関わる場所で、医療の全過程において発生するすべての人身事故で、以下の場合を含む。なお、医療従事者の
過誤、過失の有無を問わない。
ア 死亡、生命の危険、病状の悪化等の身体的被害及び苦痛、不安等の精神的被害が生じた場合。
イ 患者が廊下で転倒し負傷した事例のように、医療行為とは直接関係しない場合。
ウ 患者についてだけでなく、注射針の誤刺のように、医療従事者に被害が生じた場合。

2医療過誤
 医療事故の一類型であつて、医療従事者が、医療の遂行において、医療的準則に違反して患者に被害を発生させた行
為。

3ヒヤリ・ハット事例
 患者に被害を及ぼすことはなかったが、日常診療の現場で、"ヒヤリ"としたり、"ハッ"とした経験を有する事例。
 具体的には、ある医療行為が、@患者には実施されなかったが、仮に実施されたとすれば、何らかの被害が予測され
る場合、A患者には実施されたが、結果的に被害がなく、またその後の観察も不要であった場合等を指す。

(別添2)
事故防止の要点と対策
○人工呼吸器
○輸血
○注射
○与薬
○麻薬
○手術
○窒息
○酸素吸入
○気管切開(気管カニューレ装着)
○転倒・転落
○入浴

第7 医療事故発生時の対応
4 事実経過の記録
(1)医師、看護婦等は、患者の状況、処置の方法、患者及び家族への説明内容等を、診療録、看護記録等に詳細に記載
する。
(2)記録に当たっては、具体的に以下の事項に留意する。
 ア 初期対応が終了次第、速やかに記載すること。
 イ 事故の種類、患者の状況に応じ、出来る限り経時的に記載を行うこと
 ウ 事実を客観的に記載すること(想像や憶測に基づく記載を行わない)。
 エ 記録は、関係職員全員により確認し、追加・訂正の必要がある場合には、適正に行うこと。


看護管理者のためのリスクマネジメントガイドライン
組織でとりくむ医療事故防止
日本看護協会 1999年9月

1章 リスクマネジメントと医療事故防止
1.医療におけるリスクマネジメント
1)リスクマネジメントとは
 リスクとは一般に、「危機」や「危険」という意味を表します。リスクを「危険」というときには、@「事故発生の
可能性」、A「事故それ自体」、B「事故の発生の条件、事情、状況、要因、環境」の三様の意味に近いといわれてい
まず。

 リスクマネジメントとは、「マネジメント一般の領域にある専門分野の1つであり、組織がその使命や理念を達成す
るために、その資産や活動に及ぼすリスクの影響からもっとも費用効率よく組織を守るための、一連のプロセス」で
す。
 リスクマネジメントは、「リスクの把握」「リスクの分析」「リスクヘの対応」「対応の評価」ヒいう一連のプロセ
スで行われます。このプロセスは、看護過程と同様、問題解決プロセスです。

 リスクマネジメントでは、「人間はエラーを起こす」ということを前提として、そのエラーが事故へつながらないよ
うにマネジメントします。

2)医療におけるリスクマネジメントとは
 医療におけるリスクマネジメントと産業界のそれとの違いは、後者が組織の損害防止に主たる目的がおかれているこ
とです。
 医療におけるリスクマネジメントの目的は、事故防止活動などを通して、組織の損失を最小に抑え、"医療の質を保
証する"ことと考えられます。

 医療における組織の損失とは、単に経済的損失だけではなく、患者・家族、来院者および職員や、病院の信頼が損な
われるなどの様々な損失が考えられます。看護管理者は医療の質の保障を目的として、リスクマネジメントの考え方を
取り入れ、その手法を生かしていく必要があります。

3)看護におけるリスクマネジメント
 看護におけるリスクマネジメントは、関連部門と連携をしながら、リスクマネジメントの手法を用いて、患者・家
族、来院者および職員の安全と安楽を確保することです。その結果看護の質を保証し、医療の質保証に貢献することに
なります。

 看護実践の場で、考えられるリスクとしては、「転倒・転落」「誤薬」「患者誤認」「針刺し事故」「院内感染」
「患者への又は患者からの暴力」「盗難」「災害」などがあり、これらのリスクを適切にマネジメントすることが必要
です。

 本ガイドラインは、リスクマネジメントの考え方を提示するとともに、看護現場で多く見られる事故の分析と防止策
のいくつかを紹介しています。また、具体的に現場で使用できる資料も添付しました。現場の看護管理者が、この冊子
をガイドラインとして、それぞれの現場に即した医療事故防止策を考えていただくことを期待しています。さらに看護
部門のみで取り組むのではなく、組織として医療事故防止策がとられるように組織に働きかけていくことが重要です。
看護管理者が医療事故防止に重要な役割が果たせることを自覚し、積極的にその役割を引き受けていくことがリスクマ
ネジメントを効果的に行う鍵となるでしょう。

2.医療におけるリスクマネジメントに関する用語の整理
 リスクマネジメントに関連した用語を以下のように整理しました。医療事故には、患者ばかりでなく医療従事者が被
患者である場合も含み、また廊下で転倒した場合のように医療行為とは直接関係しないものも含まれます。医療事故の
すべてに医療提供者の過失があるというわけではなく、「過失のない医療事故」と「過失のある医療事故」を分けて考
える必要があります。

医療事故と医療過誤
【医療事故】医療従事者が行う業務上の事故の内、過失が存在するものと不可抗力(偶然)によるものの両方を含めたも
の。
【医療過誤】医療従事者が行う業務上の事故の内、過失の存在を前提としたもの。

過失:行為の違法性、すなわち客観的注意義務違反をいう。注意義務は結果発生予見義務と結果発生回避注意義務とに
分けられる。

インシデントと事故(アクシデント)
【インシデント】思いがけない出来事「偶発事象」で、これに対して適切な処理が行われないと事故となる可能性のあ
る事象である。現場ではこれを「ヒヤリ」「ハッと」と表現することもある。インシデントについての情報を把握・分
析するための報告書をインシデントレポートという。「ヒヤリ・ハッと報告書j「ニアミス報告書」とも表現される場
合がある。
【事故】(アクシデント)インシデントに気付かなかったり、適切な処置が行われないと、傷害が発生し「事故」とな
る。医療におけるリスクマネジメントで取り扱う「事故」とは、患者だけでなく、来院者、職員に傷害が発生した場合
を含む。事故報告書は、事故に関する情報収集をし分析するための報告書である。

エラー
【エラー】人の誤り全般を指す。ミステイクとスリップが含まれる。

ミステイク:意識的に不適切な目標を選んでしまう誤り。
スリップ:目標を行為に移す過程で無意識的に発生した、目標とは異なった行為。

2章 組織として事故防止に取り組む
2.看護部としての取り組み
8)記録に関する注意事項の明文化
 日本看護協会「看護業務基準」(1995年)の中で、看護の記録を次のように規定しています。
 看護実践の一連の過程の記録は、看護職者の思考と行為を示すものである。吟味された記録は、他のケア提供者との
情報の共有や、ケアの連続性、一貫性に寄与するだけでなく、ケアの評価やケアの向上開発の貴重な資料となる。必要
な看護情報をいかに効率よく、利用しやすい形で記録するかが重要である。
 看護記録の様式や具体的な注意事項について明文化しておきます。
 記録作成の基準を作成するために次のような事項が参考になるでしょう(表2)。

表2 看護記録の記載上のルール
■記縁作成上の注意
 看護記録は、日常の活動に活用するために正確かつ簡潔であること、また、分かりやすく読みやすいことが要であ
る。それには「必要なことはもれなく記述し、必要でないことは一つも書かないことが仕事の文書を書くときの第一の
原則である」を心がけたい。
 さらに研究資料として、法的資料として保存し活用するものであるので、次の記載上の注意が必要である。
 @記入には黒インク、または黒のボールペンを活用する。
 A略語、記号は定められたものを使用する。
 B記載内容の修正は横線を2本引いて書き改める。修正液は使用しない。
 C日付と責任を明記する。
(社)日本看護協会看護婦職能委員会編「看護婦業務指針」日本看護協会出版会、p208、1995,より抜粋

■記緑の基準−その本質的要素
13.1読みやすく、消すことができない方法で記載する
13.2わかりやすく、明確である
13.3日時に関する記載はどれも正確である
13.4変更は1本の線を引いて消した後、署名と日時とともに正しく記載する
13.5既存の記載に書き加える際は、一つ一つ日時と署名を記入する
13.6略語、意味のない語句ならびに、患者のケアおよび関連する観察に関係のない攻撃的主観的な表現をしない
13.7主要な記載にはイニシャルを使用してはならない。他の記載に関し、イニシャルの使用が許可されている場合で
も、そのイニシャルや署名が誰のものであるかわかるようにしておく
13.8鉛筆や青インクでの記載はしない。鉛筆は消されるおそれがあり、青インクはコピーするとあまりよく写らない
からである
英国看護・助産・訪問看護中央審議会(UKCC(岩井郁子ほか訳):看護記録および管理の基準、看護、51(13)、p.51、よ
り抜粋
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2002/07/10 06:02:37;51460;f6876db868v;RETR;ok;/htdocs/archive/news/hushoujiken/medical_accident.html