• 医療訴訟起こされそうなら カルテコピー「渡さぬ」26%  主要病院本社調査
                              <朝日新聞2001年2月28日>
     訴訟を起こされる恐れがある場合はカルテのコピーを渡さない。こうした考えの病院が四つに一つ、二六%に上る−−−。全国の主要な病院を対象に朝日新聞社が実施したアンケートで、こんな実態が分かった。大学病院などでも五分の一が訴訟を前提としたカルテのコピーには応じないとしており、民間病院にいたっては三分の一に上る。来月一日から改正医療法で病院の広告にカルテの開示状況を盛り込めるようになる。しかし「カルテ開示」をうたう病院でも、愚者が本当に必要なときにもらえないこともあり得る。(3面に解説)

     アンケートは、高度な医療を行う大学病院など「特定機能病院」など八十二施設(回答率約九割)▽医師免許を取った医師が研修を積む「臨床研修指定病院」二百五十九施設(回答率約七割)▽医療法人の民間病院でベッド数が各都道府県で上位五位以内の二百三十八施設(回答率約三割)、計五百七十九施設で、昨年暮れに調査票を郵送した。

     「患者や家族・遺族から求められたらカルテを開示しますか」という質問に、「開示すると答えた病院は二三%、「一定の条件を満たした場合に開示する」は七四%、合わせて九七%だった。

     カルテの開示方法には@閲覧してもらうAコピーを渡すB内容を要約した文書を渡す、などがある。

     そこで、患者側から訴訟が起こされることが予想される場合に、カルテのコピーを渡すかどうか質問した。条件付きも含めてルテを開示する病院のうち「渡す」は七〇%と多数を占めた。

     一方、「渡さない」は二六%あった。大学病院などの特定機能病院は「渡さない」二一%、臨床研修指定病院は二六%、医療法人では三四%だった。訴訟への警戒くっきりカルテ開示アンケート公的な病院も否定的
     朝日新聞社が実施した主要病院アンケートで、訴訟が予想されるとカルテのコピーをもらえないケースがけっして少なくないことがわかった。「信頼関係に基づいたカルテ開示」というお題目から透けて見えるのは、医療機関の訴訟に対する警戒感だ。

     患者がカルテのコピーを求めるのは、多くの場合、治療に疑問を感じたり、不信感を持ったりしたときだろう。ところが、日本医師会が定めた「診療情報の提供に関する指針」は、「裁判問題を前提とする場合」をカルテ開示の対象外にしている。

     「医師と患者が信頼関係を保ちながら、共同して疾病を克服することを目的とする」との指針の趣旨からはずれるからだという。

     ただ、患者がカルテ開示を求めてきたとき、それが、裁判を前提としているのかどうかを判断するのは医師側だ。つまり、患者や家族が事実を知りたいと思っているだけでも、医師が「裁判を起こされる可能性がある」と判断すれば、開示しないことができる。

     アンケートでは、日本医師会の指針に拘束されない大学病院や公的病院でも、訴訟を前提としたカルテのコピーには否定的な回答が少なくない。医療事故が相次ぎ、患者側との関係に神経をとがらせていることをうかがわせる。

     ある国立病院は「お互いの不信を裏付ける目的に(カルテが)用いられるのは、本来の目的でないことを知ってほしい」と記していた。しかし、患者が訴訟を準備していたとしても、医師が誠実に説明することで、患者側の疑問や不信、勘違いが解消し、「信頼関係」を取り戻すことができる場合だってあるだろう。

     がんの告知など難しい面はあるにしろ、患者にとっては、訴訟が前提であろうがなかろうが、カルテ開示を求めるのは当然の権利のはずだ。             (くらし編集部・佐藤純)
  • 医療事故 1つの病院  年平均130件  日本病院会調べ 2001.01.29

     日本病院会はこのほど、会員の病院に対する医療事故アンケートの結果をまとめた。ヒヤリとしたケース(インシデント)も含め、一つの病院で年に平均百三十件の事例が報告されている。なかでは転倒・転落が二四%で最も多く、薬の量の誤認が九%、薬の種類の誤認が八%となっている。患者誤認も七%あった。

     アンケートは昨年六月、会員二千五百五十七病院に郵送し、無記名方式で六百八病院から回答があった。
     報告のうち、インシデントを除く事故=アクシデントが三一%を占める。生命への危険度が高いと申告されたのが七%に上る。
     アクシデントの報告者は、看護婦の八三%に対し、医師は六%、薬剤師が四%。昼間の日勤帯が一番多く五五%、人手の少ない準夜勤帯と深夜勤帯がともに二三%だった。

     アクシデントは、注射(二八%)と内服(一四%)が飛び抜けて多い。病院側は、不注意(二八%)、思い込み(一五%)などを原因に挙げている。

     八○%の病院で、医療事故対策の委員会を設置している。だが、専任のリスクマネジャーがいるのは二五%に過ぎない。事故対策を始めて、「事故が減った」という二七%に対し、「変わらない」が三八%いた。

    医療ミス 1病院で年130件  日本病院会アンケート 注射、投薬多く 毎日新聞2001年1月30日火曜日

     社団法人「日本病院会」(会長、中山耕作・聖隷浜松病院総長)が会員の病院を対象に初めて実施したアンケートで、
    1病院当たりの年間事故報告件数は平均約130件に上ることが29日、分かった。うち7割は、誤った手順や指示による
    事故すれすれの"未遂"例で、実際に起きた事故例は3割だった。

     調査は昨年6〜7月に会員の国公立・民間病院2557施設を対象に実施。608施設から回答を得た。事故例のうち、日
    勤帯は55%で、人手の手薄な夜間帯を上回った。事故原因では不注意、思い込みが4割を超え、事故の担当者の健康状
    態についても、疲労していたのは6%で、病院会は「慣れが災いした」とみている。

     事故例の報告の83%は看護婦・士で、次いで医師の6%。事故発生時の状況では、注射(28%)、内服投薬(14%)が目
    立った。種類別では、患者の転倒・転落が24%で最も多く、薬剤量の誤認(9.3%)▽薬剤種類誤認(8.3%)▽患者誤認
    (7.4%)が続いた。患者の生命への危険度は「ない」との回答が54%だったが、「高い」例も6.8%あった。

     事故報告書の提出を職員に義務付けている病院は全体の93%に上ったほか、医療事故対策委員会も80%で設置して
    いた。しかし、専任のリスクマネジャー(安全管理者)がいるのは4分の1にとどまった。

     病院会は「事故防止のためにはまず実態の把握が必要と判断して調査した。日常の医療の中で重大な事故に至るまで
    に、被害を最小限に抑えるシステムの構築が必要で、この結果を下敷きに安全対策を検討したい」と話している。
    【長尾 真輔】

    医療監視 後手の行政  病院不祥事防止の手だては   

    朝日新聞2001年1月23日
     患者への不適切な医療行為が問題になった埼玉県の精神病院・朝倉病院や、准看護士が殺人未遂容疑で逮捕された仙
    台市の診療所「北陵クリニック」に、行政が相次いで立ち入った。問題が表面化してからの実態調査は、遅きに失した
    感がぬぐえない。外部の目にさらされず密室と化した医療現場では、故意にしろ過失にしろ、間違った医療行為が見逃
    されると、患者の命が奪われることになる。行政のチェックを含め、もっと早く防ぐ手だてはなかったのだろうか。
    (くらし編集部・大和久将志)

    見抜けぬ偽装工作

     行政が病院や診療所に立ち入り、内情をチェックする手段はいくつかある=表。医療法に基づく立ち入り検査(医療
    監視)では、都道府県や保健所の担当者が、原則として年一回、すべての病院を回る。主に書類を見て、スタッフの数
    や施設の状態を確認する。
     これまで病院をめぐる事件が表面化するたぴに、医療監視の強化が求められてきた。その代表例が、一九九七年に院
    長が逮捕された大阪府の安田病院だ。看護職員数を水増しし、診療報酬を不正に受け取っていたとして、院長は実刑判
    決を受けた。
     この事件にかかわった大阪市保健所の担当者は「病院側の偽装工作が巧妙だった」と振り返る。書類上は「完ぺき」
    だった。裏勤務表や裏帳簿。立ち入り検査に行くと、架空の看護婦が働いたことになっているタイムカードや勤務表を
    出された。そういった看護婦の所得税や住民税、社会保険料も病院が支払っていた。面接では、実際にはいない看護婦
    に別人がなりすまし、偽証する。
     その「偽装」を見破るために、担当者が一人ひとりの看護婦の自宅を訪ね歩き、本当に勤務しているかどうかを調べ
    て回った。七割以上が実際には働いていなかったことを突き止めるのに、半年の時間がかかった。その間、通常の医療
    監視は、ほとんどできなかったという。
     結果的に行政は、こうした事態を長年見逃してきたことになる。この担当者は「通常の医療監視は、半日とかで書類
    をさっと見るだけなので、ここまでされると見抜けない」と打ち明ける。

    「性善説」で骨抜き

     医療法に、こんな条文がある。
     「犯罪捜査のために認められたものとは解釈してはならない」
     立ち入り検査の権限について定めた条文だ。
     東京都の担当者の一人は、こう説く。「医療法は、医療に携わる人に悪い人はいないという性善説に立っている。だ
    から強制力がなく、確信犯に弱い」
     厚生労働省の医療監視専門官の見解もこうだ。「医療監視は、病院運営が適正になされていることを確認しに行くの
    であって、『不適切』が前提ではない」
     厚生労働省は、安田病院の事件以降、医療監視を強化する通知を全国に出した。それまで、医療監視に入る日を病院
    側に知らせていたが、予告なしの「抜き打ち監視」を導入した。
     だが現実には、その後もほとんど「抜き打ち」は実施できていない。病院と有床診療所を合わせて年に三百カ所以上
    回る大阪市でも、そのうち二、三件程度だという。
     多くの自治体担当者は「よほど疑わしくないと抜き打ちはできない」と口をそろえる。事前に書類がそろっていない
    と時問がかかる。責任者が不在で出直す羽目になりかねない。何より気にするのは、抜き打ちで監視に入っても、不正
    が見つからなかったら、どうするか。
     医療法の精神が、こんなところにも影響を与えている。
     「医者や病院が悪いことをするはずはない」という性善説が、医療監視を骨抜きにしている。
     北陵クリニックと同じ宮城県内のある病院は、最近になって、筋弛緩剤を、ナースステーションなどのかぎのかかる
    保管庫に入れた。
     それまでは、かぎのかからないカートに入れ、外来窓口や病棟に置いていた。薬事法の規定には従っていなかった
    が、緊急の治療で必要になる場合があるからだ。北陵クリニックの事件があって、保管方法を正した。
     この病院は毎年、医療監視を受けている。しかし、この点で指摘を受けたことは一度もない。病院の職員は「時間的
    な制約であらゆる項目をチェックする余裕がないのだろう」と話す。
     医療監視の対象となっている病院でさえ、十分な監視が行われているとは言えない。自治体のなかには、北陵クリニ
    ックのような有床診療所に対して、医療監視さえ実施していないところもある。仙台市がそうだった。
     定期的に医療監視している自治体で二、三年に一度がせいぜい。無床診療所ともなれば、外部の目はほとんど行き届
    かないのが実情だ。
     昨年四月の地方分権法施行に伴い、特定機能病院以外の医療監視に国が関与できなくなり、厚生労働省は各自治体の
    監視実態も把握していない。

    「調査機関創設を」

     埼玉県の朝倉病院では、必要がない患者にまで中心静脈栄養(IVH)の治療を施すなど医療の質が問われた。埼玉県
    は、毎年、医療監視を実施していた。看護婦や医師の数が基準に達していないため指導を繰り返したが、これらのIVH
    の乱用には気付かなかった。
     埼玉県の担当者は「医療監視では医療の内容まで見ていない。医師の裁量権があり、なかなか踏み込めない」と話
    す。
     安田病院にしろ、朝倉病院にしろ、内部告発があってマスコミが取り上げ、やっと問題が表面化した。
     行政のチェックは形式的なうえ、人手不足で手が回らない。とすれば、病院や診療所の不祥事で患者が被害にあわな
    いためには、どうしたらいいのだろう。
     イギリスでは、医師がモルヒネで患者を大量に殺害していた事件を受けて、医師の診療内容などを監視する機関を作
    ることにしている。
     医事評論家の水野肇さんは「職員や患者がおかしいと思ったら、すぐに駆け込める場が必要だ」と話す。今の行政機
    関では、訴えがあっても素早く手が打てない。ならば、医療関係者や弁護士らをそろえ、調査権を持った機関を創設す
    ればいいと言うのだ。
     関西にある保健所の担当者は、現状の非力を認めたうえで指摘する。「診療所は病院のような人員などの基準も少な
    い。野放しにしておくのはリスクが大きい。ただ、監視を強化するには人手がいる。国民のコンセンサスが必要だ」

    =====行政が病院をチェックするのは=====
    根拠法     名称       頻度      内容
    医療法     立入検査     原則年1回   職員数や設備など
    薬事法     立入検査     問題があれば  薬剤管理
    精神保健福祉法 実地指導     原則年1回   入院患者の処遇など
    健康保険法   指導・監査    問題があれば  診療報酬・不正請求
    国民健康保険法 指導・監査    問題があれば  診療報酬・不正請求

    患者本人には無条件  カルテ開示のガイドライン 枚方市民病院が作成

       朝日新聞2000年12月15日

     患者のカルテ改ざんなど一連の事件が起きた枚方市の市立枚方市民病院は十四日、インフォームド・コンセント(十
    分な説明に基づく同意)のガイドラインを作成した。患者の診療録(カルテ)や看護記録は、患者本人には無条件で開示
    し、遺族に対しては市個人情報保護条例の枠内で開示する。市側は「厚生省のカルテ開示基準がまだ決まっていないの
    で運用面で対応した」と説明している。

     ガイドラインは「患者様用」と「医療従事者用」が作成された。インフォームド・コンセントでは、病名や予定して
    いる検査・治療方法の説明のほか、今後予想される合併症や副作用を合わせて説明するとしている。カルテなどの開示
    については、患者用には市個人情報保護条例に基づく開示(閲覧・写しの交付)と記載し、医療従事者用で「開示を行う
    ことが可能」と明記しているが、市は「患者本人に対しては無条件で開示する」としている。
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