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精神医療ニュース 過去記事 精神医療ニュース 過去記事 2002年2月分 <2002年2月28日毎日新聞>
精神障害者 イメージ調査で「先入観の恐れ」指摘 奈良市中止
市民が精神障害者に対して持つイメージを調べるため奈良市社会福祉協議会(会長・大川靖則市長)が実施したアンケートが、精神病患者や家族らから「精神障害者への誤った先入観を与える恐れがある」と指摘を受け、中止されていたことが28日、分かった。市社協の植田敏・総務課長は「誤解や偏見の実態を探り、根絶するための資料にするつもりだった。患者側の意見を真摯(しんし)に受け止め、より良いアンケートを行いたい」と話している。
アンケートは市社協が研究者らと合同で設けた作業グループで作成。「精神病にかかった人はすべて危険である」など20項目の設問に対し、「そう思う」「そう思わない」「どちらともいえない」など5段階で回答する内容。今月23日から3月下旬までに市内10カ所で開く「福祉のまちづくりを考える集い」で、参加者約1000人を対象に調査する予定だった。
23日に最初の約190人に調査したところ、翌日、精神病患者や家族らでつくる団体「ともしび会」から「大半が精神障害者を否定的にとらえた内容。障害者本人が見たときのショックは大きい」などの指摘があり、中止を決めた。
情報は→Yahoo! News
<2002年2月25日毎日新聞><簡易鑑定>「精神障害」認定に格差 毎日新聞全国調査
検察官が容疑者の刑事責任能力の有無を判断するため起訴前に行う簡易鑑定の運用実態(00年)が、毎日新聞の調べで初めて分かった。大都市圏の地検に限っても、
不透明と指摘されていた簡易鑑定に「統一的な基準」を求める意見がさらに強まりそうだ。
毎日新聞が全国50地検(支部を含む)にアンケート用紙を送り、法務省を通じて回答を得た(栃木県では警察が行う慣例のため、宇都宮地検の実績はない)。
地検別診断数は、東京の326人を筆頭に、横浜、大阪、京都、神戸、名古屋、福岡の大都市圏で100人を超えた。
この7地検のうち、簡易鑑定を担当した医師1人当たりの診断者数は大阪が128・5人と最も多く、最少の福岡(5・1人)の25倍にも上る。診断者総数に占める精神障害者と認定された人の割合で比較すると、大阪(92・2%)と京都(41・9%)の間で約50ポイントの差がある。
また、精神障害者と認定された人が不起訴となった割合は、
厚生労働省の精神医療審査会の適正化に関する研究班のメンバーで千葉県精神科医療センターの平田豊明診療部長は「精神科医の間にもこうしたデータはこれまで公開されていなかった。医師1人当たりの診断者数が多い『寡占型』地検では精神障害を広く認定する代わりに、起訴率も高いという傾向が見られるが、個別の事情を割り引いても精神障害者の診断率や不起訴率はばらつきがありすぎる。ガイドラインを早急に作る必要がある」と話している。 【精神医療取材班】
法務省大臣官房の杉山治樹参事官の話 簡易鑑定に批判があることは承知しており、必要な改善はしていく。まず、鑑定書の書式を整えて、検察官が医師に意見を求める基準を定めるなどの方法は有用ではないかと考えている。
◇簡易鑑定 検察官が容疑者の責任能力の有無を判断するため、起訴前に精神科医ら専門家に依頼する精神鑑定のうち、容疑者から承諾書を得て、心理テストや問診など簡易な方法で行う鑑定。裁判所の令状に基づき、2、3カ月かけて行う正規の鑑定と区別されている。
× × ×
検察官が容疑者の刑事責任能力の有無を判断するために行う簡易鑑定で、各地検の運用(00年)に大きな差がある実態が明らかになった。法務省は「各地検の例年の運用に大きな変化はない」(大臣官房)とみており、恒常的な格差といえる。重大事件を起こした精神障害者の処遇をめぐり、政府が今国会に提出予定の法案では、簡易鑑定の問題は触れられておらず、精神障害者の人権に配慮するためには、不透明と批判が強い運用を改善する早急な対応が不可欠だ。
ばらつきを全国的にみると、鑑定実績がない宇都宮地検以外の49地検のうち、精神障害者と認定した割合が8割を超えた地検が16あったのに対し、5割未満も12地検あった。精神障害者と認定した人が不起訴となった割合でも、8割以上は11地検ある一方、5割未満も14地検あった。
医師1人当たりが扱う鑑定数も大きな格差があるが、精神科医の間では「日常業務と鑑定の手間を考えると、1人月1件程度が妥当」ともされており、「1人で年間100件以上も扱う医師がまともな鑑定をできるのか」との指摘が出ている。
簡易鑑定を担当した医師に地検が支払う報酬は全国平均で1件当たり5万2000円。鑑定医の選任方法について最も多いのは「実績ある医師に依頼している」(27地検)だった。
簡易鑑定は、精神医レベルで全国共通の診断基準がないだけでなく、鑑定するかどうかの判断も個々の検察官の裁量に委ねられていて、統一的なマニュアルはない。統一基準がないと、精神障害者が地域で異なる処遇を受けることが今回の調査結果で裏付けられたといえる。 【精神医療取材班】
情報は→Yahoo! News
<2002年2月21日毎日新聞>宅間被告 人格障害と診断した精神科医「性格傾向」と証言
大阪教育大付属池田小学校の乱入殺傷事件で殺人、殺人未遂罪などに問われた無職、宅間守被告(38)の第4回公判が大阪地裁であり、99年前後に宅間被告を診察して「人格障害の要素が高い」と診断した精神科医が、「発想・思考の様子から、(精神分裂病でなく)性格傾向によるものの可能性が高いと思った」と証言した。情報は→Yahoo! News
<2002年2月15日朝日新聞>触法精神障害者の入院施設、全国30カ所800床を想定
重大な犯罪行為をしながら刑事責任能力がないとされた精神障害者の処遇問題で、患者を入院させる施設として、政府が全国で約30カ所、800〜900床の確保を検討していることがわかった。国公立病院が中心になる。来年度中に関東地方と西日本にある国立病院にまず2カ所新設し、10年間で順次増やしていく。
厚生労働省によると、病棟は独立させて出入り口を規制する。病室は原則として個室にして、他人に危害を加える恐れのある場合はドアを施錠できる仕組みにする。医師、看護婦とも現行より手厚くする。
また、通院のための医療機関には、国公立だけでなく民間の病院も含める。患者が通いやすいよう、できるだけ多く指定したいという。入・通院にかかる医療費は全額国が負担する。
政府は、今国会に関連法案を提出する処遇制度案の骨子を、14日の自民党プロジェクトチーム(PT)に示した。
それによると、患者の入・通院については、裁判官と精神科医各1人でつくる合議体が、必要に応じて精神保健福祉士(PSW)らの意見を聞きながら、「再犯のおそれ」などを基準に決定する。退院後のアフターケアは全国の保護観察所が中心になって担うことになる。
同党PTは政府案を大筋で了承したが、患者の社会復帰のために新設される「精神保健観察官」の確保や、専門医療機関の整備について質問が相次いだ。「再犯を防ぐだけでなく、初犯対策も充実させるべきだ」「精神医療全体の底上げ策抜きには決められない」などの意見も出た。
法案骨子の最終的な取り扱いは、15日に開かれる与党PTに一任された。
情報は→asahi.com
- 新法骨子関連 2002年2月14日
- ・自由民主党 触法及び精神医療に関するプロジェクトチーム第11回会合 <議事次第>
- ・重大な触法行為をした精神障害者に対する新たな処遇制度(案)の骨子
- ・精神障害者の保健・医療・福祉の総合計画(仮称)に盛り込むことを検討中の主な内容
- ・触法処遇制度(案)骨子【図】
<2002年2月4日毎日新聞>
■(1)「防止」求め異例の和解 通院男性に刺された女性の遺族
病院「退院後のケア」実行姉が広げたスクラップブックは、96年1月の「和解」で終わっていた。
ロックバンド「プリンセス・プリンセス」にあこがれ、貯金でドラムを買ったばかりだった。89年7月。恭子さん(仮名)は札幌市の地下鉄駅構内で、精神科に通院中の男性に刺され、亡くなった。当時16歳。男性は心神喪失で不起訴処分とされ、遺族は病院に賠償を求めて提訴したが、3年後に和解した。
≪事件防止のため、被告は精神医療を充実させる努力をする≫≪原告らは請求を放棄する≫
「お金」でなく、「防止」を求めた異例の和解文を考えたのは、恭子さんの姉貴子さん(34)=仮名=だった。妹の13回忌を終え、貴子さんは言った。「病院に伝えてください。『あの和解は今も精神医療と福祉の現場で生かされていると信じています』と」
■ ■
訴えられた病院は、札幌市郊外に建つ。男性は事件の1年前に退院。2週間に1回薬を取りに来たが、診療は半年間で1度だけだった。過去に事件を起こしたことはなかった。今は他の病院に入院している。
事件後、病院は共同住宅を倍増し、退院後の生活訓練に力を入れる。就職先がない人はアルバイトに採用し、患者に体験談を話させている。
当時男性を担当したケースワーカーは「何度もカルテを読み直したが、事件の兆候は見当たらなかった」と振り返る。生活状況の把握が大事だと痛感し、デイケアが中断しがちな患者の家庭訪問を徹底させた。母を刺殺した患者が退院後、顔を見せなくなったことがあった。アパートを訪ねると、一升瓶が転がっていた。再入院し、今は共同住宅で暮らす患者は「病院の人が来てくれなかったら、今ころどうなっていたか」と話した。
それでも、わずか6人のケースワーカーで年数百人の退院患者全員をフォローするには至らない。「精神科の診療点数は他の診療科より低い。今の体制で頑張るしかない」。院長は他機関との連携に期待する。
地域は事件後どこまで変化したか。同市精神障害者家族連合会の水口祥次会長は「体制が整えば、事件は1割に減るはず」と話し、医療と患者・家族をつなぐ地域生活支援センターの増設を訴える。しかし、推定2万人の精神障害者が暮らす同市に、センターはまだ1カ所しかない。
■ ■
父は憤りにかられ、何度も男性の自宅に足を運んだ。母は仏壇の前から離れず泣き暮らした。「私がしっかりしなければ」。弁護士と訴訟の準備を始めた貴子さんは、医学書や記事を読むうちに疑問がわいてきた。「精神障害者とは、どんな人たちなのか」。家族会の会合に参加した。出会ったのは、偏見におびえながら暮らす当事者と、病状が急変しても救急医療を受けられず苦悩する老親たちだった。
「加害者側への怒りはあるが、制裁や隔離で事件は防げない。医療や福祉を充実させ、症状が安定する環境を作ってこそ、妹の死が意味を持つ」。6年半をかけてたどり着いた結論だった。
和解後、貴子さんは発達障害がある二女を出産した。「親亡き後、娘は生きていけるのか」。かつて家族会で出会った親たちの姿に、自らをダブらせるようになった。
× ×
重大事件を起こした精神障害者の処遇を定める新法づくりが、大詰めを迎えている。現行制度・体制の見直しが不十分なままで、悲劇を減らすことができるのか。事件の当事者が訴える「教訓」を伝える。
【精神医療取材班】=つづく(写真説明文)
「あの事件は防げなかったのか」。男性を担当したケースワー力一(右)は、今も自分に問いかけながら患者に接するという=札幌市で
<2002年2月5日毎日新聞>
■(2) 行政の対応 後手に 家庭訪問で刺された保健婦
「一人手なければ人権守れない」小雨降る午後だった。ベテラン保健婦の妙子さん(44)=仮名=は東京都内にある男性のマンションを訪ねた。99年5月。この男性の母親から「息子が落ち着かない」と相談を受けていた。
同行した母親がドアのすき間から、男性に声をかける。返ってきたのは怒鳴り声だった。「無理に会うことはない」。帰ろうとした瞬間、ドアが開いた。何度かの衝撃。気づくと血だまりに倒れていた。男性が使った果物ナイフが見えた。
男性は約15年前から、「主治医と合わない」と病院や施設を次々と変え、3年近く通院が途絶えていた。妙子さんは100針縫う手術を受け、一命はとりとめた。しかし、人とすれ違うと殴られるような恐怖に襲われ、心的外傷後ストレス障害(PTSD)と診断された。
「同じことを起こさぬよう、同僚に事件のことを伝えたい」。妙子さんは状況をまとめて上司に渡したが、「事件を公表しない方が本人にも周囲にもいい」との考えから、区の反応は鈍かった。事件の衝撃と後手に回った対応は、保健婦の間に不安を広げ、訪問をためらう声すら出た。約1年後、区はようやく対策の検討を始め、今月にも訪問活動のガイドラインを完成させる。
■ ■
保健婦は乳幼児、高齢者、難病患者らを幅広くフォローする。精神障害者の相談、訪問をも担うようになったのは、ライシャワー駐日米大使刺傷事件を契機にした精神衛生法改正(65年)以降だ。
保健所が都から区に移管された75年、妙子さんの事件が起きた区では精神保健福祉関連の訪問件数は753件で、全体の18%だった。それがOO年には3130件、全体の50%になった。25年間で訪問件数は4倍となり、ひきこもりなど複雑な事例への対応も迫られるようになった。
妙子さん一人で人口約8000人の地区をカバーしていて、「困難な事例の検討会を開く時間もなかった」。
世間の目に映りにくい第一線の保健婦に、重圧がのしかかる。保健所の課長は「これまでは保健婦個人に頼りきりだった。今後は、医師のアドバイスも受けて、組織的にかかわっていくようにしたい」と述べ、ケア体制作りに取り組む考えを示した。
■ ■
男性は現在、先進的な入所施設で社会復帰の訓練を受けている。自分の病気がどんな病気か、服薬と診療がなぜ必要かも授業で学んだ。「保健婦さんに悪いことをした」とも話すようになった。妙子さんは、新法作りを進める政府の検討会に手紙を
送っている。だが、国の対策に自分の「痛み」が生かされているという実感はない。「地域福祉の中核を担う保健婦が多忙な余り、患者と不幸な関係になってしまうのは悲しい。事件を起こした人の処遇を誰が判定するかばかり注目されているけれど、患者の地域生活を支えるマンパワーと体制が今のままでは、誰の人権も守れないと思うんです」
【精神医療取材班】=つづく(写真説明文)
妙子さんが開いてくれた当時の手帳は訪問や相談のスケジュールで埋まっていた
<2002年2月6日毎日新聞>
■(3) 鑑定40分で不起訴 大阪・5人餓死「新興宗教」の兄妹
「偏見助長する安易な結論」「私のしたことで、家族が死んでしまった」
大阪府内の精神病院。閉鎖病棟に入院して1年以上たつ男性(67)は、「罪」を口にするようになった。最近は、院内の畑で野菜づくりをしている。「宗教のマインドコントロールが解けたようだ。そもそも、彼は入院する必要があったのか」。関係者から、そんな声も漏れる。
00年夏、男性の自宅で、一緒に生活していた妹(66)の子供5人(いずれも成人)が餓死し、男性と妹は保護責任者遺棄致死容疑で大阪府警に逮捕された。妹は教祖だった亡母から「新興宗教」を引き継ぎ、お布施で生計を立てていたが、「受け取ったらあかん」という神の声が聞こえ、水しか口にしていなかったという。5人の子供は幼少期から洗脳を受け、外出もできなかったため、府警は「2人の保護責任を問える」と判断した。
しかし、大阪地検堺支部は「心神喪失だった」と判断して不起訴処分にし、2人は措置入院となった。この判断の基になった各40分余りの簡易鑑定の結果は、一人の病が家族などに広がる「感応精神病の疑い」だった。
■ ■
当時の地検幹部は会見で「犯行が極めて異常で、供述内容や態度も直ちには了解困難。独自の宗教観に支配された幻覚、妄想がある。時間をかけて(本鑑定を)やるまでもなく、善悪の判断力がないことは明白」と強調していた。
しかし、警察の取調室で2人は「取り返しのつかないことをした」と涙を流していたという。捜査関係者は振り返る。「検察は事件の難しさもあって不起訴にしたのだと思った。池田小の児童殺傷事件の後だったら、起訴していたかもしれない」
「地検には、本鑑定をしたほうがいいとアドバイスした。善悪を判断する能力が『なし』とまでは言っていない」。2人の簡易鑑定を担当した精神科医が重い口を開いた。2人は強制入院となったが、「診断時、妹は妄想に支配されていたものの、兄は正常に戻りつつあった」という。
簡易鑑定の判断について、鑑定医と地検の見解は微妙にくい違う。取材に対し地検堺支部は「具体的なコメントは差し控えたい」と回答した。
■ ■
府警の相談を受けていた国立大助教授は「オウムやライフスペースの事件でも、誰も被告を『感応精神病で責任能力なし』とは見ていない。今回も刑事責任を問えたはず」と話す。別の精神科医は「文化的な背景のある『お告げ』を簡単に妄想とは言えない。重大性や社会的影響を考えれば、時間をかけた鑑定で結論を出すべきだった」と語った。さらに「精神障害を理由にした安易な不起訴は『精神障害者は犯罪への抑制が利かない人たち』という偏見を助長する。本人にとっても、『罪』が心の中だけに蓄積され、尊厳を回復し再出発することが困難になる」と指摘した。
責任能力を判断するシステムはこのままでいいのか。国の改善策は、まだ見えない。
【精神医療取材班】=つづく(写真説明文)5人が餓死した民家は今は朽ち、庭には雑草が生い茂っていた=大阪府泉南市で
<2002年2月7日毎日新聞>
■(4) 制裁でなく真相を 「不起訴不当」勝ち取った2遺族
鑑定にもガイドライン「制裁を求めているのではない。息子はなぜ殺されなければならなかったのか。起訴して法廷で真相を明らかにしてほしいのです」
鈴木通夫さん(67)は、検察の情報公開への姿勢に憤りを隠さない。98年5月、福島県いわき市の市立病院。長男で精神科医の裕樹さん(当時34歳)は診察中の男性(46)に刺され死亡した。福島地検いわき支部は男性を不起訴処分とした。
鈴木さんは「看護婦を十分配置していなかった」と、病院などを相手に賠償を求め提訴した。不起訴記録の開示制度が始まっても、検察は精神鑑定の開示を拒む。民事法廷では病院も裁判所も「開示すべきだ」と言い、鈴木さんは法務省刑事局長に開示を指示するよう求めたが、「個々の検察官に指示はできない」と壁は厚かった。
鈴木さんの申し立てを受け、いわき検察審査会は昨年6月、「包丁を準備し、事件後逃走するなど計画性がある」と、不起訴不当を議決。検察は再捜査を進めている。
病院側は裕樹さんの「患者への接し方に問題があった」と反論していた。だが、議決書で初めて、男性が「強制入院させられるのではないかと思い込み、主治医を殺害しようと途中で刃物を買って病院へ向かった」ことが分かった。主治医は不在で、偶然、診察したのが裕樹さんだった。
■ ■
「被告に懲役15年を求刑する」。今月5日、大津地裁。70歳を過ぎて一人で暮らす佐竹茂さんは、うつむいたままの西沢元次被告(30)に視線を向けた。
西沢被告は98年12月、職場の先輩だった佐竹さんの長男、邦夫さん(当時32歳)を殺害し、止めに入った佐竹さんの妻和子さん(同67歳)も刺殺した。大津地検は心神喪失を理由に不起訴処分としたが、茂さんは「なぜ責任能カがないといえるのか」と、大津検察審査会に不起訴不当を申し立てた。審査会は00年1月、「前日に凶器を準備し下見もしており、全く被害妄想に支配されていたと断言するのは疑問」と、検察の不起訴を覆す議決をした。
検察は再び本鑑定を実施。2年後、起訴に転じる極めて異例の展開となった。「鑑定人が変われば結果が変わることもある」。地検幹部は会見でそう釈明した。
さらに、3人の医師が「妄想性障害」と診断をしながら、責任能力や解釈はばらばらだったことが法廷で明らかになった。不起訴の根拠となった最初の鑑定医は「被害妄想による心神喪失状態」と主張。不起訴後の措置入院中の主治医は「悩んだ末、自分の意思で実行し、心神耗弱だった」と判断。再捜査後の鑑定医も限定能力を認めた
が、「妄想には、人格も影響している」と解釈した。
西沢被告を診断した精神科医は話す。「責任能力とは何なのか、専門医でも分からない時がある。障害のない犯罪者と比較する機会もないのに、責任能力の有無を判断させられる。ガイドラインを設けない限り、被告・被害者双方にとって不公平な状態が続く」
「知らされない」遺族や被害者の苦しみは、どれだけ国に届いているのだろうか。
【精神医療取材班】=つづく(写真説明文)
「責任能力の有無は法廷で議論されなければ遺族は納得できない」と資料を手に語る鈴木さん
<2002年2月8日毎日新聞>
■(5) 福祉のプロ 孤立 二男の手で生涯閉じた母
足りぬ「おせっかいな支援」「精神的にまいっている人も、健常な人も、格子を挟むことなく一緒に住めたら」。それが、彼女の理想だった。
昨年7月。障害のある二男(52)の手で76歳の生涯を閉じた山里八重子さんは、沖縄県精神障害者福祉会連合会(沖福連)の会長を務め、地域福祉のパイオニアと言われていた。
県立総合精神保健福祉センターの仲村永徳所長は、会議で会った山里さんのやつれた表情が忘れられない。「息子の症状が思わしくない。疲れた」。仲村所長がホームヘルパーの利用を勧めると、「一刻も早く利用したい」と言った。その翌日、事件は起きた。
本土復帰前の71年。学生運動に身を投じていた二男が精神のバランスを崩し、入院した。「いつまでも病院にいてはいけない」。山里さんは、長期入院患者を見て、自分で看病できるよう、ソーシャルワーカーの通信教育を受けた。海外の地域支援も視察し、福祉の力の大きさを知った。88年、県で初めての共同作業所を作った山里さんの奔走で、共同作業所は現在、23カ所に増えた。
当事者の家族、福祉の専門家、地域のリーダー……。講演依頼が県内外から舞い込んだ。高齢の親たちは、若いソーシャルワーカーより山里さんを訪ねることが多かった。「お袋の仕事の邪魔だから、しばらく入院したい」。忙しい母に、二男は気遣いをみせるようになっていた。母子2人きりの日常を知る人はほとんどいなかった。
「福祉のプロでも、相談相手がいなかったのか。家族として孤立せざるを得なかったのか……。息子の世話のために引退を考え後継者を探していたが、『あの人に代わる人はいない』との声もあった」。仲村所長は振り返る。
■ ■
本土に大幅な後れをとった沖縄の精神医療。72年の返還後、施設整備は急速に進んだが、ソフト面での福祉と医療の連携は弱いとされる。
その反省から昨年6月、精神科救急や生活支援の充実を図るため、病院や保健所、家族会などで構成する協議会が結成された。山里さんの事件の翌月には障害のある男性が6人を殺傷する事件も起き、「重大犯罪を防止する実行委員会」を設け、対策づくりに入った。柱は「症例検討会」だ。退院して地域に戻る患者の症例を保健所、病院、精神保健福祉士らが検討し、本人も交えて治療方針や支援策を考える。協議会会長の小椋力・琉球大教授は「沖縄の取り組みを全国のモデルケースにしたい」と語る。
■ ■
事件後、山里さんの親族は、「なぜ2人だけにしてしまったのか」と悔やんでいる。
「姉は1人で悩みを抱え込んだ。息子と2人だけの時間が長すぎた」。考えこんだ末に、山里さんの弟(64)は話した。二男は母親に対する殺人罪で起訴され、審理が進む。「ゆくゆくは地域の力を借りながら、自分が面倒をみたい」。そう考えるようになった弟は、「家族に必要なのは、おせっかいにかかわってくれる相談機関や医療」と気付いた。
地域生活支援の理想と現実。そのギャップと格闘し続けた「母」の死は、未成熟なこの国の精神医療と福祉を物語っている。
【精神医療取材班】=おわり(写真説明文)沖福連のスタッフは遺影を掲げ、山里さんの遺志を受け継ぐ=沖縄県南風町で
<2002年2月8日静岡新聞>
県が精神科救急センター 医療相談24時間対応−来年度開設へ
県は来年度、精神障害者や家族などから緊急時の精神医療相談を二十四時間受け付ける「精神科救急情報センター」を開設する方針を固めた。新年度当初予算案に関係事業費を盛り込む方向で検討している。
情報センターは静岡市有明町の県精神保健福祉センター内に設置する。「精神科救急医療110番」の専用電話を設置する。医師や看護婦、精神医療に詳しいスタッフらが、患者や家族からの相談に応じる。夜間、休日は関係団体に委託するなどして対応する。
相談を受け、患者の状況を聞いたうえで、保護者らがどのように対応すべきか、どのような医療機関にかかったらよいかなどについて助言する。医療機関に関する情報の収集・提供などを行う機能も担う。
県は県内三カ所の精神科救急基幹病院に、休日と夜間に精神科の病床が必要になった患者のための病床を確保している。情報センターの設置で、確保している病床がより効果的に活用できるようになるとみている。
患者や家族などからは「緊急に精神医療が必要になっても、どこに相談していいか分からない」との声があり、場合によっては、いきなり警察に通報するケースもあるという。相談体制が整うことで、より早期に的確な対応が可能になるため、県はそうしたケースの未然防止につながることも期待している。
情報は→静岡新聞
<2002年2月8日読売新聞>治療費は国が負担…触法精神障害者
政府が今国会に提出する「触法精神障害者処遇法案」(仮称)で導入する新制度の全容が7日、明らかになった。殺人や放火などの重大な犯罪事件を起こした精神障害者が心神喪失を理由に不起訴・無罪などとされた場合、
また、入院患者は国立病院に新設する専門治療施設が受け入れ、費用は全額国費負担とする。司法と行政の責任を明確にすることで、現行制度で不十分だった触法精神障害者の社会復帰と犯罪の再発防止を図るのが目的だ。
処遇を決める審判は、裁判官と精神科医各1人による合議体で行う。別の精神科医の鑑定と生活環境を基に、合議体が「再犯の恐れ」があると判断すれば入院・通院を命じる。処遇の要否と決定は、合議体の2人の意見一致を必要とする。専門知識を持つ精神保健福祉士が必要に応じ参与員として意見を述べる。
入院・通院治療は、厚生労働省が指定する医療機関で行い、全額国費負担。特に入院施設については、国立病院を中心に専門治療施設を整備し、通常の精神病床より医師や看護職員を手厚く配置する。現在は患者3人に看護職員1人が基準だが、新制度では患者1人に看護職員1人とする。
治療費用を全額国費負担とするのは、新制度で年間300―350人程度の患者が新たに処遇対象となり、入院患者1人当たりの年間医療費は1500万円に上ると見込まれるためだ。
入院施設の管理者は、患者に「再犯の恐れ」がないと判断した場合は、地裁に対し、退院許可を申し立てる。再犯の恐れがある場合は、半年ごとに入院継続を申し立て、審査を受ける。
通院治療の場合、各地域の保護観察所に新設する精神保健観察官が患者の生活指導や経過観察を行い、通院施設の管理者と協議のうえ、治療終了や通院期間延長、再入院を地裁に申し立てる。
処遇対象者やその保護者には、弁護士の選任権が認められ、地裁の入院・通院・入院継続などの決定に不服がある場合は高裁に抗告できる。
情報は→Yomiuri-On-Line
<2002年2月7日大阪読売大阪府内版>池田市が精神障害者の会の法人化を後押し 基本資産490万円援助
偏見なくし、社会復帰助けたい/全国でも珍しい試み
池田市は、社会福祉法人を目指す精神障害者の家族会「てしま会」(同市豊島南二)に対し、法人化に必要な基本資産(一千万円)のほぼ半額にあたる四百九十万円を援助することを決めた。新年度予算に盛り込む。精神障害者団体に自治体がこうした形で予算を充てるのは全国でも珍しいという。大阪教育大付属池田小での児童殺傷事件以降、障害者施設建設に反対する動きが各地で出ているが、池田市は「行政が後押しすることで、精神障害者への偏見が少しでもなくなれば」としている。
「てしま会」は一九八六年に発足し、会員約七十人。池田市と能勢町で計三か所の共同作業所を運営しており、精神障害者三十数人が箱の組み立て作業などに携わっている。
昨年四月、社会福祉法人になるための資格要件が緩和され、従来一億円以上とされていた基本資産が一千万円まで引き下げられたことから、てしま会は二〇〇三年度の法人化を目指して準備を進めていた。
そこで、池田市は「法人化すれば地域社会にも開かれ、障害者にもよりよいサービスを提供できる。孤立化を防ぎ、社会復帰を助けることにもつながる」として昨年九月、てしま会に援助を申し入れた。
社会福祉法人になると、作業所は国の認可施設になり、補助金のほか、税制上の優遇措置を受けることができ、経営基盤の安定につながる。
会は予定より一年早い今年四月に法人を設立できる見込み。法人名を「てしま福祉会(仮称)」とし、家族のほか障害者自身や、民生委員、医師ら地域の代表にも役員に加わってもらい、運営する方針だ。
障害者の社会復帰や福祉向上のため活動している「きょうされん」(共同作業所全国連絡会)によると、群馬県で新設予定だった作業所が、付属池田小事件後、土地の所有者に賃貸契約をキャンセルされるなど、施設建設や移転が困難になるケースが数件あったという。
てしま会の高岸須美子会長は「家族が高齢化しており、作業所の運営はとても大変。資金繰りも苦しいなか、市の援助は本当にありがたい」と話す。
「きょうされん」の藤井克徳常務理事は「自治体が土地を貸すことはあるが、基本資産を援助するケースはなかった。精神障害者への誤解や無理解を解消する積極的な姿勢として評価したい」と話している。
<2002年2月6日毎日新聞>触法精神障害者 入院先は国立病院に限定 政府方針
重大犯罪で不起訴や無罪になった精神障害者の処遇問題で、政府は6日までに、全国の地裁に設置される判定機関で入院と判定された場合の入院先を、原則として国立病院に新設する専門治療病棟に限定する方針を固めた。通院先は、地域での社会復帰につながるよう、国公立病院を主体に民間病院も含める予定だ。
新たに作る病棟の整備費は1カ所6億〜7億円程度で、30人前後の入院を計画している。30〜40人のスタッフで治療にあたり、初年度は2、3カ所でスタートする考えだ。
「重大な触法行為をした精神障害者の処遇に関する法律案」(仮称)に盛り込む新制度では、全国50地裁に処遇判定機関を新設し、裁判官と精神科医が合議して入院、通院、あるいは治療の必要なしのいずれかを決める。この際、別の精神科医が同様の行為を繰り返し、再犯の恐れがあるかどうかを病状から鑑定して判断し、判定機関に伝える。また精神保健福祉士などが対象者の家庭環境などについて意見を述べる。入院した場合は、半年ごとに継続するかどうかを見直す予定だ。
治療の担い手として、既に海外で司法精神医療を学んだ専門家に加え、02年度に国立医療機関などの精神科医や精神保健福祉士、看護婦・士計8人程度を米国、英国などに派遣し、半年間の研修を積ませて専門家を養成する予定。厚生労働省は02年度予算案に、この派遣費用として4300万円を計上している。
与党3党のプロジェクトチームは昨年11月にまとめた報告書で「施設は国公立病院の中に」と提案した。しかし、判定対象が年間約300人程度と想定され、入院となるのはさらに絞り込まれるため、政府は国立病院で対応できると判断した。 【精神医療取材班】
情報は→Yahoo! News
<2002年2月4日大阪読売新聞夕刊>■[奪われた歳月]大阪・箕面ヶ丘病院(連載下)
隔離収容が作る「無気力」 手紙は燃やされ、公衆電話もなく/半数が入院20年超
◆おとなしすぎて…
「『指示待ち人間』というのか、こうしなさいと言えば何でも『ハイ』。買い物を勧めても自分では選べない。病状は軽く、会話は十分できるのに、意欲がなく自己主張に乏しい」
箕面ヶ丘病院(大阪府箕面市)から、三人の転院患者を一月に受け入れた民間病院の院長はそう話す。
別の病院へ移った四十代の男性も似た状態だ。二十三年いた箕面ヶ丘病院への不満を尋ねても、現在の要望を聞いても、出てこない。母親は「一生預かって下さい」と言った。
「息子が邪魔なのではなく、精神病院はそんな所だと思っている。病院が社会復帰に取り組むなんて想像もしなかったようです」とスタッフは当惑する。◆31年目の自由
箕面ヶ丘病院に昨年八月時点で入院していた百二十一人のうち、ほぼ半数は在院が二十年を超えていた。
病棟では「看護人」と呼ばれる無資格の男性三人が目を光らせていた。外出はできず、娯楽や運動、日光浴の機会もなく、ベッドで寝るかテレビを見て過ごす。掃除、配ぜん、体の不自由な患者の食事・入浴介助といった院内労働だけが、たばこなどと引き換えに用意されていた。
三十一年前、病院ができた年に入院した男性(69)は毎年、府が立ち入り調査に来る日に小型バスに乗せられた。行き先もなく走り回るバスは「余計なことを言わせないため」だった。
「いくら手紙を出しても相手に届かない。燃やされたと後から聞いた」が、調査の日だけは病棟に公衆電話が置かれた。残った患者には「自由にかけられます、と答えるんやで」と西川良雄院長が言い含めた。
転院先では開放病棟。ほぼ毎日外出する。「自由の実感はわかないけれど、この病院も早く出て、残された時間を生かしたい」◆医療の名の下に
長い歳月を経てなお反発心を持ち続けた彼のような患者は珍しい。
府の改善指導を受けて昨年秋、散歩や買い物に出た患者の多くは、同行した看護婦に幼児のようにしがみついて離れなかった。「外の世界がこわいんですよ」と看護婦は言った。
「収容所症候群」という言葉がある。ナチスの強制収容所や刑務所の無期囚などで報告された現象だ。期限なき隔離収容は、無気力、無関心で、管理に従順な人間をつくるという。
日本の精神病院の入院患者は三十三万人。その半数は入院が五年以上、二十年以上も五万人にのぼる。
「意欲の低下や自閉傾向は精神分裂病の慢性症状とされるが、病院収容がもたらす影響も大きい」と黒田研二・大阪府立大教授(地域保健福祉)は指摘する。
医療の名の下に人生を奪われているのは、箕面ヶ丘病院の患者だけではない。
<2002年2月2日大阪読売新聞夕刊>
■ [奪われた歳月]大阪・箕面ヶ丘病院(連載中)
触診もせず「大丈夫や」/分裂病の治療薬1種類だけ 「30年前のまま」◆腸閉そく、転院せず
昨年十二月、箕面ヶ丘病院(大阪府箕面市)に入院していた八十歳前後の男性患者が、異常なおう吐を繰り返し、腹痛を訴えた。
西川良雄院長は、患者に触りもせず「大丈夫や。様子を見ろ」と言い、行われたのは栄養液の点滴だけ。二日後、非常勤の内科医が聴診とエックス線撮影で腸閉そくと診断、転院を求めたものの、院長は「必要ない」と主張した。
その後も、痛み止めと吐き気止めを別の当直医が院長の了解を得ずに出した程度。「痛い、痛い」と訴え続けた男性は、異臭のする液体を吐くようになり、六日目に息を引き取った。老人性痴ほうだが、元気に歩いていた人だった。
以上は、複数の看護職員が証言した経過だ。
この種の腸閉そくは、鼻からチューブを入れ腸の内容物を取り出し、それでも悪化すれば手術が基本。どちらも転院しないと不可能だった。家族は「ここでできる範囲の治療でいい」と病院に伝えていたという。
「あんなに苦しんで。『終末医療』ともいいようがない」と職員は憤る。◆熱には風邪薬
昨年八月に府が指導するまで、詰め所にはカルテも看護記録もなく、看護職員たちは、患者の病名も家族関係も薬の処方もよくわからないまま働いていた。
院長の回診はなく、病棟の二、三階へ上がることもめったにない。体調の悪化した患者がいると一階に運ぶが、ひと目見ただけで「はよ連れていけ」。熱を出したら一律に風邪薬、高熱でも「水は飲ますな」、腹痛でも「メシは食わせろ」。解熱剤を出しましょうかと聞くと「お前は医者か」とどなられた。職員たちはそう証言する。◆物言わぬバイト医
精神分裂病への処方は、最初に開発された治療薬のクロルプロマジンばかり。他の病院の精神科医は「まるで三十年前のまま。薬の量は少ないが、どの患者にも画一的だった」と驚く。
院長以外の医師は何をしていたのか。患者はひと月に一、二回、副院長の診察を受けたが、「調子はどうですか」などと聞かれる程度。一分ほどで終わっていたという。
当直のアルバイトに来ていた兵庫医大、大阪大などの医師もあまり意見は言わなかった。「明らかに内科の病気でも『精神症状のせいや。様子を見ろ』と院長は言い張った。こちらはしょせん当直ですし……」と一人は打ち明けた。
大阪府医療対策課は「(ずさん医療や事故がいくらあっても)医療法上、個々の中身に行政は口を出せない。病院と患者、家族の間で解決してもらうしかない」という姿勢だ。
<2002年2月1日大阪読売新聞夕刊2社面>
■ [奪われた歳月]大阪・箕面ヶ丘病院(連載上)
◆「ポチ」と呼ばれた患者 10年ひもでつながれ 医師「人手あれば…」
「ポチ」と呼ばれていた男性(59)に会った。様々な人権侵害が明るみに出た大阪府箕面市の精神病院「箕面ヶ丘病院」に入院していた患者だ。大勢が出入りするデイルームの一角に、ひもでつながれたまま寝起きし、用を足すのもポータブル便器。そんな違法拘束を十年近く受け、昨年八月に府の抜き打ち調査で問題が発覚、ようやく転院した。同病院は患者全員の転退院が終わり、一日、保険医療機関の指定取り消し処分を受けたが、奪われた歳月と人間の尊厳には何の償いもない。(科学部 原昌平)
◆半径2メートルの生活
窓の鉄さくから腰に延びた二メートルほどの白い布ひも。その届く範囲が男性の動ける空間のすべてだった。リノリウムの床に畳一枚と布団が敷かれ、食事は便器のふたの上で食べた。ひもが外されるのは、たまの入浴と行政の立ち入り調査の時ぐらい。それでも温和な男性に、他の患者は「ポチ、元気か」と冗談半分で声をかけた。
入院は二十数年前。精神分裂病との診断だった。法的には退院も外出も自由な任意入院なのに、「乾電池や鉛筆など目についた物を口に入れる」という理由でつながれていた。両腕が動かせない拘束衣を着せられた時期もあったという。
拘束には、精神保健指定医の診察とカルテ記載が法律上欠かせないが、何の記録も残っていない。だから違法拘束の期間も正確にはつかめないが、関係者によると、十年前に異物を飲んで開腹手術を受けたあとは続いていたという。◆あきらめ
同病院は医師、看護婦とも法定基準の約半分という極度のスタッフ不足。状態の悪い患者を隔離する保護室もなかった。西川良雄院長は、患者が大声を出したりすると「何とかしろ」と、よく職員に命じていた。
週一回、当直に来ていた医師は「人手があれば個々の患者に気を配れて、拘束せずに済むのにと思いつつ、言っても変わらないとあきらめていた」と語る。
男性は生活保護で入院していた。長期入院になると、福祉事務所のワーカーはめったに訪れない。身寄りがなく、病院に苦情を言う家族もいなかった。
同病院に長く勤めた職員はこう振り返る。「昔、府に内部告発した職員もいたが、だれが言ったか病院に伝わっただけで、何の手も打たれなかった。当初は何とかしたいと思ったけれど、めげてしまった」◆償いの手立ては
転院先で面会した男性は愛想よくほほ笑んだ。しかし病状の影響なのか、言葉はなかなか出ず、生年月日と出身地を聞き取るのがやっと。院内の生活は普通にでき、異物を口にする行動も今はないが、何かを説明したり、意思表示したりするのは難しいという。
「民事訴訟は本人の意思が原則。後見人を立てるにもハードルが多くて……」と、障害者問題に詳しい弁護士はため息をついた。
西川院長は、職員水増しで不正受給した診療報酬の返還請求と、精神保健指定医の資格取り消し処分を受ける見込みだが、刑事責任を問う動きはない。読売新聞の取材申し入れには応じていない。◇写真=違法拘束が行われていた箕面ヶ丘病院。樹木で外側が覆われ、内部は見えない(箕面市稲5)
◇図=箕面ヶ丘病院の元職員が描いた男性の拘束の様子。こうした形で10年近く病棟デイルームにつながれていた。「ポータ」はポータブル便器
<2002年2月1日 大阪読売新聞夕刊2社面>
■診療報酬不正受給 「箕面ヶ丘病院」の保険指定取り消し /大阪社会保険事務局
大阪社会保険事務局は一日、診療報酬を不正受給していた大阪府箕面市の精神病院「箕面ヶ丘病院」(百二十八床)の保険医療機関の指定と西川良雄院長の保険医登録を取り消す処分をした。
同病院は医師、看護職員数を水増しし、実態より単価の高い入院基本料や食事療養費を得ていた。不正額が確定すれば40%のペナルティー付きで返還を求め、患者側の自己負担分の差額も返還を指導する。関連記事→不祥事と人権侵害 箕面ヶ丘病院
<2002年2月3日朝日新聞>重罪犯した精神障害者の入院期限設けず 政府案
重大な犯罪行為をしながら刑事責任能力がなく罪に問えない精神障害者について、政府が導入しようとしている処遇システムの全容が明らかになった。治療施設への入院や通院を命じる要件として「再犯のおそれ」を明記したうえで、入院期間には上限を設けず、6カ月ごとに裁判所がその必要性をチェックし延長する。不服申し立て制度を整備するなどして手続きの透明性を図るとはいえ、極めて長期の入院に道を開くことになるため、今後議論を呼ぶのは必至だ。
政府案によると、触法精神障害者の処遇を決める審判は、裁判官と精神科医各1人で構成する合議体で行う。別の精神科医に鑑定を依頼し、その結果などに基づいて「再犯のおそれ」があると判断すれば入院や通院を命じる。合議体は、精神障害者の保健・福祉に通じた精神保健福祉士を参与員として関与させ、意見を聞くことができる。
入院・通院の治療は厚生労働省が指定する特別の施設で行う。その管理者は「再犯のおそれ」がないと判断した場合は直ちに退院許可を、あると認める場合は6カ月ごとに裁判所に入院継続の許可を、それぞれ申し立てなければならない。
治安保持を優先しすぎるとされた74年の改正刑法草案でも、収容期間は原則最長7年と定めていた。今回の政府案は「十分な治療をして本人の社会復帰を図る」ことを目的としており、上限規定を設けるのはなじまないとしている。かわりに精神障害者側に弁護士の選任権や入院・延長決定に対する抗告権などを認めて、権利の保護を図る方針だ。
一方、通院治療命令を受けた人の生活指導や経過観察は、全国の保護観察所が担当する。通院期間の上限は延長も含め5年程度になりそうだ。通院者に「再犯のおそれ」が認められた場合は、保護観察所長が裁判所に入院の申し立てをし、改めて処遇が決定される。
また、精神障害者の生活支援について知識や経験がある人を新たに「精神保健観察官」に任命し、保護観察所に配置することも固まった。
「社会への危険性」根拠に触法精神障害者入院の上限なし(30面の解説)
《解説》 触法精神障害者の処遇について、入院や退院を命じる要件に「再犯のおそれ」を掲げることに対しては、政府内でも保安処分論争の再燃につながるのではないかとの懸念があった。「再犯の可能性の有無を判断するのは困難」との指摘は専門家の間でも強く、運用が「疑わしきは収容」に流れかねないからだ。
とはいえ、「治療の必要性」などとすれぱ、逆に対象が広がりすぎる懸念が生まれる。結局、人の自由を拘束する重い手続きの根拠となり得るのは「社会への危険性」しかないという考えに落ち着いた。
類似の制度をもつドイツでは、入院処分を受けた精神障害者について、入院先以外の医師による定期的な鑑定や裁判官の面接を義務づけている。多くの異なった目でチェックすることによって判断の客観性を担保し、処遇が不当に長引くのを防ぐのが狙いとされる。 幅広い理解を得るにはこうした方法も参考にしながら議論をさらに詰め、理念とする「治療と本人の社会復帰」を実現できる仕組みにしていくことが欠かせない。
情報は→asahi.com
<2002年2月3日時事通信>性同一性障害、早期の手術可能に=実情に合わせ治療指針改正−精神神経学会
体と心の性の不一致に苦しむ「性同一性障害」について、日本精神神経学会は2日までに、必要に応じて早期に性転換手術を受けられるよう治療ガイドラインを改正することを決めた。今春をめどに、新ガイドラインをまとめる方針。
性同一性障害は従来、ほとんど表に出なかったが、同学会が1997年7月にガイドラインを策定し、治療を要する疾病と正式に認知された。その後、医療機関で診断を受けた人は1000人を超えた。
ガイドラインは治療を精神療法、ホルモン療法、手術療法の3段階とし、各段階の治療を十分行った上で次の段階に進むとしている。しかし、手術の中でも乳房切除は患者にとって切実な問題で、第2段階を終えるまで待つことによる生活上の支障も大きいことが分かってきた。
また、肝障害などでホルモン療法が困難な患者もいるため、必要な場合には第2段階を飛ばして手術を受けられるなど、柔軟な対応が可能となるようガイドラインを改正する。また、社会に適応しやすくするため、ホルモン療法の開始時期を20歳以上から18歳以上に引き下げる。
情報は→Yahoo! News
<2002年2月1日朝日放送>
大阪 箕面ヶ丘病院 不正請求で医療機関指定取消
医師や看護婦の数が法定基準を満たしていないのに、入院基本料などを不正に請求していたとして、大阪府箕面市の精神病院が、1日、保険医療機関の指定を取り消されました。
大阪社会保険事務局に指定を取り消されたのは、箕面市稲の「箕面ヶ丘病院」です。箕面ヶ丘病院は、去年8月、医師や看護婦の数が法定基準に満たないことや、患者への人権侵害により、大阪府の立ち入り検査を受けていました。大阪府の調べによりますと箕面ヶ丘病院では、看護婦の人数について、法定基準を上回る24人と届け出ていましたが、実際には13人しかいませんでした。医師も基準より1人少ないにもかかわらず、入院基本料を減額せずに保険請求していたと言うことです。また、実際の診療以上に診療報酬を請求していたことも分かっています。今回、院長の保険医の指定も取り消され、保険医療が行えなくなったため、箕面ヶ丘病院は、実質的に廃院となります。
情報は→Yahoo! News
関連→資料庫>不祥事>箕面ヶ丘病院
■精神医療をよくする市民ネットワーク■ の集会2月2日 ◆公開フォーラム どこまで公開できる、精神病院情報
21世紀はこころの世紀ともいわれます。多くの人々がこころの問題を抱え、精神科を利用する時代になります。そのような時代にあって、密室的な医療におちいりがちな精神科医療を地域に開き、住民に親しまれ信頼されるものにすることが大変重要です。今回、厚生科学研究事業の一つとして次のようなフォーラムを開催します。皆さんと一緒にこの問題について考えたいと思います。多くの方が参加されますようご案内いたします。
司会:大熊由紀子(精神医療をよくする市民ネットワーク 代表)
1) いまなぜ精神病院の情報公開か
伊藤哲寛(北海道立緑ケ丘病院 院長)2) 精神科医療の情報公開に関するアンケート調査から
白石弘巳(東京都精神医学総合研究所 副参事研究員)3) 人権擁護活動と精神病院情報の公開
山本深雪(大阪精神医療人権センター 事務局長)4) 先進諸外国における医療情報公開の現状
伊藤弘人(国立医療・病院管理研究所 主任研究官)5) 「東京精神病院事情(ありのまま)」ができるまで
飯田文子(東京都地域精神医療業務研究会 ボランティア)日 時 : 2001年2月2日 14:00〜16:30
場 所 : 全共連ビル(東京都千代田区平河町2丁目7番9号2-7)
交 通 : 地下鉄 有楽町線・半蔵門線・南北線 永田町駅下車bS出口徒歩1分
地下鉄 銀座線・丸の内線 赤坂見附駅下車 徒歩8分
タクシー 四谷駅より5分・東京駅より10分
参加費 : 無 料
法務省厚生労働省への要請葉書の訴え
長野英子連絡先 hanayumari@hotmail.com
〒923-0957 小松郵便局私書箱28号 絆社ニュース発行所
ファクス 0761-24-1332
新聞報道によると、与党のプロジェクトチーム報告書に添った形でいわゆる「触法精神障害者」に対する特別立法が来年早々国会に提出されようとしています。私は以下の点でこの報告書を批判します。中略、詳しくはこちらへ→法務省厚生労働省への要請葉書の訴え 長野英子
文 例
与党「心神喪失者等の触法および精神医療に関するプロジェクトチーム」報告書にあるいわゆる「触法精神障害者」への特別立法および特別施設は、「再犯の危険性」を要件とした予防拘禁であり、医療を治安の手段とする保安処分です。私はこうした特別立法および特別施設の新設を許しません。報告書に基づく何らかの「触法精神障害者」に対する施設新設あるいは対策立法作成をしないよう強く訴えます。あて先
厚生労働省精神保健福祉課
〒100-8916 千代田区霞ヶ関1−2−1
電話 03-3501-4864(直通) ファックス 03-3593-2008(直通)
電子メールアドレス www-admin@mhlw.go.jp(代表)
法務省
〒100-8077千代田区霞ヶ関1−1−1
電話03−3580−4111(代表) ファックス 03-3592-7393(代表)
電子メールアドレス webmaster@moj.go.jp(代表)
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