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精神科特例と国家賠償請求訴訟

大阪精神医療人権センターニュース53号より転載 2003年2月

 有我@看護師です。
 昨年末、「心神喪失者医療観察法案」が多くの反対を押しきって衆議院で強行可決され、今年参議院での審議に送られました。
 厚生労働省、与党、日精協は、特別立法と精神医療保健の充実は「車の両輪」と言います。しかし、この法案は精神障害者への隔離を強め、差別と偏見を煽ることはあっても、医療保健の充実とは関係はありません。それどころか法案推進者は、精神科医療がとんでもないヒドイ状況にあることを覆い隠し原因を放置しています。

 最近、精神科医療に関するメーリングリストでは精神医療は違憲状態にある、国家賠償請求の訴訟が必要でないかとの論議が盛んです。
 私も精神科特例を精神障害者差別と虐待の温床であり諸悪の根源だと考えています。

 医療法の特例で精神科は一般治療より低いスタッフ数で病院と認められてきました。終戦後の医師看護師不足の中での暫定的な措置だったのですが、現在まで残されています。精神科だけ国民の受けられる医療水準以下で良いという精神障害者差別です。国民として適切な医療を行ける権利、健康的な生活を送る権利が侵害されています。

 精神科の病院、病棟だけが、患者:医師の比率が16:1でなく、48:1と1/3。(他科ではおよそ一つの病棟に3人の医師配置、精神科では1人)患者:看護師は3:1でなく、2005年までは他科の半分の6:1が最低基準です。(2006年以降は患者:看護師=4:1しかし、「当面の間、5:1で看護補助者の人数を含んでもよい」)おまけに薬剤師は他科の半分以下で70:1でなく、150:1で病院と認められています。
 適正な医療のために医師も看護もそれ以上の配置をしている病院は多いのですが、診療報酬上、人件費がペイできず経営的に成り立ちにくいのが実情です。
 2001年前医療法の見直しの時、精神科特例の廃止の論議は高まりました。しかし、病院経営者の団体である日本医師会と日精協が強行に反対し、実現しませんでした。

 現在の精神科病棟は治外法権状態にあると言っていいと思います。
 精神科で行われている隔離・拘束という行動制限は、監獄以外では、本来「逮捕監禁の罪」にあたります。それが精神科では精神保健指定医の指示で、特別に認められています。その事自体問題があるのですが、仮に人権侵害にかかわることを治療のために限定的に認めるとしても、行動制限の運用が人権侵害とならぬよう、人員配置は逆に他科より厚くしてあたり前で、少なくても良いはずはありません。

 精神科特例がもたらしたものは、人数も、人口比も世界最大の精神科入院者であり、膨大な社会的入院です。また、慢性的な人手不足が生みだす、医療的放置と隔離と拘束の横行であり、虐待と人権侵害です。
 宇都宮病院、大和川病院、箕面ヶ丘病院などの人権侵害事件はこの精神科特例の中でも最低基準の人員配置の環境で起きています。精神科の不祥事や人権侵害は絶えず、精神病院は「こわい」という偏見の温床になっています。隔離収容政策は精神障害者は閉じこめられているべき人と言う偏見を生みだしています。

 精神科医療の水準の問題が指摘されています。医師はキチンと適正な医療をしようと思えば、今の人員配置ではとても足りません。大学病院以外では新人の医師を指導、育成し、カンファレンスに時間をとることや研究はおぼつかない実情があります。精神科医療の水準をあげるにも、特例の撤廃は不可欠です。

 看護の人手不足は患者さんへの被害をもたらします、手のかかる患者さんは人手が足りないために、不必要に隔離・拘束を受けやすくなります。またその病状や問題行動などへのかかわりは人手を要するので、隔離拘束は長期化しがちです。毎日最低限こなさないといけない業務や、重症者へのかかわりで人手がとられています。看護師が患者の訴えに耳を傾け、散歩や、退院へのカンファレンスに、時間を使いたいと思っても後回しとなりがちです。
 病状が落ち着いた患者さんに、退院を促進するケースワーカーの配置は病棟に必須とされておらず人手が足りません。地域生活への援助は貧困で入院期間は長期化しがちです。放置され退院する機会を失う人が多くなり社会的入院が生み出されます。

 毎日行動制限を含む、人権侵害と紙一重の行為を業務としていると、医療従事者は自らの人権感覚がマヒしやすくなります。病む人への医療、看護、福祉の提供に携わっているという誇りは、日々傷ついていきます。忙しさに追われ、次第に働く者としての自分の権利が侵害されても気づきにくくなります。精神科で働く者の労働条件も劣悪です。私は、精神医療の労働組合で作る全国精労協に参加しています。そこで、提唱してきたスローガンは
<安心してかかれる精神医療を実現しよう! 誇りをもって働ける職場をつくろう!>です。精神科特例の撤廃は医療従事者の課題であり、念願でもあります。

 全国精労協は、10年来厚生労働省と交渉を続けてきました。その中心課題は、
(1) 任意入院の開放病棟処遇原則。通信面会の権利保障であり (2) 精神科特例の撤廃 (3) 社会復帰施策の充実です。

 精神保健福祉法では、入院者の権利擁護のため、通信面会の権利をうたい、不当な処遇を訴えられるよう、精神医療審査会を設置しています。しかし、訴える最低限の条件である、病棟の公衆電話の設置率が毎年低下しています。一昨年の全国精労協の厚生労働省交渉では閉鎖病棟で公衆電話が未設置の病棟は、6%もあり追求しました。ところが、昨年の交渉では8.7%にも跳ね上がっていました。精神保健法さえ及ばない病棟が増え、放置されているのです

 精神科は特例の下、違憲状態、治外法権の状態に未だ置かれています。国家賠償請求を訴えるに値する充分な現実があります。

関連:「医療現場が求める精神医療政策」


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