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「心神喪失者医療観察法案」国会情勢緊迫! 法案は廃案しかない!


2002年11月20日

自民党の修正案について

                  弁護士 池 原  毅 和
                  弁護士 大 杉  光 子
                  弁護士 里 見  和 夫
                  弁護士 長 澤  正 範
                  弁護士 中 田  政 義
                  弁護士 八 尋  光 秀

1 はじめに


 2002年11月15日、衆議院法務委員会理事会において、「心神喪失者医療観察法案」についての自民党修正案が出されました。
 その目玉は、42条1項1号「入院をさせて医療を行わなければ心神喪失又は心神耗弱の状態の原因となった精神障害のために再び対象行為を行うおそれがあると認める場合」を、「対象行為を行った際の精神障害を改善し、これに伴って同様の行為を行うことなく、社会に復帰することを促進するため、入院をさせてこの法律による医療を受けさせる必要があると認める時」に変更するという点にあります。
 この修正については、「再犯のおそれ」という処遇要件を削除した等の説明がなされています。しかし、この法案の本質・構造からすれば、どのように言い回しを変えようとも、「再犯のおそれ」という処遇要件を削除することは不可能であり、そのような説明は詭弁に過ぎません。

2 この法案の本質


 この法案の目的は、「病状の改善」と「同様の行為の再発の防止」=再犯防止による「社会復帰の促進」であり(1条)、医療と関係しつつも再犯防止が主要な立法目的であることは明らかです。
 ここに、本法案による処遇を精神保健福祉法による治療とは別のものとして創設しようとする本質があります。この再犯防止目的がなければ、「本人の医療と保護」による「精神障害者の福祉の増進」及び「国民の精神保健の向上」を目的とする精神保健福祉法とは別の法律を作る必然性も根拠もありません。
 このことは、1条2項に「この法律による処遇に携わる者は、前項に規定する目的を踏まえ、心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の円滑な社会復帰に努めなければならない。」を加えたとしても何ら変わりません。あくまでも、「前項に規定する目的」すなわち「再犯防止」を踏まえた社会復帰ということなのです。要するに、1条1項の再犯防止目的がある限り何も変わらないということです。
 また、この法案の対象者は、重大犯罪にあたる行為をして心神喪失・心神耗弱により不起訴、無罪等となって受刑しない者です(2条3項)。しかし、「重大犯罪にあたる行為をした」か否か、あるいは、そのうちで「心神喪失・心神耗弱により不起訴・無罪等となって受刑しない」か否かの区別による特別な専門的治療法は医学的に存在しません。そうであれば、これらの者を特別に一般病棟と異なる施設に強制隔離することには、いくら医療が目的であると強弁しても、医療上の根拠はあり得ません。結局、この強制隔離は、事実上、責任主義を否定して刑罰に代わる制裁を加えるという結果をもたらすものである点もこの法案の本質です。

3 この法案の構造


 法案の原案では、再犯防止目的を実現するため、(1)重大犯罪に当たる行為をしたが責任能力の問題により受刑しなかった者を対象とし(2条3項)、(2)処遇要件を「再犯のおそれ」とし(42条1項等)、(3)その決定に精神科医のみならず裁判官を関与させ(11条1項)、(4)「指定入院機関」という一般病棟とは別の施設に強制入院させて医療を強制し(43条1項)、(5)保護観察所というまさに「犯罪の予防」を目的とする機関(法務省設置法24条1項、犯罪者予防更正法18条参照)が通院を監督・強制すること(19条3号)になっており、これによって対象者に事実上の刑罰に代わる制裁を加えるものとなっています。
 このような原案の構造は相互に密接に補完し合っており、その一部のみを修正したとしても、法案の本質は変わるわけがありません。

4 修正案の具体的条文について


(1)目的(1条2項)
   前述の通り、「円滑な社会復帰に努める」という規定を加えても目的自体は何ら代わらず、意味のない修正です。
(2)処遇要件(42条1項1号)
   「再犯のおそれ」という処遇要件は、法案の要です。処遇要件は条文の文言によるわけですが、その文言の解釈・運用は法案の趣旨・本質に規定されます。
   前述のとおり、「再犯防止」という法案の趣旨・本質からすれば、その処遇要件は「再犯防止」のために特別の対策が必要であるか否か、すなわち、「再犯のおそれ」があるかどうかということになります。
   したがって、いくら条文の言い回しを変えたとしても、処遇要件の趣旨は「再犯のおそれ」の有無から変わりようがありません。
   これを具体的な修正案について見てみましょう。
   「対象行為を行った際の精神障害を改善し、これに伴って同様の行為を行うことなく社会に復帰することを促進するため、この法律による医療を受けさせる必要があると認められる時」という文言だけを見ると、一見「医療を受けさせる必要がある」という医療上の要件に変わったように見えるかもしれません。
   しかし、前述のとおりこの法案の目的は「再犯防止」ですから、「この法律による医療を受けさせる必要がある」という「この法律による医療」とは「再犯防止のための医療」ということになります。
   また、その前の「対象行為を行った際の精神障害を改善し、同様の行為を行うことなく社会に復帰することを促進するため」のうち、「社会に復帰すること」は普通は医療・入院の当然の前提のはずですから、それだけでは特に意味はありません。意味があるのは「同様の行為を行うことなく」すなわち「再犯防止」が付け加わっている点ということになります。つまり、これも「再犯防止のための医療が必要かどうか」ということになります。
   そして、「再犯防止のための医療」というようなものがあり得るのか、あるいは成り立つのか、ということ自体の問題はとりあえず脇に置くとしても、そのような医療があり得るとすれば、それが必要とされるのは「再犯防止」の必要があるあいだ、すなわち、「再犯のおそれ」があるあいだということになります。
   つまり、結局は、「再犯のおそれ」を判断しなければ処遇要件の有無を判断できないということであり、処遇要件の基本的な内容は何も変わっていないということなのです。したがって、この修正案も再犯予測は不可能であるという批判を回避することはできないのです。
 (3) 裁判官・精神保健審判員の意見を述べる義務(13条)
   裁判官に「法律に関する学識経験に基づき」、精神科医に「精神障害者の医療に関する学識経験に基づき」、それぞれ役割分担をして意見を述べさせたとしても、判断すべき「再犯のおそれ」が何人にも判断不可能である以上、何の意味もありません。これによって、精神科医の責任が軽減されることにもなりません。
 (4) 社会復帰調整官(20条)
   「精神保健観察官」から「社会復帰調査官」への名称変更は、単なる言葉遊びに過ぎません。
   また、原案の20条2項は「精神保健観察官は、精神障害者の保健及び福祉その他のこの法律に基づく対象者の処遇に関する専門的知識に基づき、前条各号に掲げる事務に従事する。」、同条3項は「精神保健観察官に関し必要な事項は、政令で定める。」と定めています。仮にこれらの条文に「社会復帰調査官」の資格要件を「精神保健福祉士その他」とすると加えても、実質的には何も変わりません。
   この修正が保護観察所が社会復帰に関与することに対する懸念に対するものであるとしても、この懸念は、「犯罪の予防」を目的とする機関である保護観察所が関与することによって、医療・福祉の現場に社会防衛的観点が持ち込まれることに対する懸念ですから、たとえ社会復帰調査官の全員が精神保健福祉士の資格を持ったとしても解消されるものではありません。この法案の下では、保護観察所の長が適切に再入院や通院期間の延長、処遇の終了の申立を行うためには、社会復帰調査官は常に対象者の「再犯のおそれ」を判断し報告し続けなければならず、「再犯のおそれ」を判断しながら関係機関相互の連携を確保するのですから、社会防衛的観点を排除することは不可能です。
 (5) 付添人(30条)、審判期日(31条)
   裁判所が職権で付添人を付する場合に「その精神障害の状態その他の事情を考慮」すること、審判期日において「精神障害者の精神障害の状態に応じ、必要な配慮」をすることは当然であり、この修正は対象者の権利保障に何も付け加
えるものではありません。
   逆に、「対象者が心身の障害のため」審判期日に出席できない場合でも付添人が出席していれば本人不在のまま審判を行うことができる旨の規定(31条7項)と合わせて考えれば、本人不在の審判を常態化することを推奨する方向での修正にもなります。
 (6) 退院許可、処遇終了の申立の期間制限(50条2項、55条2項)
   原案の退院許可の申立については3ヶ月、処遇終了の申立については6ヶ月の期間制限が削除されたとしても、再犯防止目的が変わらない以上それぞれの申立の判断要件は42条1項と同じく「再犯のおそれ」であり、法案の本質には何ら影響はありません。
 (7) 医療の実施(81条)
   「その精神障害者の特性に応じ、円滑な社会復帰を促進するために」必要な医療とは、医療であれば当然のことを付け加えたに過ぎず、これによってこの法案による「医療」の中身が具体的になるわけではありません。そして、前述のように、法案の本質からくる「再犯防止のための医療」という性格は変わりようがないのです。
 (8) 精神医療等の水準の向上(付則)
   この法案の付則にいくら美辞麗句を並べ立てたところで、何の実効性もありません。
 (9) 5年後の見直し(付則)
   法律を施行した場合に、必要に応じて「法制の整備その他の所用の措置を講ずる」ことは通常行われることであり、あまり意味のある規定ではありません。
   なお、この法案を「一歩前進であり、不十分な点は徐々に変えていけばよい」と評価する意見もありますが、回復しがたい人権侵害を生む法律をとりあえず施行してみるなどという乱暴なことが許されないのは自明のことです。この法案には、見直しなどではなく、最初から廃案しかありません。

5 まとめ


  以上の通り、本法案は再犯防止を目的として刑罰に代わる制裁、刑罰に代わる拘禁処遇を新設するものですから、その中の再犯予測要件だけを削除するなどということは不可能です。
  しかし、欧米の研究成果をふまえても再犯予測は不可能であり、必ず誤って拘束される人を生み出すということは明白です。
  また、いくら小手先の修正を加えてみたところで、本法案の本質を変えることはできません。
  結局のところ、本法案の「修正」は不可能であり、廃案にするしかありません。


                         以上


「心身喪失者医療観察法案」 国会審議等

自民党塩崎議員修正案(衆院法務委員会)

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