「心神喪失者医療観察法案」国会情勢緊迫! 法案は廃案しかない!
2002年11月27日
民主党水島広子議員への吉岡医師のメール (吉岡医師の了解を得て掲載しています)
前略
ホームページを拝見しました。そのうちに、次のくだりがあります。
心神喪失者医療観察法案についても、現在、誤解をされることを懸念しながらも、大幅修正の可能性を探って努力しているところです。
野党第一党として何をしようとしたのか、執行部を含めて、もっとわかりやすく説明することができれば、「賛成」が単なる日和見ではないということを理解していただけるのではないか、と思っております。「大幅修正」の内容は不明ですが、塩崎メモの批判であれば、全国精神医療労働組合協議会に私のみならず多くの人人が(精神神経学会精神医療と法に関する委員会メンバーなり弁護士なりが)意見を公表しています。(http://www.seirokyo.com/)
いつから自党案をどう修正して「賛成」案を用意しているのか、それほど大きな修正案ならば、学会にもお知らせしてくださるのが本当であろうと思いますが、それはともかく、大きな修正案が水面下で用意されていくあり方に先生は、国会議員としては国民に説明義務があることをどうお考えですか。
私は、民主党案が、日和見であるなどという意見をもったことはありません。(むしろ臨床精神科医と弁護士の共同声明が述べたように評価すべきというように考えます。)
上記ホームページに載せられていない私の意見を述べます。先生の大幅修正の性格を占いたいと思います。
自民党・与党修正案の批判 2002年11月18日
京都大学医学部精神神経科教室 吉岡隆一
すでに日本弁護士連合会(11/11)、「臨床精神科医と弁護士の共同声明」、日本精神神経学会精神医療と法に関する委員会(11/15)が修正案の骨格について批判を発表している。
屋上屋を重ねながらもここに再度批判することをいとわないのは、立法の趣旨から離れて修正の文言の字面をみてあたかも批判が反映されたと評価されることを峻拒するがためである。
I 立法の趣旨と目的
修正案が原案の修正であって、廃案の上に立つのではないかぎり、修正案と原案は共通の立法の趣旨と目的を有するのである。
立法の契機は池田小学校事件にあった。立法の趣旨は精神障害者の再犯の予防にあった。これを隠蔽することはできない。そうした姿勢を法案提案者がとることは、不誠実で率直さを欠いた、厚顔なものである。
第1条目的の第1項は修正案でも不変である。「その病状の改善及びこれに伴う同様の行為の再発の防止を図り、もってその社会復帰を促進することを目的とする」とする第1条第1項は、「心神喪失等の状態で重大な他害行為を行ったもの」を対象として、手段としての「医療」を加え、その結果として「同様の行為の再発の防止」が得られた場合に、「もって」社会復帰が促進される、と述べているのである。
対象者は二つの限定を受けている。すなわち心神喪失者・心神耗弱者であること、及び重大6罪種を行っている(当該犯罪行為と以下略する)ことである。
概念上は心神喪失心神耗弱者では、当該犯罪行為と病状との関連が明らかであるが、実務において、この関連の検討が不十分か歪んでいることが、7者懇をはじめとした精神医療従事者から寄せられた問題であった。起訴前段階における鑑定実施率は低く、そのうちの鑑定のほとんどが簡易鑑定であり、国会答弁で古田参考人等が述べた精神病質=完全責任能力なる判断は犯罪白書でも判例をみても虚偽である。
心神喪失心神耗弱は罪種に本来かかわりがない。微罪・重罪を問わずある違法行為と病状の関連が明らかである場合、医療への導入面でその両者を区別することは無意味である。
さらに「重大犯罪者」に固有の医療内容はない。したがって、重大6罪種に限定されている意味は、医療からは説明できず、刑事政策としての意味、「同様の行為の再発」=重大な再犯、の予防からしか説明できないのである。
修正案第2項「この法律の処遇に携わる者は・・目的を踏まえ、・・円滑な社会復帰に努めなければならない。」の付け足しは、文言中あるように第1項の目的に従属した、あらずもがなの付け足しであるか、あるいは本質的には、この法案が想定する「医療」・処遇内容が社会復帰を促進することにしばしば違背しかねない強制的・矯正的なものであるから必要になったか、どちらかということになる。
第1条とその修正が示しているものは、結局目的が刑事政策にあることおよび通常の医療と異なる「医療」を想定しているということだけである。
II 入院決定の要件等
修正案では「入院をさせて医療を行わなければ心神喪失心神耗弱の状態の原因となった精神障害のために再び対象行為を行うおそれ」を「対象行為を行った際の精神障害を改善し、これに伴って同様の行為を行うことなく、社会に復帰することを促進するため、入院をさせてこの法律による医療を受けさせる必要があると認める場合」に変更するという。
この文言は第1条の文言を、「入院をさせて」以下に継ぎ足しただけのものである。これが「修正」とは笑止の沙汰である。
もちろん「同様の行為を行うことなく」とあるからには、再犯予測は含まれている。「入院をさせてこの法律による医療を受けさせる必要があると認める」とは、要するにこの法案下の入院処遇を行う必要があると認めた場合でしかないから、無内容な循環論法である。
これは一部のものが誤解したがるであろう様な、再犯予測から医療判断への変更などではない。
医療判断ならば、裁判官が医療者と共同した判断をする必要などない。どこの世界に、投薬や手術の適応を医者と共同して決定する裁判官がいるのか?
裁判官が関与しなければならないのは、現行措置入院制度と異なった目的と判断、処遇が異なる故であるからこそである。目的の違いは I で述べた。判断の違いは第1条の引き写しで再犯予測を含むことを明らかにした。処遇が異なることは明白である。無期限の指定入院医療機関への入院、指定通院期間中に遵守すべき住居、等々であって、通院の上限まで設定しなければならないほどの、強制的・矯正的処遇が違うのである。
III 修正案における申し立て期間の禁止の撤廃
154国会における古田参考人に因れば予測は短期長期といった性格のものではなかった。つまり期間にかかわらず危険な精神障害者を選び出して本法案の処遇におくことを彼は求めたのであって、この修正を行ったところで、再犯予測の予測期間を今に至るまで明示しない提案者の姿勢が是正されたのではない。
この修正の意味はもっぱら、申し立ての機会を保障しなければ人身の自由は奪われてはならないからという建前からくるのであり、申し立ての機会さえあればどういう長期の予防拘禁も違憲ではないといえるからに過ぎない。
提案者の姿勢は一貫している。
ついでに言えば申し立てを現状の地裁はどう迅速に処理するつもりか。
IV 結論
これは修正などではない。幻惑されてはならない。これまで法案に反対の態度を示してきた人々がその態度を変更するべきではないことを重ねて注意する。
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