「心神喪失者医療観察法案」国会情勢緊迫! 法案は廃案しかない! 2002年11月18日
国会議員へのメール 長野英子
何度もメールその他でお邪魔しております。長野英子です。長文ですが、どうぞ最後までお読みいただけますようお願いいたします。
私は現在49歳になる「精神病」者です。十代より精神病院への入退院を繰り返しております。私は全国「精神病」者集団の会員としてこの20年余り反保安処分を訴えて活動してまいりました。それは一人の仲間も排除しないという闘いでもありました。当然獄中の精神病院入院中の仲間との交流もしております。
私の経験からも多くの仲間の経験からも、私たちの苦悩の中心にあるのはむしろ病そのものではなく(もちろん病の苦痛は否定できませんが)、発病したとたん、人として扱われなくなること、人権を否定されること、あたかも存在しないもののように自分の人生を他人が決めてしまうことです。そして私たちをあらゆる場所から排除する精神障害者差別です。
全生活を規制され、社会から隔離される精神病院入院生活はその極限です。
まず人権の復権を、というのが私たちの悲願です。
今「心神喪失者等利用観察法案」が国会で審議されようとしています。この法案は精神障害者にのみ予防拘禁制度を敷こうとするものであり、ひたすら精神障害者差別に基づく法案と談じざるを得ません。
既に自民党より「修正案」が出されたと聞きますが、そもそもなぜ「修正」が必要となったかは、当事者団体はもちろん精神医療保健福祉関係団体から厳しい批判と反対の声があり、また国会審議の過程でもさまざまな法案の問題点が出され、それに対して政府はまともに答えられなかったためです。
批判点は、
1 精神障害者のみを予防拘禁するのは精神障害者差別そのものである。法案は「精神障害者は危険」という差別を助長するものである。
2 法案の目的が「再犯防止」である以上、拘禁の長期化は必至であり、法案の下では医師患者の信頼関係はありえず、医療は成り立たない。「医療なき監禁」が長期化するだけである。
3 不起訴の場合は「重大な犯罪にあたる行為」をしたか否かの事実認定が裁判すら受けられずに決定され、いわば冤罪による拘禁が予測されること
5 対象とされると、精神障害者であり、重大な犯罪にあたる行為をしたことがあり、かつ再犯のおそれがあった、という三重の烙印がおされ、社会復帰は不可能である。
4 その他法案の手続きのためいたずらに医療への導入が遅れ、治療の機会を失うという決定的な欠陥、わずかな特別施設に収容されることにより地域から切り離され社会復帰に重大な支障が及ぶ。などなどが指摘されました。この法案の目的が「再犯防止」である限り、どのように修正しようとも上記の批判点には答えることのできません。
仄聞するに政府はこの法案が廃案になるとこの先当分精神保健福祉関係の予算が認められなくなる、といっているそうですが、これこそまやかしです。法案がいったん成立すれば、その運用には莫大な予算が必要となり(イギリスでは直接費用だけで一人当たり1年に2500万あまり、それに人権保障のためのリーガルエイドを加えればどれだけ多額の予算かお分かりでしょう。予算をかけなければ悲惨な状況となることは諸外国の例で明らかです)、突出した施設にのみ予算が配分され、精神医療福祉保健全体には一切予算が回されてこないことすら予想されます。
すでに精神病院病棟を転用した院内の「社会復帰施設=福祉ホームB型」に長期入院患者を移動させるという、社会復帰どころか新たな安上がり収容となる方向すら民間精神病院経営者の利益のために進められようとしています。長期入院患者こそがこの国の精神医療政策の誤りの生き証人です。実りあるべき人生を10年、20年と奪われてきた仲間への謝罪と復権への補償こそがまずなされるべきであり、彼らを再び三度私立精神病院経営者の固定資産とさせてはなりません。
石川信義医師(三枚橋病院院長)は『心病める人たち―開かれた精神医療へ―』(岩波新書、1990年)のなかで幼いのころの思い出を語り、「ドンブリ一杯、薪割りイチーンチ!(丼一杯のご飯をごちそうしてくれるなら、 薪割り仕事を一日します)」と大声で、薪割りを肩に町のなかを歩く男がいた。筆者の母親も含め町の人たちはいつもその男に薪割りを頼み食事を振舞っていた。幼い筆者は薪割りが面白く、いつもその男の薪割りをそばでしゃがんでみていたと語っています。
こうした状況が、国の隔離収容政策により地を払い、隔離そのものが人々に精神障害者差別を植え付けたことは歴史的事実です。
今この法案を成立させるならば、私たちは再び三度隔離収容の対象、予防拘禁の対象として、位置付けらます。誤った歴史を繰り返してはなりません。
だからこそこの1年余り、多くの精神障害者が、この法律の廃案に向け闘って来たのです。この闘いに参加している精神障害者が、障害の軽い者で余裕があるという誤解がおありかもしれませんが、そうではありません、各地の仲間は入退
院を繰り返し、経済的逼迫に悩みながら闘っています。命がけの闘いであるといわざるをえません。いつ死者が出てもおかしくない状況です。この夏国連では障害者権利条約の議論が開始され、私ども全国「精神病」者集団も参加しているWorld Network of Psychiatric Users and Survivors (世界精神医療ユーザー・サバイバーネットワーク)からの強制医療の廃絶も含めた力強い発言がありました。こと人権に関してはいかなる差別もあってはならないという私たちの願いが国連の場で確認されたのです。
こうした国際的な流れに反し一人日本のみが隔離収容を続け、さらに予防拘禁法まで新設するなどということは許されません。
即刻この法案を廃案にし、国会議員の本来の責務として、私たち精神障害者の人権回復と根本的精神医療改革に向け努力なさるよう要請いたします。
2002年11月18日
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