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「心神喪失者医療観察法案」国会情勢緊迫! 法案は廃案しかない!


国立精神療養所院長協議会、精神医学講座担当者会議の
心神喪失者医療観察法案に関する要望書に対する批判

                             富田 三樹生        
(日本精神神経学会・精神医療と法に関する委員会 委員長)
星野 征光(星のクリニック)
高木 俊介 (ウエノ診療所)
中島 直   (あおば病院)
吉岡 隆一(京大病院精神科)

 本年10月23日および26日、国立精神療養所院長協議会および精神医学講座担当者会議が、相次いで「心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律案」に関する要望書を公表した。
 この2つの要望書は、次の2点において、とうてい容認しうるものではない。まず、要望書は、法案そのものを全く理解できていない。さらに、要望書は、司法と医療の双方からの深刻な差別と抑圧のもとにある現在の精神障害者のおかれている状況を、全く認識できていない。
 以下、各要望項目に沿って批判を加えていく。

(1)23日付国立精神療養所院長協議会の要望書について
 この要望書は、5つの項目を挙げ、これらの点について修正が加えられるか、あるいは国会の審議の場で明確な答弁がなされ、記録として残すことがなされれば、本法案に対する基本的な問題の多くは解消される、としている。

1 要望書は、「1」として、「本法律の目的は心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者に対して継続的かつ適切な医療を行い、疾患の再発防止をはかるものであり、『再犯の防止』はその結果として期待されるものであって、目的そのものではない。」としている。
 しかし、この法律案には、目的として、第一条に「同様の行為の再発の防止」と明確に謳われているのであり、これを目的ではなく結果に過ぎないとするのは、内容としては単なる修正ではなく、廃案の要望にしかならないはずである。

2 「2」として、「社会復帰の促進という本法案の目的に鑑み、現行精神保健福祉法との関連性を更に明確にする。本法律に規定された『退院』以降の社会復帰の過程においては精神保健福祉法による入院を可能にするなど具体的方策を加える。更に、
指定入院医療機関、指定通院医療機関の設置数について、地域性を考慮した全体像と整備プランを提示する。」としている。
 この項目はその具体的内容が明確にされていないが、本法律案の「退院」後、精神保健福祉法に基づく任意入院や医療保護入院を行うことは排除されていないから、この項目は「退院」後の措置入院がスムーズに行えるよう、通報や移送のシステムを確立せよとの趣旨としか考えられない。本法律案の「退院」後、措置入院になるということは、本法律案の制度の中で「再び対象行為を行うおそれがない」とされた上で、措置診察において「自傷他害のおそれがある」とされるという判定がなされるということである。こうしたことはとうていあり得ない。これは、本法律案と精神保健福祉法とが目的を異にしているから起きる矛盾なのであり、そこを認識できていないからこそこのような項目が出てきてしまうのである。

3 「3」として、「検察における適正な起訴前鑑定のあり方を検討する。また、その段階で不起訴となった者について、本法案による鑑定が行われた結果、責任能力ありと合議体が判断した場合には検察に差し戻される。」としている。
 実はこの項目はすでに法案第40条2項に記されており、その点につき認識がないとすれば国立精神療養所院長協議会の諸氏は法律案の条文すら十分読み込まないままにこの要望書を作成したということになる。その点はおいた上で、この40条2項の問題も含めて付言すれば、本法案における鑑定は再犯予測鑑定であり責任能力鑑定ではないのであり、また現在の刑事裁判の実情から、裁判官が独自の責任能力判断を行うことができないことが強く危惧されることは、すでに日本精神神経学会・精神医療と法に関する委員会が本年4月に述べた。この項目は、国立精神療養所院長協議会の諸氏が本法案の生命線ともいうべきこれらの問題に理解がないことを露呈しているのである。

4 「4」として、「鑑定の段階での治療の対象とならない薬物依存、知的障害、人格障害等は本法律の対象としない。」としている。
 「鑑定の段階での治療」とは文意が判然としないが、治療適応性の無い者は本法案の対象としない、との趣旨と解される。しかし、本法案の対象者は、その名前が示すように、責任能力に問題ありとされた者であり、法案の目的は再犯防止にあるのであるから、治療適応性問題は立法趣旨とそもそも相容れない。さらに、現在の再犯予測の水準では、これらの者を対象から除いてしまうと、再犯予測などはほとんど成り立たないのである(本年9月付、日本精神神経学会・精神医療と法に関する委員会、再犯予測についての報告参照 http://www.jspn.or.jp/9ken.html)したがって、これらが対象にならないならば、法案は名実ともに、精神障害者へのスティグマの強化をもたらすのみであるというほかないであろう。

5 「5」として、「本法案は5年後に見直しを行う。」としている。以上の問題があると指摘するならば、はじめから反対というのが合理的である。

 国会審議の場で答弁を求め、それがあれば容認するとの立場は、結局のところ法律案をそのまま認める立場と同じである。なぜならば、国会審議の場での答弁などは全く拘束力がないことは歴史が証明している。精神科医療の問題に限っても、これまで何度となく精神科医療の改善は厚生労働省官僚らによって答弁されてきたが、それは遅々として進んでいない。平成7年および11年の精神保健福祉法改訂のときの附帯決議で、実行されているものが果たしていくつあるであろうか。こうした歴史認識に立つことなく、「答弁があれば大丈夫」と確信するのは、全く何の根拠もないのである。

(2)26日付精神医学講座担当者会議の要望書について
 この要望書は、「本臨時国会において本法案が再度審議されるにあたり、講座担当者会議は司法と医療とがよりよい制度の確立のために協力する機会を今後長期間失うことが絶対にないようにすべきであるとの結論に至った。」として法案の成立への意欲を明確にした。そして、7つの項目を挙げ、「修正ないし付帯決議、国会での明確な答弁がなされるように強く要請するものである。」としている。国立精神療養所院長協議会の要望書と同様の構造を有しており、「絶対」との言葉が挿入されていることからより法案成立への意思を強固に表明していると言える。

1 この要望書は、「1」として、「精神障害をもつ被疑者が拘留当初から治療を受けつつ、精神鑑定をうけることができるシステムが必要であり、検察における適正な起訴前鑑定のあり方を検討する。精神鑑定入院の規定、鑑定入院施設に関する事項を明確にするとともに、鑑定を行う精神科医の資格、身分保障に関する事項を明確にする(例えば、鑑定を行う精神科医には鑑定認定医という国家資格と法務技官ような身分保障など)必要がある。」(文章ママ)としている。
 ここで言う「精神鑑定」は、本法案における再犯予測鑑定ではなく、現行の起訴前鑑定を指すものを思われる。しかるに、起訴前精神鑑定の問題は全く省みられないまま、むしろその問題を隠蔽するかのように、この法案が審議されていること自体が問題なのである。そして、このことこそがこの法案の最大の問題の一つなのである。この項目は、精神医学講座担当者会議の諸氏のそのことに対する認識欠如の露呈である。この要望は、政府は歯牙にもかけないであろう。

2 「2」として、「薬物依存や人格障害患者の精神療法、薬物療法については様々な研究が行われているが、まだ、一般的な療法としては確立していない。したがって、治療適応性を考えると、鑑定の段階での薬物依存、知的障害、人格障害等は当面本法案の対象から外す必要がある。」としている。
 「鑑定の段階での薬物依存、知的障害、人格障害等」という文言が意味不明であることも含め、この項目は国立精神療養所院長協議会の要望書の「4」とほぼ同趣旨と考えられ、そこで述べた批判がそのままあてはまる。

3 「3」として、「本法案の要点は心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者に対し、裁判官と医師との合議体の決定による鑑定入院命令、入院・退院命令で、適切な医療を受けさせることにある。精神科医の病気の再発の予測、調査官らによる
ソーシャル・サポートの評価などに基づく、再犯のおそれの判断も裁判所の責任で行うことを明確にする必要がある。この合議体の活動を支援し、再犯のおそれの判断を一層正確にするために裁判所調査官、臨床心理士、精神保健福祉士などの人材の確保
と研修の充実が必要である。」としている。
 「本法案の要点は…適切な医療を受けさせることにある」との認識が正しいならば、何故にその医療の内容、人的構成、予算等が明確に提示されないのであろうか。
 対象行為が重大6罪種に限定され、再犯予測鑑定、裁判所決定、抗告制度などが規定されているのは、まさに再犯が問題とされ、その予防が第一の目的であり、そのために裁判官を加えるのである。医学的治療や病状の改善という目的には、こうした枠組みは馴染まない。そして、再犯のおそれの予測が不可能であり、「人材の確保」「研修の充実」といった問題でこの不可能性を覆すことができないことは、この問題についての詳細な文献調査を行った前述の精神医療と法に関する委員会の「再犯予測
について」によっても明らかにされている。精神医学講座担当者会議の諸氏は、もし学問を行う者なのであれば、学問的見地に立って議論を立てるべきである。
 また、特に、昨年度の厚生科学研究で示されたように、起訴前の簡易鑑定において精神病質者の約2割が心神喪失ないし心神耗弱とされており、すなわちこれは本法案の対象者とされる。精神病質者の「再発」とは何であるかを言わずに、「再犯のおそれ」判断を「再発のおそれ」判断に置き換えることを要望することは無意味である。

「4」として、「検察で不起訴となった者について、本法案による鑑定が行われた結果、責任能力があると合議体が判断した場合には検察に差し戻される。また、治療後、自分の病気について病識を深め、起こした犯罪についても認識し、贖罪することを求める事例があるので、医療から司法に戻すシステムの構築も必要となる。」としている。
 「検察で不起訴と…差し戻される。」については、すでに国立精神療養所院長協議会の要望書の「3」で触れた。「治療後、…必要となる。」については意味不明である。精神医学講座担当者会議の諸氏は、刑事司法における責任主義について否定してこのような文章を作っているのであろうか。医療から司法に「戻す」とは、刑罰を科するということである。心神喪失で無罪であっても、贖罪のために刑務所で刑を受けるべきであるという趣旨なのであろうか。

5 「5」として、「本法案に規定された退院後の社会復帰を促進させるため、退院ケアマネージメント制度に、地域生活支援センターやグループホームなどを組み込ませた司法医療福祉システムを構築し、保護観察所と連携する。この社会復帰過程にお
いては精神保健福祉法による入院を可能にするなど、現行の精神保健福祉法との関連も明確にする必要がある。」としている。
 本法案と精神保健福祉法との目的の相違はすでに国立精神療養所院長協議会の要望書の「2」で述べたとおりであり、精神医学講座担当者会議の諸氏もこの項目でこの点に関する無理解を露呈している。

6 「6」として、「触法精神障害の処遇に関する実態の情報公開と、本法案の5年後の見直しの条項を入れる必要がある。」としている。
 情報公開が法務省の厚い壁に阻まれてできていないことを、精神医学講座担当者会議の諸氏は如何に考えているのであろうか。また、見直しが必要とするならば、最初から反対とすべきであろう。

7 「7」として、「矯正施設内においても矯正教育だけでなく、精神科治療を要するケースが多数あり、精神科医療の充実が再犯の防止に不可欠であるので、司法の責任で行う矯正施設内の精神科医療を明確にする必要がある。」としている。
 矯正施設内の医療と人権の実態調査については、きわめてガードが堅いのは法務省の今までの対応ではっきりしている。このような法案が通れば、法務省はますます、この項目などを問題にする根拠を否定するであろう。司法の実態への批判的視点を欠如させた上で、司法に媚びるものなのである。

 精神医学講座担当者会議の諸氏が要請する、付帯決議や国会での答弁などが何らの力も有さないことも、すでに国立精神療養所院長協議会の要望書についてのところで触れた。

 以上のように、2つの要望書は、再犯の予防という法案の最大の目的とそこから生み出された法案の構造を、意図的に無視しているのでないとすれば、まったく理解できていないのである。さらに、「再犯予測は不可能である」という事実については、頬被りして避けて通ろうとしている。その上で「司法と医療の関係のために法案を認める」という協調的融和的なアピールを行って政府にすり寄りながらも、なおかつ自分たちにも一家言はあるといういじましい姿勢だけを強調しようとしている。その結果、これらの要望点は、そもそもこの法案に求め得ないもの、この法案にすでに書き込まれているもの、刑法の責任主義すら理解していないなど司法に関する基本的な理解の欠如しているものを含んだ、支離滅裂なものとなっているのである。

 これらの要望書は、即座に撤回されるべきである。
以上


要望書 国立精神療養所院長協議会(2002年10月23日)

要望書 精神医学講座担当者会議 (2002年10月28日)



2002年11月6日 入手

法務省・厚生労働省

【論点整理】
【心神喪失者等医療観察法案の必要性について】
【民主党提案の内容について】
【指定入院医療機関への入退院の判定について】
第154回国会衆議院法務委員会・厚生労働委員会連合審審査会議事録 (人格障害関連)

法務省・厚生労働省の「論点整理」を批判する!

2002年11月6日 

その1「論点整理」について 弁護士 大杉光子 
その2 論点整理ペーパーの批判 「再び対象行為を行うおそれ」を「重大な他害行為を行うおそれ」へ変更することについて 吉岡隆一

2002年11月7日 

その3「法務省・厚生労働省ペーパー」について 日本精神神経学会・精神医療と法に関する委員会委員 中島 直 



「心身喪失者医療観察法案」 国会審議等

池田小学校事件および特別立法に関連する声明一覧

心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律(案)


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