「心神喪失者医療観察法案」国会情勢緊迫! 法案は廃案しかない! 2002年11月12日
臨床精神科医と弁護士による緊急共同声明 どういう「修正」もいびつになる法案は廃案にするしかない。 精神医療一般の推進は本法案成立の取引材料にはなりえない課題である。 そもそも問題点はどこにあったのかを想起しなければならない。
池田小学校事件を契機に、特段精神障害者の犯罪は増加していないと法務省が認識していたにもかかわらず、急遽立案上程された立法理由の欠如。
池田小事件を受けて、刑法39条廃止を求める一部の世論。
ずさんで不十分な簡易鑑定や鑑定未実施の上にたった検察の起訴前責任能力判断の問題の指摘とその実態の明確化。
刑事手続きのうちで、治療適応があるのに治療が遅れる例の指摘や矯正施設での治療の不十分さの指摘。
再犯予測が不可能である事の明確な指摘。
精神病質者(人格障害者)の責任能力判断の実態の露呈と国会での虚偽答弁。
日本の長期入院の異常な多さとコミュニティケアの遅れ。
国連原則違反の差別的精神科特例。これら問題点の解決に対して、法案とそれらの修正はことごとく無意味である。政府は、再犯予測が不可能である事を突きつけられて法案原案の「修正」を試みたが、即座の批判を受けて再度修正を模索しているようであり、今後も妥協ためのトリッキーな提案がなされるだろう。さまざまな提案の性格を見抜くための試金石を、ここで再度明確にする。
1「修正」の試金石
目的(第1条)、対象行為と対象者の定義(第2条)、合議制(第11条第1項)、検察官による申立て(第33条)、対象者の鑑定(第37条)、裁判所による入院等の決定(第42条)、通院期間の制限(第44条)、指定入院医療機関の管理者による退院申立て、入院継続申立て(第49条)、退院許可等の申立ての禁止期間(第50条第2項)、退院又は入院継続の確認の決定(第51条)、退院・入院の継続に関する対象者の鑑定(第52条)、保護観察所の長による処遇の終了または通院期間の延長申立て(第54条)、処遇終了申立ての禁止期間(第55条)、裁判所による処遇終了または通院期間延長の決定(第56条)、対象者の鑑定(第57条)、保護観察所の長による再入院申立て(第59条)、裁判所による再入院決定(第61条)、対象者の鑑定(第62条)、抗告(第64条)、必要的付添人(第35条、第67条)等々のすべてに修正を加えるつもりか。そのつもりのない「修正」は無意味、欺瞞である。
この立法の趣旨は再犯防止を目的とするところにある。そのために、再犯予測を行い、精神科医のみならず裁判官が判断に関与し、特別の施設における高度の強制的矯正的「医療」を行うのである。このように、再犯防止目的から本法案の構造が導かれる。これらの条文は、目的や対象者・対象行為を規定・限定しているか(目的・定義)、再犯のおそれ判断の実施を規定するか(鑑定・決定)、この法案が高度の強制・矯正「医療」であるが故のセーフガードであるか(抗告・必要的付添人)、高度の強制・矯正「医療」実施の保障であるか(申立ての禁止)のどれかであって、一体となった構造である。
これらの条文すべてではなくいくつかあるいは一部のみの訂正は、すべて本法案の性格を変更するものではなく、単なる目くらましでしかない。
仮に、本法案=再犯防止のための不可能な再犯予測に基づく「医療」の名を借りた刑事政策(予防拘禁あるいは刑罰の代替措置)、の性格を薄めるために、医療的福祉的文言を一部にちりばめたとしても、そのような修正は本法案の性格を本質的に修正するものにはなりえない。
翻って、これらすべての条文を修正しなければならない法案はもはや法案の体をなしていない。廃案しかありえない。
国会議員は、国民の付託を受けて、立法に従事する。これだけの項目すべての修正は水面下での折衝に委ねられるべき事柄ではない。2 再犯のおそれを判断することは裁判官にせよ医療者にせよ、誰にもできない。
できないことを合議することは無意味であり、できないことをめぐって役割を分担させることは修正になりえない。
再犯のおそれの判断ではなく医療上の判断を医療者以外のものに行わせる方向での、合議体の決定の形式・役割いじりは言葉遊びに過ぎない。説明を要しない程自明な事柄である。裁判官・検察官を含んだ司法官は、法律判断こそを厳正に行わなければならない。その実態が問題とされるべきであり、民主党対案にその解決のための志向が反映している。
司法関与はそもそも再犯のおそれの判断を医療者に任せることは責任が重いということで正当化が図られてきた。しかし医療者に限らず誰にもできないことを指摘されるに及んで、もはや関与の必然性はなくなっている。
再犯のおそれでない医療上の判断に裁判官が関与する事はそもそも医療の専門性の否定であって、医療者がそれを提言することは自己矛盾である。
精神障害者のみに対して、不可能な再犯予測によって自由を奪うことが差別であり、許されないのは当然である。3 本法案における附則や付帯決議において一般精神医療の改善を謳う「修正」は実は本末転倒かつ有害でさえある。
犯罪にあたる行為を犯した精神障害者の一部を対象とし、その前提たる心神喪失心神耗弱判断が不十分・曖昧であり、再犯防止という目的に立脚する再犯予測に可能性がなく判断者がありえず、その治療法に確立された格別のものがなく強制構造だけが突出し、そもそも立法されるべき根拠がなく全体として見るべきものがないこの法案の附則や付帯決議において、とってつけたように一般精神医療の改善を謳う「修正」は本末転倒である。根拠のないものをいくら飾り立てたところで、根拠が生まれるわけではない。
医療法特例という明白な差別の是正という一般精神医療の充実の基本さえ長年にわたって見送ってきた厚労省なり日精協なりがこの法案の推進者であり、その法案の附則や付帯決議で一般精神医療の充実を謳うのは奇妙である。
本法案の推進論者の一部には、わが国のコミュニティケアの遅れは心神喪失者心神耗弱者に対する特別法がないからであると主張する者がいる。しかし、諸外国の研究も示唆する通り、コミュニティケアの推進が精神障害者による犯罪を増加させたという証拠はない。つまり、前述の推進論者の主張は詭弁でしかない。
むしろ、この法案自体が精神障害者は危険だから隔離されるとの偏見をばらまく結果になって有害でさえあるだろう。4 起訴前責任能力判断の是正、治療適応のある事例に迅速適切な治療を起訴前責任能力判断の終局決定を待たずに開始できる保障、矯正施設の治療向上の3点セットを含む施策こそが求められている。現法案に含まれていないこれらの事項に対する回答こそが求められていることを、想起しなければならない。
結局犯罪にあたる行為を犯した精神障害者に対して、再犯予測に則って治療を提供し再犯を予防する事は不可能である。可能なのは責任能力判断を含む法律判断を厳正に行いつつ刑事手続きの適正さを確保しながら、刑事手続きのあらゆる段階で治療適応のあるものは治療を行うことによって、司法と医療がそれぞれの応分の責任を果たす事である。そしてこの着実な実行こそが財政的な裏づけを持ったものとして求められる。法律のしかも見当はずれの条文とその小手先の修正は、何の実効性もない。
結局、これらの試金石をすべてクリアできる「修正」はあり得ない。このような法案は廃案にするしかない。
以上
共同声明者(2002年11月19日現在)(精神科医 38人)
浅野弘毅 石川憲彦 磯村大 上島哲男
大下顕 岡崎伸郎 岡田靖雄 小原基郎
片岡昌哉 川瀬典夫 金光洙 五島幸明
早苗麻子 杉田憲夫 高岡健 高木果
高木俊介 高橋武久 椿恒雄 寺岡葵
富田三樹生 中島直 長田正義 花岡秀人
浜垣誠司 浜野徹二 平井清 広田伊蘇夫
藤城聡 星野征光 細田眞司 待鳥浩司
村上靖彦 望月紘 森俊夫 森山公夫
横山太範 吉岡隆一(弁護士 32人)
足立修一 池原毅和 位田浩 伊山正和
上田序子 大杉光子 大槻和夫 川口和子
木村修一郎 草場裕之 児玉勇二 里見和夫
新谷正敏 鈴木敦士 高松恵美 武田信裕
土肥尚子 遠山大輔 戸田洋平 長澤正範
中島俊則 中田政義 中西義徳 中山研一
東俊裕 舟木浩 堀和幸 三野岳彦
宮本恵伸 武藤糾明 八尋光秀 山口格之賛同者(2002年11月19日現在 10人) 大賀達雄(目黒精神保健を考える会)
大塚淳子(日本精神保健福祉士協会常任理事)
須田春海(全国市民運動連絡センター)
塚本正治(大阪精神障害者連絡会代表)
仲地b明(日本精神科看護技術協会常務理事)
長野英子(全国「精神病」者集団会員)
長谷川幸枝(刑法改悪阻止!保安処分粉砕!全都労働者実行委員会)
森泰一郎(全障連関東ブロック)
山本深雪(NPO大阪精神医療人権センター事務局長)
龍眼(予防拘禁法を廃案へ!秋季共同行動事務局長)
2002年11月6日 入手
法務省・厚生労働省
- 【論点整理】
【心神喪失者等医療観察法案の必要性について】
【民主党提案の内容について】
【指定入院医療機関への入退院の判定について】
第154回国会衆議院法務委員会・厚生労働委員会連合審審査会議事録 (人格障害関連)法務省・厚生労働省の「論点整理」を批判する!
2002年11月6日
- その1「論点整理」について 弁護士 大杉光子
- その2 論点整理ペーパーの批判 「再び対象行為を行うおそれ」を「重大な他害行為を行うおそれ」へ変更することについて 吉岡隆一
2002年11月7日
- その3「法務省・厚生労働省ペーパー」について 日本精神神経学会・精神医療と法に関する委員会委員 中島 直
「心身喪失者医療観察法案」 国会審議等 池田小学校事件および特別立法に関連する声明一覧 心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律(案) 精神医療ニュースへ 全国精神医療労働組合協議会 事務局 : 〒604-8854 京都市中京区壬生仙念町30-2 ラボール京都4F 京都民間医労連気付 Tel/Fax: 075-811-5672 E-mail zenkoku@seirokyo.com
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