司法精神医療プロジェクト

日精協誌 第20巻・第2号 2001年2月>

 触法精神障害者,とくに重大犯罪を犯した精神障害者の処遇については,これまで日
精協誌に何度か特集が組まれ,精神保健福祉法改正にあたって日精協から重大課題と
して要望をしてきた。また精神保健懇話会においても取り上げられ,わが国における
司法精神医療の確立が求められてきた。こうした結果,精神保健福祉法改正において
は衆・参両議院において「重大な犯罪を犯した精神障害者の処遇の在り方については
,幅広い観点から検討を早急に進めること」という付帯決議が盛り込まれた。
 こうした動きのなかで日精協においても,「触法精神障害者対策プロジェクトチー
ム」を平成12年1月に発足させ検討を行っていたが,今年度から名称が「司法精神医療
プロジェクトチーム」と改められ,継続した検討・活動を行ってきた。昨年9月26日に
はカナダの司法精神医学の専門家であるワイスタブ教授とフロレッツ教授,オランダ
のヴァン・マーレ教授の来日により司法精神医療に関する研究会が開かれ,長尾が
「わが国の司法精神医療の現状」と題した基調講演を行った。ワイスタブ教授らより
,司法システムは法・保健・矯正の3つの協力体制がなければ効果的に運用されない
こと,司法的枠組みがなければ,他の患者や職員に対する暴力が増し,治療の評価の質
が低下すること,過剰な拘束・拘禁による人権侵害や早すぎる退院など不適切な治療
・入院のおそれがあること,専門的治療・処遇のトレーニングの場が確保されないこ
となどが指摘された。
 プロジェクトチームでは昨年10月4日に別添の「重大犯罪を犯した精神障害者の処
遇のあり方についての提言」をまとめて提出し,常務理事会および理事会で承認され
た。またこの間,以前よりこの重大犯罪を犯した精神障害者の処遇について関心を持
たれていた保岡興治前法務大臣が,司法処分と治療のあり方について法務省と厚生省
の合同検討会発足の準備に入ったことを記者会見で発表された。
 今後われわれも提言をもとに法務省,厚生労働省はもとより政治的にも運動を展開
していく所存であり,会員各位にもご協力をお願いして報告といたします。
                          長尾卓夫(兵庫高岡病院)

重大犯罪を犯した精神障害者の処遇のあり方についての提言

精神障害者のノーマライゼーションを進めるために

○精神障害者に対する誤解・偏見をなくすことが必要
○そのためには国民の精神障害者に対する不安除去が必要
○重大犯罪を犯した精神障害者がどのような処遇や治療がされているかの情報がない
○殺人を犯しても刑にも問われず,入院治療もしない例があることに,国民のコンセン
サスは得られない
○被害者・その家族にも不十分な情報とやりきれない不全感を残している
○精神障害者にも裁判を受ける権利

現行司法制度の問題点

○検察で不起訴処分とされる精神障害者は89,4%,殺人の場合83.8%,強盗85.2%は不起

○不起訴の根拠とされる鑑定は簡易鑑定が多いが,簡易鑑定さえないことも多い
○簡易鑑定は各都道府県により異なるが,ごく短時間の診察によって診断される傾向
○不起訴とされた犯罪を犯した精神障害者は,措置診察へ。
○措置診察によって入院不要とされることもある。
○その場合に再び司法の手に戻せない
 #表1,表2,表3,表4参照

現行の精神医療における限界(司法制度の必要性)

○重大犯罪を犯しても措置症状がなくなれば1週間でも退院可能
○治療抵抗性で対応困難な例では他の入院者や看護者の安全が守られない場合がある
○現在の医療制度上での人員配置では対応困難
○そのために過剰な長期隔離や早すぎる退院もある
○重大犯罪を犯した入院者に対する精神科医師および病院の責務は過大である
○退院後の再発・再犯を防ぐフォローシステムの欠如

重大犯罪を犯した精神障害者処遇についての提言

○司法制度と精神医療の相互補完が必要
○重大犯罪を犯した精神障害者は裁判にかけられるべき,精神障害者も裁判を受ける
権利がある
○重大犯罪を犯した精神障害者の入退院には裁判所の判断を入れることが必要
○退院後の司法による保護観察的なフォローシステムが必要
○重大犯罪を犯した精神障害者の人権に配慮した治療施設の創設
○司法精神医学教育の確立

司法精神医療プロジェクトチーム   
日本精神病院協会          
副会長 津久江一郎     
常務理事谷野亮爾      
理事  長尾卓夫      
 関山守洋      
 浅井邦彦      
 新貝憲利      
 犬尾貞文      

表1, 心神喪失・心神耗弱者の人員(平成6年〜10年)注 法務省刑事局の資料によ
る。
表2, 罪名・精神障害名別処分結果(平成6年〜10年の累計)注1 法務省刑事局の
資料による。 2 ()内は,構成比である。
表3, 罪名犯行後の処遇・治療状況(平成6年〜10年の累計)注1 法務省刑事局の
資料による。 2 「実刑・身柄拘束」とは,当該事件について懲役又は禁錮の実刑
判決を言い渡された者,その他刑事手続きにより身柄を拘束された者をいう。 3 
()内は,構成比である。
表4,重大犯罪を犯した精神分裂病者320例の犯行後の入院の有無,及びその後5年以
内の退院の有無,退院時病状等について(東京医科歯科大学教授 山上 皓 1980調
べ)


法務省・厚生労働省合同検討会

関連資料

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