全家連から精神神経学会への要望書


全家連発第74号
       平成13年6月29日

社団法人日本精神神経学会
理事長 佐藤 光源 様

                   財団法人全国精神障害者家族会連合会
                      理事長  古 屋 治 男

児童多数殺傷事件の報道における精神科医の関わりについての要望

 貴学会におかれては、日頃、本会に対してご懇篤なご支援をいただき、深く感謝してります。
 さて多忙中まことに恐れ入りますが、このたび頭書のことについて、本会として要望を申し上げたく、以下に要点を記させていただきました。報道に関与する精神科医の倫理規程制定などに向けて、格別のご配慮いただければ誠に光栄に存じます。

 去る平成13年6月8日の大阪府池田市の小学校で起きた児童殺傷事件は、まれにみる痛ましい事件でありました。本会も深い悲しみをもって報道に接しており、会員一同、被害に遭われた方々に深い哀悼を捧げるものであります。

 さて、貴学会もご承知のように今回の事件は、早々にただただ「精神障害によって引き起こされた事件」として報道されました。そのために、本会会員とその家族である患者はもちろん、精神科にかかっている多数の「精神障害」をもつ人たちに、大きな心理的な痛手をもたらしました。そしてその後も、被害があまりに大きいところから、被害に遭われた方々の報道が連日のように続き、やむを得ざるとはいえ「精神障害」をもつ人とその家族の負担感を倍加させつつあります。

 本会としては、さきに平成13年6月18日付けで、新聞社などマスコミ関係者に対して、以下のとおり、偏った報道をしないよう声明と要望書をお送りいたしました(同封別紙をご参照ください)。その中では、

(1)事件の背景、病気の状態などが明らかになっていない段階で、特定の病名や通院歴・入院歴を報道すべきではないこと、

(2)「精神障害」をもつことをもって社会的な責任を果たせないとみてはならないこと、

(3)今回の事件の容疑者を直ちに「いわゆる触法精神障害者」として断定するような書き方をしないこと

を要請し、このような事件報道には、精神障害者に対する一般社会の誤った認識を拡大しないためにも、慎重な報道を求めました。

 今回の事件を振り返ると、事件後数日のマスコミ各社の報道は、「精神障害」による入通院の繰り返しがあったこと、「精神障害」のために起訴されず措置入院になったことがあったことなど、容疑者の個人情報は病名・入通院歴に偏って報道されました。
 この経過のなかで、報道機関は当然のように精神科医に解説を求めました。これに対して、多くの精神科医たちは、容疑者を直接診察することもなく、また事件に関わる容疑者の個人的事情や社会的背景などが開示されていない段階で、病名を断定したり、容疑者の犯行との関連をコメントしていました。たとえば、事件当夜のテレビ番組の1つで、ある精神科医は「事件は、精神分裂病の幻覚や妄想のために起きた」と断言していました。本会としては、このような精神科医の解説は、いたずらに一般社会の偏見を増幅させ、「精神障害をもつ人たち」への不安をかき立てたと言わざるを得ません。

 今回の事件の報道は、きわめて偏った素材をもとに、事件当初より「精神障害者=責任無能力者」の問題として報道の基調が形成されました。そして、前述の精神科医はこれらの報道に結果的に共鳴し、その流れを促進する役割を果たしました。これまでも「精神障害者」が関与する事件に対する精神科医の同様の関与は繰り返し行われてきました。しかし今回のような社会的影響力が特別に大きな事件に際して、本会はこの事態を極めて深刻に受け止めざるを得ません。今後、このようなことが再び繰り返されることのないよう、精神科医療関係者が対応策を真剣に検討していただくことを心より希望いたします。

 もちろん、本会は、新聞やテレビに精神科医が登場してはならないと考えるわけではありません。事実関係が明らかになった後に、おそらくは多くの人が求めるであろう情報の一端を解説することも精神科医の役割と考えます。しかし、社会的信用のある専門家の立場で、事実に基づかずに、病気・障害と犯罪、そして精神障害と責任無能力を安易に結びつけることのないよう、心よりお願いいたします。このことによって、精神障害をもつ人たちの心はさらに傷つき、家族は深刻な困惑に陥るからです。精神科医療関係者には、最低限の倫理意識を持っていただきたいと願っています。

 要すれば、貴学会におかれましては、報道における精神科医の関わりについて改善策を探っていただくことを要望いたします。具体的には、報道における精神科医の倫理規程を作成していただくことを、本会として強く希望いたします。この問題は精神科に特有の問題でもありますから、一般的な医の倫理規程には重ならないようにも思いますので、ぜひとも貴学会において、独自にご検討いただければと存じます。

 なお、本会は今回の病名・入通院歴に関する情報の提供方法に看過できないものを感じております。容疑者に対する対応に一応の決着をみたところで、厚生労働省、法務省、警察庁等行政当局に何らかの働きかけ、要請をする予定であることを申し添えさせていただきます。


池田小学校事件および特別立法に関連する声明一覧

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