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平成13年7月23日


日本精神保健政策研究会 会長 秋元波留夫
運営委員会委員長  原田 憲一

重大犯罪を繰り返す触法精神障害者の処遇等に関する見解と要望
― 司法精神医療体制の整備と精神医療政策の転換、そして被害者支援の充実を ―

この度の大阪児童殺傷事件によって亡くなられた方々のご冥福をお祈りするとともに、被害を受けられた方々とご家族、ご遺族の皆様に、心よりお見舞い申し上げます。私たちは専門家として、我が国の司法と医療との間にある制度的欠陥をよく知る立場にありましたので、事件を防止できなかったことがまことに残念であり、また、被害者の方々に大変申し訳なく思います。
私たちは、かねてより、欧米諸国に比べて遅れの目立つ我が国の精神保健政策の改善を目指し、政策研究と提言を行なってきました。司法精神医療・医学は、中でも特に大きく遅れをとっている分野です。
触法精神障害者は精神障害者であると同時に犯罪者でもあります。とくに、重大な犯罪を繰り返すような触法精神障害者は、一般の精神医療では対応しきれるものではありません。欧米諸国は、このような処遇の難しい患者のために司法精神医療制度・施設を整備しております。そこでは、触法精神障害者の社会復帰を目指す積極的な治療が、再犯防止にも十分配慮しながら進められているのです。不幸な事件の再発を防ぐため、我が国にも司法精神医療制度・施設を早急に整備するとともに、この専門領域の人材育成を積極的に図る必要があります。
司法精神医療体制の整備にあたっては、遅れている我が国の精神医療水準全般の向上への努力が欠かせません。一般精神医療水準の向上なしに司法精神医療のみ質を高めることは不可能です。かつて保安処分論争が生じたころ、各地の精神病院における職員による患者への暴行事件が報告され、一般精神医療水準の向上が先決であるとする声が、精神医療関係者の間に広まった経緯があります。残念なことに、今日においてもなお我が国の精神病院では患者への人権侵害事件が後をたちません。この機会に我が国も、入院中心の医療から脱して地域におけるサポート体制を充実させる、欧米なみの精神医療へと転換を図っていただきたく、医療法特例の廃止や、診療報酬制度の抜本的見直しをも含む、精神保健政策の転換が必要と思われます。
また、犯罪によって被害者、遺族の受ける心の傷は計り知れないほどに深く、生涯苦しみ続ける方々も少なくありません。国は、犯罪者の矯正・保護に多額の国費を投じておりますが、犯罪被害者の保護にも相応の配慮をし、必要な支援策を講じていただきたいと思います。
本来なら、重大触法精神障害者に対する刑事基本法の抜本的見直しを行わなければなりませんが、当面緊急の対策が必要と考え、次のように提案いたします。

要望事項


1.人権に配慮した司法精神医療制度を早急に確立すること


1)司法精神医療施設の創設

各都道府県に一箇所以上、20床程度の質の高い司法精神医療施設を創設する。
a.対象とする患者:重大犯罪を繰り返す傾向があり、かつ一般精神医療では再犯予防が困難と見なされる触法精神障害者。なお、将来的には、一般精神病院の保護室に長期収容中の触法精神障害者や、矯正施設で十分な治療を受けられない精神障害者も対象となりうる。
b.当該施設の医療スタッフ:医師は患者8名に対し1名以上、看護スタツフは患者1名に対し2名以上となるような人的配置をする。精神保健福祉士、作業療法士、臨床心理士も、各2名以上配置する。
c.建物と環境:厳重な警備体制が敷かれるが、十分なスペースを持ち開放的環境での処遇とする。病的混乱状態からの鎮静と内省を促すような陽当たりのいい個室、及び、広々としたデイルームやグループワーク室などのアメニティが考慮された環境を整備する。
d.設置計画:国公立病院に併設を可能とし、全国で1,500床程度を目標に、10カ年計画で実施する。
e.入院患者の病状等の報告:下記の司法精神医療審査会へ3ヶ月毎の報告義務を必要とする。
f.医療費は、措置入院費やその他医療保険とは別枠の公費でまかなう。


2)国立司法精神医療センターの創設

上記1)の司法精神医療施設では対応しきれない事例を対象に、全国に2ケ所程度、より長期的な治療計画に基づいて専門的治療が行える国立司法精神医療センターを創設し研究機関を併設する。各都道府県施設からの治療・処遇相談に応ずるとともに、司法精神医学の最新の研究をおこない、かつ専門スタッフの養成と卒後研修プログラムの提供を行う。


3)入退院手続き及び、「司法精神医療審査会」とアフター・ケア制度の創設

a.入院手続き:入院命令は裁判官の判断による。
b.司法精神医療審査会の設置:厚生労働省は、各都道府県に司法精神医療審査会(裁判官、患者のための弁護士、他で構成)を設置する。
c.退院手続き:退院は司法精神医療審査会で審査・決定をする。
d.退院後の監督:アフター・ケア体制を整備し、保護観察制度を設けて、司法精神医療審査会の監督責任を明確にする。


4)大学における司法精神医学教育・研究の推進

大学に2ヶ所程度、司法精神医学研究センターを創設し、司法精神医学専門家の速やかな育成を図る。将来的には全ての大学医学部に、司法精神医学専攻教官を1名以上配置する。

2.精神科医療全般の質を向上させ、精神障害者に対する偏見を除去することで、精神障害者による犯罪予防に務めること


1)精神科特例廃止と診療報酬制度改正による急性期医療の確立と脱施設化の準進

社会復帰の促進が謂われながらも、入院中心主義の対応が続いた背景には、医療法の精神科特例による医療の貧困と、旧態依然たる診療報酬制度の問題がある。精神科特例を廃止して、一般医療なみの十分なマンパワーを確保し、急性期医療の確立による短期入院施策を強化するとともに、診療報酬制度の抜本的改正を行って、脱施設化を促す。


2)精神病院内での人権侵害事件防止のための、新たなチェック機構の整備

精神保健福祉法で入院患者の人権保障が謳われながらも、相変わらず、患者への暴力や長期に渡る不必要な抑制・拘束、医療費不正請求など、人権侵害と不正事件が続いている。都道府県に新たなチェック機構を整備し、随時立ち入り検査を可能とする。


3)地域精神保健サービスの向上と地域ケア体制の充実

精神医療の脱施設化をはかり、社会復帰の促進、及び地域ケアサービスを拡充するために、グループホームや福祉ホームなどの居住施設の増設、外来診療の充実とデイケア拡大、また、共同作業所や授産施設などの就労援助等を、強力に推進する。

3.犯罪被害者支援に必要な施策を早急に講ずること


国はこれまで、犯罪者の矯正・保護に力を注いできたが、今後は被害者の保護にも十分な配慮をし、必要な支援策を早急に講ずるべきである。事件直後の危機介入に始まる被害者への精神的サポートについては、警察や民間援助組織、心理学、精神医学専門家等が様々な形で既に関与しているが、被害者の心理や援助法についての研究は遅れており、援助者のための研修機関もない。また、各地に広まってきたボランティアベースの被害者支援活動は、国による財政支援を強く必要としている。


1)大学にPTSD研究講座を創設すること

欧米諸国に比して著しく遅れている被害者の心理的反応やその後遺症について研究し、被害者への適切な援助法を開発するため、文部科学省に、大学におけるPTSD研究講座の創設を要望する。


2)国立の被害者支援研修センターの創設

民間援助組織や、警察その他公的機関において被害者支援に携わる者に適切な教育・研修を行うため、厚生労働省は国立の研修センターを創設する。熟練した指導者を配置し、大きな事件が発生したときなどには、支援チームを迅速に派遣できるようにする。


3)民間の犯罪被害者支援組織への助成措置

厚生労働省は、一定の認定基準を設けた上で、民間被害者援助組織の活動に対して国として助成措置を行う。将来的には被害者が全国何処においても等しく、必要に応じて質の高い支援サービスを受けられるよう、被害者支援活動の推進を図る。



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