「心紳喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律(案)」に改めて疑義を表明する。
2002年8月23日社団法人日本精神神経学会の評議員会
および8月26日通常総会において承認
標記法案は、通常国会において審議未了となり、臨時国会において継続審議の運びとなりました。この問題に関して、当学会理事会および「精神医療と法に関する委員会」は、昨年来、数次にわたって見解を表明してきました。国会での審議を振り返るとき、それらの見解に表明された疑念が解消されることはなく、むしろ深まったと言わざるをえません。この機に、私たちは今までの見解を確認し、臨時国会において、拙速な結論を出さないことを要請するとともに、検証に足る調査に基づく冷静な議論をもとめるものです。本学会は今後とも引き続き、これらの課題に取り組んでいくこと改めては自うまでもありません。
1 劣悪な精神科医療体制を、まず抜本的に改革する必要があります。
精神科医療が医療法特例などにより長い間差別され、貧困な医療の中で行われ、精神障害者の福祉施策もまた他の障害者と比べて劣ってきたことは明らかであります。
これらの問題の解決が先に図られることが必要です。非自発的入院である医療保護入院や、自傷他害のおそれを要件とする行政処分としての措置入院でさえ、他の診療科よりも劣る医療体制の下にあることこそ問題です。(01.6.25理事会見解1の2)および2)
たとえ標記法案が成立したとしても、対象となる患者はいずれも劣悪な精神科医療と福祉の体制において治療及び支援を受けなければならないのです。また標記法案においては、保護観察所の長に大きな権限が与えられていますが、この機関は本来精神科医療とは関係がなくその上医療福祉の体制が不十分であるため、同機関に業務を委ねることは不適切です。(O2.3.12理事会見解の3)2 現状の司法と精神科医療の狭間の問題を調査分析し、改革する必要があります。
起訴便宜主義の運用と実態の矛盾、起訴前鑑定から措置診察にいたる過程の大きな問題、受刑者の精神科医療と福祉等々、多くの論点が指摘されてきました。しかし、標記法案はこれらの問題を解決するものでないことを強く指摘したいと思います。(01.6.25理事会見解1の1)、3.12同見解の2)
3 再犯予測は不可能です。
標記法案は、対象行為を再び行うおそれの鑑定、および同様の判断によって運用されます。
本学会はこれが不可能であることを再三主張してきました。(02.3.12理事会見解の1および5.11同見解)国会審議の過程においても指摘されたように、多数の擬陽性が必然的に生み出され、許容できるものではありません。また、措置入院の自傷他害のおそれの判定と同じである、という主張が示されてきましたが、もしそうであるとしたら、標記法案は不要であり、措置入院医療の改革で補えるとさえいえます。このような不可能な予測は精神科医及び精神科医療に求められることは、私たちにとって深刻な倫理的難問に直面することになります。また、いわゆる精神病質を含む精神障害者がそのような危険性予測の対象と見なされることは、精神障害者に対する差別のみに止まらず、幅広い危険があり、認められるものでありません。平成14年8月
日本精神神経学会会員各位
社団法人日本精神神経学会平成14年8月23日に開催された評議員会においては、理事会よりの提案議題として「『心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律(案)』に改めて疑義を表明する。」(別紙4)が参席者による集会として承認されました。また、8月26日の通常総会時では、上記「疑義表明」が、臨場出席者により、賛成多数で承認され、WPA総会に提案する「横浜宣言」(別掲)についても、臨場出席者により、拍手で承認されました、ことをご報告いたします。
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