第1回「法務省・厚生労働省合同検討会」(議事メモ)

くれぐれも正式な議事録ではないこと、

誤字や正確さに欠ける点も多々あることなどご承知おきください。


議事メモ

出 席:法務省:古田刑事局長、河村課長、八澤局付、梶木、大橋課長、石毛企画官、池田係長

厚生労働省:今田障害福祉部長、松本精神保健福祉課長、泉、田中、吉川補佐

オブザーバー:長尾(日精協)、町野朔、神弁護士、池原弁護士

意見陳述:山上教授、坂口松沢病院副院長


松本課長:開会に当たって、刑事局長からご挨拶を

古田局長:精神障害者の犯罪は、最近、特に増加しているわけではないが、殺人、放火といった重大犯罪に及ぶ例もまれではない。このような犯罪は、時として何の罪もない第三者に重大な被害を与えるだけでなく、精神障害を持つ者をしてその症状ゆえに犯罪の加害者とならしめる点でも、極めて不幸な事態であると言わざるを得ない。
このような精神障害に起因する犯罪の被害者を可能な限り減らし、また、重大な犯罪を犯した精神障害者が精神障害に起因する犯罪を繰り返さないようにするための対策を検討することが必要である。

 そこで、精神障害者による犯罪の実情及び精神障害者に対する医療の実情を踏まえ、精神障害者に対し早期に適切な医療を確保するための方策、治療の継続を確保するための方策を考慮しつつ、重大な犯罪行為をした精神障害者の処遇の決定及び処遇のシステムの在り方など、様々な角度から調査・検討を行う。 充分に協議・検討を行うために、医療関係者、被害者、有識者など関係方面から意見を聞く必要がある。

今田部長:挨拶(省略=内容は局長挨拶とほぼ同様)

(局長、部長退席)

山上教授:(資料にそって説明。以下はその要旨)

日本にも欧米なみの触法精神障害者処遇策を早急に確立し、遅れている司法精神医療の向上を図っていただきたい。

司法精神医療の対象とするのは、「重大犯罪を繰り返す傾向があり、かつ一般精神医療では再犯が困難とみなされた触法精神障害者」である。当面の設置目標は各都道府県に少なくとも1ヶ所(大都市は人口百万につき1か所程度)必要で、20〜30床程度の病棟を、国公立の精神病院に併設する案が現実的と思われる。

重大な犯罪を繰り返す触法精神障害者に対する司法精神医療施設への入所命令は、多くの先進諸国がそうしているように、社会の安全と再犯防止を重視する司法上の処分としてなされ、退院を含むその後の重大な処遇変更にも司法が関与すべきであり、そのために必要な法的整備を行うべきである。ただし、一方において司法の関与が過剰となって患者の人権を不当に侵害することがないよう、公正な立場から処遇についての審査・決定を行う、強力な権限をもった司法精神医療審査会(委員に患者のための弁護士も含む)を設置する必要がある。

※質疑の中で、精神保健指定医の措置解除の判定について問われ、山上教授は「医療
上の判断と司法上の判断とにズレがある。予後や再犯について考え方が違う。医療の
場合の自傷他害は短期的であり、司法の場合は違う。」と発言。

坂口副院長:(資料なし)

松沢病院のデータを示しながら、私の考えを述べる。

 東京都の措置入院は1Day調査で200例中56例が松沢病院。措置に限定すると4年以上在院は12件ですべて松沢病院に在院している。民間病院は早く退院する。

 入り口となる重装備の病棟のほかに46床の病棟があるが、措置入院15名中4年以上の11名(うち殺人事件6件)が入院している。残り1名は3回(計4名を殺害)事件を起こし重装備の病棟から出ることはできない。

 最近措置解除となった例でも、地域の福祉の協力を得て退院となった。年数と人手さえあれば退院は可能。社会的受入がないという問題もある。ただ難しい人もいる。通り魔的に何回かやっている。予測としては難しい。

 精神保健福祉法第25条、26条について、最近、安易に都に上げている。申請があっても実際の診察数は少ない。司法と医療との考え方にギャップがある。

 結論として、ある種の専門病棟は必要だが、欧米のように堅固なものにする必要はない。治療可能性がある人がうずもれていて、もう少し法と医療とが連携する必要がある。施設は、東北で1ヶ所、北海道で1ヶ所とブロックで1ヶ所でよい。そして、リハビリも数年かかるので、自治体を中心に県で1〜2ヶ所。司法の段階、治療、リハビリと3段階で。松沢病院だけで行っているのには限界がある。

残された時間、質疑を行い終了(次回は未定)。


山上氏の資料要点

第一回法務省・厚生労働省合同検討会

平成13年1月29日(月〉  
10:00〜12:OO  
厚生労働省共用第13会議室(別館7階〉   


議  題

重大な犯罪行為をした精神障害者の処遇決定及ぴ処遇システムの在り方などについて

第1回法務省厚生労働省合同検討会


意見陳述 資料

我が国の司法精神医療の現状認識とその将来に向けての意見

目次 頁
T 歴史−司法精神医療に関する重要な歴史的事実……… 1
U 司法精神医療の対象とされ得る精神障害者…………… 2
V 司法精神医療の場において生じている諸問題………… 3
  1.触法精神障害者の入院に際して生じている諸問題 3
  2.触法精神障害者の入院中に際して生じている問題 4
  3.触法精神障害者の退院をめぐる問題……………… 6
  4.矯正施般に収容されている精神障害者…………… 7
  5.精神障害者による犯罪の被害者…………………… 7
W 司法精神医療先進国から見た日本の現状……………… 8
X まとめと、司法精神医療の将来に向けての意見……… 9

     平成13年1月29日


東京医科歯科大学 難治疾患研究所 犯罪精神医学研究分野教授 山上皓

T 歴 史


【司法精神医療に関連する重要な歴史的事実】


1879 東京府仮癲狂院開設(松沢病院の前身)
1900 精神病者監護法公布(病者の社会からの隔離・監視と、不法監禁の防止が主目的)
1903-09呉秀三「精神病鑑定例」(第1−4集)刊行
1907 改正刑法公布(第39条に心神喪失等を規定)
1918 呉秀三「精神病者私宅監置の実況…」を発表
「我邦十何万ノ精神病者ハ、実ニコノ病を受けタルノ不幸ノ外ニコノ邦二生マレタル
不幸を重ヌルモノト云フベシ。」
「精神病者ニ對スル我邦ノ法律二不備アルハ、惟リ監護法ノミニ止マラズ、我刑法ニ
ハ精神病者ノ犯罪行為ヲ以テ心神喪失者ノ行為トナシ、之ヲ罰セザル規定ナルモ、此
ノ如クニシテ免訴トナリシ犯罪的精神病者ニツイテハ、ソノ後ノ処置二関シ法律上ニ
モ何等ノ規定ナク、行政上ニ於イテモ何等ノ処置ヲ講ゼザルハ奇怪ニ堪ヘザルコトナ
リ。吾人ハ我邦ノ精神病者二對スル法律ガ社会ノ進歩ニ伴レテ改正セラレ、或ハ新ニ
立案セラレンコトヲ希望シテ已マザルナリ。」
1919 精神病院法公布
 ・精神病者の救済を主眼とする。
 ・罪を犯した患者の医療費に対する公的補助規定あり。
1940 刑法改止仮案(監護処分、矯止処分等の新設も検討)
1950 精神衛生法公布(精神病者監護法,精神病院法を廃止)
 ・精神障害者の疾療およぴ保護の方法を改善することを目的。
 ・とくに、措置入院、同意入院等、強制入院の制度を整備。
1961 刑法改正準備草案公表(治療処分、禁断処分を含む。)
1965 精神衛生法改正
 ・警察官通報制度や緊急措置入院新設等保安面の強化が中心
 (ライシャワー大使刺傷事件が影響)
1965−80年代保安処分論争の紛糾
 (宇都宮病院事件等精神病院による人権侵害事件の続発)
1988 精神保健法の公布
 ・入院中心主義から地域精神医療の重視へと転換
1980代−自治体立病院で治療困難者用病棟整備の試み
1992 処遇困難患者対策論争の紛糾
1994 北陽病院事件等、民事訴訟での被害者遺族の勝訴
1998 日本精神病院協会「触法精神障害者対策」を要望。
1999 日本精神神経学会教育講演「触法精神障害者をめぐる諸問題」
1999 日本精神神経学会シンポジウムにおける紛糾
 「司法精神医学の現代的課題−日本の触法精神障害者対策のあり方をめぐって」
2000 Prof. Weisstubらによる「司法精神医療」への提言
(朝倉病院事件等精神病院における人権侵害事件の発生)

U 司法精神医療の対象とされ得る精神障害者

1.触法精神障害者に対する現行の処分と対応
 我が国の司法機関によって、犯罪行為を行いながら責任能力に著しい障害があると
見なされた精神障害者は、事例の特徴に応じて以下のような処分を受けている。
1)裁判で心神耗弱を認められて実刑判決を受けた揚合の、矯正施設への収容。
2)司法機関から釈放と、引き続きなされる精神保健福祉法による都道府県知事への通報

これには以下の3種が含まれる。
 @ 警察官による24条通報(職務上において自傷他害の危険性ありと見なした事例
を対象とする通報(その対象には、触法行為を伴わない者も含まれる)。
 A 検察官による25条通報で、検察庁で不起訴とする触法精神障害者を対象とする
もの。
 B 検察官による25条通報で、裁判により刑の減免を受けて釈放される触法精神障
害者を対象とするもの。

2.触法精神障害者の処分形態別概数
1)心神耗弱を認められ実刑判決を受けて矯正施設に収容される事例
:年間数十人
(1994年には38人)。なお、受刑中の精神障害者数は千余人(1988年には1208人)


2)精神保健福祉法に基づき、都道府県知事に通報される事例
 @ 警察官通報を受ける事例:年間3〜4千人(1998年には4,707人、うち2,403人が医
師により措置該当とされた。(注:本通報は当人の触法行為を必ずしも前提とするも
のではないので、以下の考察ではその数を「触法精神障害者」数に含めない。)
 A 不起訴処分に基づく検察官通報例:年間ほぽ1千人(1998年には977人、うち506
人が措置該当とされた。
 B 裁判で心神喪失ないし耗弱を認められて実刑を免れた検察官通報例:毎年数十
人(1994年には33人)

3.その他の経路により、司法蜻神医療の対象となりうる者
1)矯正施設より釈放される精神障害者で、26条通報を受ける者
2)矯正施設収用中で、精神病院で治療を受けるため移送を認められる者

V 司法精神医療の場において生じている諸問題

1.触法精神障害者の入院に際して生ずる問題
 触法精神障害者処遇に関する司法上の決定と医療上の決定との間には整合性が欠け
ており、このため危険な犯罪を行い不起訴とされた者が、入院不要とされて直ちに社
会に戻されてしまうことがある。

【司法と医療の狭間に落ちる事例】
事例A 22歳の男性による連続強盗事件
【犯行と前歴】Aは20分ほどの間に連続して近所の時計店と質店に押し入り、時計を
強奪した。
【簡易鑑定の必要性】犯行の態様が異常であった上、Aには重い頭部外傷後遺症とし
ての人格変化が見られ、留置場内でまと重りのない言動、独語が目立っていたため、
簡易精神鑑定が実施された。
【鑑定結果と検察官通報】鑑定医は、Aを「頭部外傷後遣症」による意識水準変動下
の犯行とし、限定責任能力と判定。検察官は(1回目の)25条通報を行った。
【指定医の診察】Aは「鑑定人には嘘を言った。犯行についての記憶もある」と主張
し、指定医はこれらを根拠として「措置非該当・要入院外医療」と結論した。
【検察官の抗議】検察官は県衛生部職員に抗議したが、無効であった。
【再度の通帳と最終処分】拘置所に戻ったAがその後も異常な言動を示し続けたた
め、再度簡易鑑定を行った上25条通報を行ったが、指定医の診察結果も変わらず、入
院は不要とされた。
 結局、Aはある精神病院に任意入院し、検察官はAを「起訴猶予」とした。

 触法精神障害者に対しては比較的容易に不起訴処分がなされる上、医療の場からは
早期の退院等も期待できることから、詐病を演じて病院に逃げ込もうとする犯罪者も
少なくない。

【司法より医療の側への逃げ込みを計る事例】


 事例B、40歳男性、殺人(覚醒剤中毒、鑑定における詐病が問題となった事例)
 少年時代より頻回の逮捕歴を有する粗暴な男性。33歳時より覚醒剤を乱用し、被害
念慮に基づいて義母を刺殺したが、精神鑑定の場で病的な症状を誇張して詐病を演じ
た。
 Bは、覚醒剤の乱用開始後じきに、幻覚妄想状態に陥って精神病院への入退院をく
り返すようになったが、その間にも犯罪をくり返し、詐病によって起訴を免れたこと
もある。事件前3年間の問題行動とそれに対する措置の概要は以下の通り。
@8O年4月 銃刀法違反起訴猶予(入院を条件として釈放するも、入院せず)
      (取り調べに際し異常な言動を示し、自ら精神病院入院歴を語る)
A80年9月 傷害  起訴猶予(詐病) 措置入院(40日)
      (逃走中に、義弟に偽証を依頼。後に、妻に詐病を告白)
B81年6月 銃刀法違反 起訴猶予(心神耗弱)(虚言)「入院不要」
      (犯行について否認、虚言、寡黙−後に、虚言の事実を妻に告白)
C81年8月 覚醒剤取り締まり法違反 懲役10月
D82年8月 錯乱状態で包丁を持ち徘徊 −警察に保護され−入院74日
E83年2月 覚醒剤を乱用、閉居、哀弱 −入院−29日後に無断離院
F83年3月 殺人(離院・放浪中に義母への被害念慮発展)−鑑定で詐病を試みる

2.触法精神障害者の入院中に生じている問題
 我が国の精神病院においては、毎年平均10件前後の殺人ないし傷害致死事件が生
じている。1980年に入院中の精神分裂病者によって病院内でなされた重大事件の概要
は、表1に示すとおりである。

表1.精神病院内での犯行例(1980年・精神分裂病)

(略)

 事例12は、l8歳時より放火、傷害などによる7回の逮捕歴を有し、刑務所で服役中
に発症して精神病院への入退院をくり返していた。他の精神病院でも他患者に何度か
瀕死の傷を負わせたことがあり、関係者から恐れられていた。9年前に路上で見知ら
ぬ幼女を投げつけ負傷させて措置入院していたが、しぱしぱ被害妄想を抱いて不意に
暴力を振るうことがあった。今回の事件は夜中に病室で就寝中の他患者2名の顔面を
割ったコーラ瓶で突き刺し眼球裂傷などの重傷を負わせたもの。

 事例5は、1948年生まれの男性、診断は精神分裂病。発病前より傷害や強姦の犯罪
歴を有し、25歳時に発症後殺人未遂事件を起こし、精神科治療を受けるようになっ
た。30才時に入院していた某精神病院で他患者を包丁で刺殺して県立のS病院に措置
入院となった上、2年後に1度退院したが、半月後に殺人未遂事件を起こしてS病院
に再入院し、さらにその数ヶ月後に入院中の他患者を包丁で刺殺したもの。犯行の動
機はいずれも妄想に基づくもので、凶器は、当日の買物外出が許された際に秘かに購
入していた。

【危険な暴力的患者に対する過剰拘禁】


 危険な犯罪をくり返す患者を一般の病棟で"安全に"処遇しようとすれば、処遇法は
閉鎖的、拘束的なものとなりがちで、時には患者の人権を深く侵害するものとなる可
能性がある。
 先の事例5はこの殺人事件で不起訴、要措置入院の判定を受けたが、自分たちも彼
から暴カを受けていたS病院の看護スタッフは、その受け入れに強い拒否反応を示し
た。病院長は、県内外の他院への転医を懸命に求めましたが、受け入れ先を見いだす
ことはできず、そこで院内に新たにこの患者用の「特別保護室」を用意することと、
その保護室の開錠には必ず医師が立ち会うということを約束し、ようやく看護スタッ
フの同意を取り付けた。この患者はその後、死亡するまでの約8年間、終日この特別
保護室で生括することになった。図1に示すのは、事例5のためにS病院が病棟に設置
した「特別保護室」の間取り図である。

 特別保護室の広さは、一般の保護室よりも幾分広めですが、室内を壁で仕切ったと
ころに浴槽と便器が置かれているので、居住空間は狭い。格子を隔てた廊下の天井の
灯と、吹き抜けに面する廊下の窓からの明かりが入りはするが、室内に灯はない。廊
下に面する鉄の格子は最初8〜9pの間隔でありましたが、その後その間に更に一本ず
つ鉄格子を入れ、視察の時点では2〜3pの間隔で、指以上は出すことが出来ないよう
になっていた。事例5は犯行後10年近くをこの部屋で過ごした後心臓発作で死亡しま
したが、そのとき当直の看護者は深夜壁により掛かって動かない患者の様子に不審を
感じながらも、事故(病気を装つての看謹者への攻撃)を恐れて放置し、朝の同僚たち
の出勤を待って初めてその死を確認したとのことである。

3.触法精神障害者の退院をめぐる問題

表2 重大犯罪を犯した精神分裂病者320例(1980年)の犯行後の入院の有無およ
びその後5年以内の退院の有無等について

表3 追跡調査で見いだされた頻回犯罪反復例の、法的処分と治療措置等(1980年〜
1991年)

4.矯正施設に収容されている精神障害者

表4 矯正施設内の精神障害者(1992年)

5.精神障害者による犯罪の被害者

表5 精神分裂病犯罪者の犯行の被害者について(1980年)

V 司法精神医療先進国から見た日本の現状
 (司法精神医療に関する研究会 平成12年9月26日於:虎ノ門パストラル)
カナダの司法精神医療の現状Alboleda-Florez,J.E. クイーンズ大学教授(司法精神医
学)
オランダの司法精神医療の現状Van Marleカソリック大学教授(司法精神医学)
日本の司法精神医療への提言David N. Weisstubモントリオール大学医学部教授

○事前に三教授より寄せられた意見の概要(制度と施設に関する基本的な質問への回
答)


1.司法精神医療施設を建設することの意義
(共通する見解)
・社会(住民)の保護のために必要(三者共通)。職員・患者の保護のためにも必用
(Weisstub)
・触法精神障害者を綿密に調査、評価し、適切な治療を行うためにも必用(三者共通)
・司法精神医科医療の専門的治療技術の向上のために必用(VanMarle,Weisstub)
(その他個々の見解)
・患者あるいは治療のための司法精神医療は、本来社会防衛のための司法的側面を持
つ(VanMarle)
・このような施設は、その住民の保護を真摯に考える国では必須である
(Alboleda-Florez)
・保安精神科施設では、一般精神病院以上に良好な環境のもとで社会復帰が目指せる
(Weisstub)

2.触法精神障害者を特別な司法的枠組みなしに処遇した場合に生じうる問題点について
(共通する見解)
・他の患者や治療スタッフの安全が脅かされる(三者共通)
・スタッフに不満や否定的感情が募り、治療の質も低下し、事故が生じたり、恐れか
ら早すぎる退院がなされたりする。(VanMarle,Weisstub)
・過剰な拘束手段が用いられたり、生涯にわたる拘禁が行われるなどし、患者の人権
が侵害される。(VanMarle,Weisstub)
(その他個々の見解)
・市民の権利が脅かされる。司法的枠組みを持たないことにメリットはない
(VanMarle)
・触法患者を一般病院が抱え込めぱ危害が生じたとき民事責任を負わなけれぱならな
い(A-Florez)
・適切な倫理的・治療的なコントロールが出来ない(Weisstub)


3.司法精神科医の養成のために必要とされること
(共通する見解)
・司法精神医学のトレーニング・コースを設ける(三者共通)
・外国から学ぶ(欧米の司法精神医学界との交流、指導者の研
修)(VanMarle,Weisstub)
(その他個々の見解)
・倫理的、臨床的、法的なテーマでセミナーやシンボジウム、学会等を開く
(Weisstuh)

 ワイスタブ教授は、日本への提言の中で次のようなことも指摘された。
 日本が司法精神医療についてのパイロットプロジェクトを確立し、司法精神患者を
十分治療できると云うことを学んで欲しい。弁穫士も司法精神患者のために役立つこ
とができる。例えぱ、被害者、家族、患者が十分保護されていない。一般的な病院で
はここの問題に対応できない。
 日本では、知性のある人たちがあまりに慎重でありすぎる。自分が非難されるので
はないかと臆病になっている人たちがいる。基本的人権と云うことで話をするけれ
ど、実際にこの問題に参加してアタックしない口だけの人たちがいる。何もしないと
いうのは一番悪い。テクノロジーがこれだけ発展しているのに、道徳的な部分で何故
成功しないのか。

W まとめと、司法精神医療の将来に向けての意見

 私の意見は、日本にも、欧米なみの触法精神障害者処遇策を早急に確立し、遅れて
いる司法精神医療の向上を図っていただきたいということである。
 これまでの経過から、政策の実現のためには、まず国民のコンセンサスを得る必用
があり、そのためには、本日私がご紹介したような、司法精神医療の現場で生じてい
る悲惨な実態を徹底した調査によって明らかにし、広く公表していただきたいと思
う。重要なのは、人権擁護の立揚からこの問題に取り組む姿勢で、精神障害者の処遇
改善を目指してこの問題と取り組むことであろうと思う。
 論議に費やす時間は、それほどあるとは思わない。この問題ではこれまでに、あま
りに長すぎる時間を、無益な論議に費やしてきた。そして、何もしない、何もできな
いその間にも、新たな犠牲が次々と生じている。

 近年、精神障害者による犯罪の犠牲者の遺族の方が、民事訴訟を起こされ、勝訴さ
れることが時々見られるようになってきた。精神科医療関係者の間には、このようた
流れに懸念を示す向きもあるが、私は、被害者支援に関わってきた経験から、違った
印象を持つ。突然最愛の家族を失われれて心に深い傷を負い、家庭も崩壊しかねない
危機を体験された方が、せめてもの慰めを得られたことに、幾分の安堵を覚えるので
ある。
 本日ご紹介した事例の経過に窺えるように、精神障害者による事件の中には、個々
の関係者の責任以上に、制度そのものの欠陥に責任があると思われるものが、稀なら
ずある。その実態を知りながら、具体的な対策をとれずに時間を浪費するとすれば、
いずれは国が責任を問われる日が来るのではないかと懸念している。
 最後に、我が国において司法精神医療を確立する上で必用と思われる施策を整理し
て示し、私の意見陳述を終えさせていただく。

【司法精神医療の確立に必要とされる施策】


1.司法精神医療施設の整備
1)治療対象とすぺき触法精神障害者の範囲と数

 司法精神医療の対象とするのは、「重大犯罪を繰り返す傾向があり、かつ一般精神
医療では再犯予防が困難と見なされる触法精神障害者」である。前記の基準によって
選別すると、触法精神障害者総数の2〜3割程度、すなわち毎年200人前後の患者が新
たに司法精神医療の対象とされることになる。なお、司法精神医療施設においては触
法精神障書者に対する質の高い専門的医療サービスを提供できることから、条件が整
えば、現在は他の施設に収容されている患者、例えば一般精神病院で他害事故防止の
ため長期保護室収容中の患者や、矯正施設の独房に長期収容中の患者についても、将
来、移送して治療を受けられるようにすべきであろう。


2)施設の構造と、必要数、およびその配置
 司法精神医療施設は、処遇の難しい事例を対象に、社会および周囲の者たちの安全
に配慮しながら、患者の人権を尊重しつつ最善の医療サービスを提供する義務を負
う。施設については、優れた精神医療システムを持つイギリスの、メディウム・セ
キュア・ユニット(病床数平均20〜30の中等度保安施設で、社会復帰治療を重視す
る。全国百数十カ所に設置済)をモデルとすることが望ましい。建物の警備が厳重に
される分、施設の敷地や建物のスベースは十分広くとり、内部では可能な限り開放的
な処遇を行う。スタッフ数も、また提供する治療サービス内容も、一般精神医療の水
準を大きく超える、充実したものとする必要がある。
 当面の設置目標は各都道府県に少なく上も一カ所(大都市は人口百万につき一カ所
程度)必要で、20〜30床程度の病棟を、国公立の精神病院に併設する案が現実的と思
われる。

2.法的な整備
 重大な犯罪を繰り返す触法精神障害者に対する司法精神医療施設への入院命令は、
多くの先進諸国がそうしているように、社会の安全と再犯防止を重視する司法上の処
分としてなされ、退院を含むその後の重大な処遇変更にも司法が関与すべきであり、
そのために必要な法的整備を行うべきである。ただし、一方において司法の関与が過
剰となつて患者の人権を不当に侵害するようなことがないよう、公正な立場から処遇
についての審査・決定を行う、強力な権限を持った司法精神医療審査会(委員に患者
のための弁護士を含む)を設置する必要がある。

3.司法精神医学・医療の振興策
 具体的な施策として、以下の三種が必要と思われる。
1)司法精神医学・医療指導者の育成:大学や国公立精神病院、矯正施設等には、司法
情神医学・医療に関心を持つ者が少なからず居る。将来に備え、これらの人材を司法
精神医学・医療の教育システムを既に確立している欧米諸国に派遣し、研修を受けさ
せることが望ましい。


2)国立司法精神医療研修センターの設立:国立精神病院1ないし2施設を選定して、
充実した司法精神医療施設と研修施設とを併置し、各地の司法精神医療施設に勤務す
る医師、看護者、PSW等司法情神医療従事者に研修の機会を提供する必要がある。


3)国立大学への「司法精神医学講座」ないし「社会精神保健研究センター」の設置
 遅れている我が国の司法精神医学・医療の振興のため、いくつかの国立大学に司法
精神医学講座を設置する必要がある。欧米先進国では「精神医学」を基礎に置く重要
な専門研究領域として、「司法精神医学」とともに「児童・思春期精神医学」と「老
年精神医学」が大きな発展を遂げている。ともに現代杜会の要請に応える重要な研究
領域であるが、我が国の大学内部の事情で自ら発展の機を見いだすのは難しい。これ
を機に「社会精神保健研究センター」のもと、これら三講座がともに発展の機会を得
られるなら、社会的意義は極めて大きなものとなろう。

【精神障害者による犯罪の予防のために必要とされる、その他の予防策】


 前記した、司法精神医療施設における専門的治療を必要とする者は、触法精神障害
者の中核群というベきものであるが、その数は全触法精神障害者の20〜30%程度を占
めるにとどまる。残りの70〜80%の触法精神障害者は、本来、一般精神医療の領域で
対応されるべき事例と思われる。後者は、危険性や対応の難しさという点では前者ほ
どの問題はないが、数の上では触法精神障害者の多数を占めており、その治療と犯行
の予防は、我が国の精神保健行政の上で重要な課題とされるべきである。
 後者の事例、すなわち一般精神医療の領域で対応されるべき事例について、個々の
事例の犯行に至る経緯を見ると、その犯行の予防と治療のために、次のような施策へ
の取り組みが必要であると思われる。

1.地域精神保健サービス水準の向上
 触法精神障害者の中には、過去に暴力傾向を示していない患者や、精神科的治療を
受けたことのない未治療者が、少なからず含まれている。これらの事例には、本人や
家族が事前に精神保健相談機関を訪ね、治療が行われさえしていれぱ、犯行が予防で
きたと思われるものも多く、地域精神保健サービス水準の向上がこの種の犯罪予防に
有効と思われる。

2.精神科医療水準、とくに事故予防に関するそれの向上
 通院や入院等治療継続中の精神障害者が犯行に及ぶことも少なくない。これらの事
例には、事前に犯行を予測させる徴候を示すものも多く、医療従事者が事故の危険性
を正しく評価し、その評価に基づいて適切な治療的・保護的措置がとれるなら犯罪予
防も可能である。医療従事者の教育と訓練、あるいは国による行政上の指導等によっ
て、精神科医療水準の向上を図ることが、犯罪予防の上で有効と思われる。

3.精神科救急、危機介入体制の整備
 治療中断中の精神障害者や未治療者の中には、家族や職場の同僚など周囲の者たち
が病状の悪化に気づいて保健所や病院、警察等に援助を求めている間に犯行に及ぶ者
も多い。とくに、強い暴力傾向を示して治療を拒否する患者への治療的介入は著しく
遅れる傾向があり、地域における精神科救急、危機介入体制の整備が、この種の犯罪
予防のために必要である。
 地域祉会における危機介入を円滑にするためには、保健所や病院、警察、児童相談
所、学校等、通常の行政の枠組みを越えた、関連機関相互の密接な協力関係の構築が
必要である。地域に「精神保健関連問題協議会」のような仕組みを作り、それぞれの
地域の実情にあった対応策を見いだして行けるなら、犯罪予防の上で有効と思われ
る。

参考(英国における歴史的重要事項)
1724 Bethlem Hospital開設
1774 Act for Regulating Madhouse
 ・私立精神病院の認可・監視規定。
1800 Act for the Safe Custdy of Insane Person Charged with 
Offences
 ・Hadfield事件が契機。Insanityの故に"Not Guilty"とされた者の保護が目的。
1808 Act for the Better Care and Maintenance of Pauoer and 
Criminal Lunatics,(特別委員会の調査、勧告に甚づく。「精神障害犯罪者は独立
した収容施設を持つべき。」

1816 Bethlem HospitalにCriminal Wing開設(1837年政府予算で増設)
1844 Report of Metropolitan Commissione in Lunacy。精神病院内のcriminal
patientに対する過剰拘束指摘
1856 Tenth Report of the Commissios in lunacy.Bethlem Hospita1の治
療環境(建物)の劣悪さを指摘。
1863 Broadmore Hospital開設。裁判所、刑務所より精神障害犯罪者引受
1930 Mental Health Act公布
   一般精神病院の開放化推進の結果、問題患者の集中と、特殊病院の孤立が生じた。

1959 Act 開放化と病床数削減を推進 一般病院の問題患者が特殊病院へと集中
   精神障害犯罪者処遇の再検討が始まる。
1961 Emery Report 「Securityは特殊病院だけではなく、地域にも必用」
1974 Glancy RePort「各地域に全国で千床の保安病床(非犯罪者も対象)必用」
1975 Butler Report:Regional Secure Unitを早急に整備し、特殊病院の過剰収
容を緩   和するよう強力に勧告。RSUでは治療を重視、看護/患者比は1/1以上、
場所は人口   密集地の中心、裁判所や大学の精神科と行き来しやすい所、……。
1980 特殊病院批判(Broadmore,Rampton)調査と改革
1983 精神保健法改正、精神障害犯罪者の処遇に関する諸規定を取り込む
1983 RSUの全国設置を開始(人口10万対30床程度が目標)
   今日ではRSUを拠点として精神障害犯罪者を対象とする外来治療、地域ケアが積極的 

   に展開されている。


法務省・厚生労働省合同検討会

関連資料


池田小学校事件および特別立法に関連する声明一覧

「重大な犯罪行為をした精神障害者」問題 法務省・厚生労働省合同検討会

重大犯障害者の処遇法案〜与党・政府の動向

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