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心神喪失者医療観察法案の問題に関心を寄せる全ての皆さま


 私たちは、本年5月に「心神喪失者等の強制医療観察法に反対する精神科医の集い」を開催し、「『心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律案』に反対する臨床精神科医の声明」を公表し、最終的には190名の精神科医の署名を集め、国会等につきつけてきました。夏の国会においてこの法案を成立させず、継続審議とさせた経過の、微力ではあるかもしれませんが一助になったと思います。
 しかし、政府−与党、法務省および厚生労働省は、秋の臨時国会での本法案成立を目論んでいます。事態は予断を許しません。私たちは、9月28日に「精神科医の集い」の第2回を開催し、討論をさらに深めました。それを受けて、下記の声明を作成いたしました。そして、この声明に自らの署名を付すことで、この法案への反対の意思を、改めて明らかにするものです。

精神科医の皆さまへ
 下記の声明への署名を、改めてお願いいたします。声明にご賛同いただける方は中島
(E-mail:CZX00547@nifty.ne.jp、FAX多摩あおば病院042-393-2880)まで、ご氏名とご所属、ご連絡先(できればE-mailないしFAX)を明記の上、お知らせ下さい。周囲の方にもぜひ呼びかけてください。とりあえず一次集約を10月16日とします。よろしくお願いいたします。


2002年9月28日


「心神喪失者医療観察法案」に反対する
― 臨時国会における審議にあたって―

心神喪失者等の強制医療観察法に反対する精神科医の集い
代表幹事 岡田 靖雄
富田三樹生
高木 俊介

 私たちは、政府が成立を目指している「心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察に関する法律(案)」(以下「法案」)に対して、四点の理由からなる反対声明を本年5月に出した。
 現在、通常国会において法案は継続審議となり、秋の臨時国会において成立が図られようとしている。しかし、法案への疑念は、通常国会における審議を経てむしろ深まったと云わざるを得ない。
 私たちは、精神科医療の貧困、矛盾について自らの責任において改革すべき事柄が多いと考えている。しかし、この法案が提出されるに至った背景には、司法の問題点も大きい。しかるに、この法案は問題の解決を精神科医療にのみ求めるものであり、精神科医療の歪みをかえって大きくするものである。私たちは、改めて以下の問題点を指摘し、この法案に反対し、強く廃案を求める。

1.再犯予測は精神科医のみならず裁判官にも、何人にもできない
 再犯予測が不可能であることは、精神神経学会が重ねて警告している通りである。さらに、同学会「精神医療と法に関する委員会」の再犯予測に関する詳細な報告(9月20日)では、世界における予測研究の限界とその危険性が明確に述べられており、再犯予測の不可能性が科学的に論証されている。
 精神科医による予測鑑定ができないとしても、法案の裁判所(合議体)の裁判官が予測判定をするという見解が一部の論者に見られるが、そのような見解に従うと、この法案が医療に関わるものではなくなるという矛盾が生じる。なぜなら、法の求める再犯予測は、継続的な医療を行わなければ再び対象行為を行う恐れを求めているのであり、精神疾患により心神喪失または心神耗弱とされた状態における行為の予測であるから、裁判官のみで行うことはできない。裁判官が審判に関わるのは、措置入院と異なって、司法的関与における強制処遇判断として入院等が位置づけられているからであって、再犯の予測が裁判官に期待されているのではない。
 さらに、重大な犯罪行為についての再犯の予測を行い、それによって拘禁をすることになれば、実際には再犯を行わないのに、再犯を行うと予測されて拘禁される者が無視しえない数で生じる。これについて、政府は、対象者には医療を行うのであるから、医療から受ける利益によってそのような誤りは相殺されるという意味の答弁を行っている。これは、再犯のおそれのある危険人物というレッテルを貼られることの重大さを無視した暴論である。

2.精神病質−人格障害問題について
    ―その再犯予測因子・責任能力・治療適応性問題―
 再犯予測法の研究によれば、予測の精度は、決して高くない。しかも、研究対象とされた集団は、いわゆる精神病質を含む母集団で、かつ、予測可能期間を限定されたものである。このような研究から導き出された予測法は、決して、特定された個人の再犯を予測できるものではない。
 さらに、責任能力が無いか著しく損なわれているとされる精神病は、むしろ再犯と負の相関があるとする有力な研究が多数存在する。一方、大多数の精神科医は、精神病質は原則的に完全責任能力を有すると考えている。すなわち、法案は、その対象を心神喪失等となった者としながら、そのような状態にある精神病では、再犯の予測は最も困難であるという矛盾を抱えることになる。
 わが国の現状では、簡易鑑定において精神病質とされた者のうち二割の者が、責任能力喪失ないしは限定責任能力とされている。したがって、この法案によって収容される指定医療機関には、無視できない数の精神病質者が入ってくることになる。こうして精神病質が実質上医療機関で処遇されるようになる傾向が高まれば、将来的には、検察官による精神病質の責任能力判断が、従来とは異なって責任能力無しという方向にシフトしていく可能性がある。精神科医は、精神病質の再犯の予測のみならず、その犯罪予防のための治療も引き受ける社会的責任を負うことになろう。責任は非難可能性を伴うのであるから、もしも再犯の可能性がないとされた者が再犯を行った場合、精神科医に対して不合理な非難が集中し、精神障害者を危険視する偏見が強まるであろう。結局、法案は刑に服すべき者を治療の名において無期限に拘禁するという結果をもたらす。
 しかも、治療実務経験を踏まえた研究によれば、精神病質の治療適応性には否定的な専門家の見解が、上記委員会報告において指摘されている。しかし、法案は治療適応性について全く触れていない。この法案に賛成する精神科医は、治療の適応外の者までも医療に導き入れ、治療なき拘禁を続けるような事態を自ら引き受けるつもりなのであろうか。

3.英国精神保健法改正問題の意味するもの
 英国は拘禁刑にあたる犯罪を犯した精神障害者を精神病院に不定期に入院させる治療処分の制度を有する国であるが、現行法では、精神病質者の強制入院の条件として「治療適応性条件」があり、精神病質者は治療適応性がないと判定されれば精神保健システムには入らず、有罪判決を受けたものであれば刑務所に入ることとなる(なお心神喪失抗弁はほとんど利用されない)。」現在、英国においてはこの犯罪行為が行われていなくとも強制隔離を行うことができるとする、治療適応性条件の撤廃を骨子とした改正案が政府より出されている。多くの精神科医やMINDなどは批判の論陣をはっている。英国をモデルにした議論がこの間法案賛成論の立場から行われることが多いが、その英国においてこのような事態が生じていることの意味を考える必要がある。
 英国においては、精神科医療システムにおいても、刑事システムの公平性においても日本と比較にならない程度に患者や、被疑者や被告人に対してその権利が保証されている。そのような国においてすら、このような理不尽な要求が精神科医療に対してなされている。
 精神科医療に対して、社会は常に刑事政策的役割を求めようとしてきた。英国における事態は、その端的な表現であろう。日本においても、他の国と同様、精神科医療は社会防衛的役割を一定程度担うことを強いられてきたわけであるが、今回の法案は精神科医療をさらに社会防衛の側に大きく一歩踏み出させる役割を果たすであろう。そのことの問題性を社会に提起することこそが、精神科医の社会的責務であると私たちは考える。

4.司法の問題は司法が公正に責任をもつべきである。
 起訴前の簡易鑑定、起訴便宜主義とその運用による検察段階の不透明で検証不能な司法判断、それに規制された措置診察の問題、医療と司法のあいだの交流の欠如と一方向性、刑事施設の医療の貧困など、現在の司法と精神科医療の間の問題を規定しているのは、検察を中心とした司法の有り方である。
 本法案においては、検察の起訴便宜主義の恣意的な運用によって、起訴前の簡易鑑定や責任能力判断が不透明な中で行われているという司法の側の問題には、全く手が付けられていない。司法においては、公正さこそが生命でなければならないが、この法案にみられるこのような不公正さは、司法の無謬主義―秘密主義の現れである。このような問題を放置したまま、そのつけが精神科医療に押しつけられるという事態が生じているのである。

 このような問題のある新法案の立法を急ぐより前に、国・政府がやるべきことは精神障害者への医療・福祉の改革・充実である。


私たちは臨床精神科医として上記声明に賛同し、自らの意志で連名するものである。

(2002年10月27日第二次集約分、143名)


赤嶺 秀明、浅香 須磨子、浅野 弘毅、荒川 幸博、有本 進、飯野 龍、石川 憲彦、石村 栄作、磯村 大、伊藤 哲寛、稲垣 亮祐、稲垣 俊雄、今岡 雅史、今岡 岳史、井本 浩之、岩井 圭司、岩尾 俊一郎、上野 光歩、上原 浩志、鵜戸 逸友、梅田 忠斉、大久保 圭策、大越 功、大下 顕、太田 幸司、大谷 洋一、大西 雅彦、岡 潔、岡江 正純、岡江 晃、岡崎 伸郎、岡田 清、小川 正明、小川 紘、小田 英男、落合 洋士、鬼原 治良、小原 基郎、片岡 昌哉、桂川 修一、葛山 秀則、加藤 公敬、加藤 高宏、金杉 和夫、亀田 英明、川合 仁、川瀬 典夫、川畑 俊貴、河村 由理、河村 直樹、北中 淳悟、金 光洙、木村 健一、木村 政紘、楠部 治、久保 一弘、小出 浩之、小高 満、五島 幸明、崔 秀賢、佐々木 青磁、佐是 輝安、佐藤 晋一、柴田 明、嶋田 博之、清水 聖保、白澤 英勝、杉田 憲夫、杉山 克好、瀬川 義弘、宋 仁浩、高岡 健、高木 果、高田 知二、高塚 直裕、高橋 武久、高橋 尚美、田川 精二、竹之内 恭一郎、田中 俊夫、田中 勝正、田中 迪生、田原 明夫、田村 修、知念 襄二、塚本 千秋、椿 恒雄、津本 学、寺岡 葵、東前 隆司、歳森 康博、中川 実、中里 進、中島 直、長田 正義、中山 隆嗣、名越 康文、苗村 敏、長谷川 誠、花岡 正憲、花岡 秀人、浜垣 誠司、浜野 徹二、平井 清、平尾 和之、福田 一彦、藤城 聡、藤巻 純、藤本 臣又三、星野 征光、細田 眞司、堀川 典宏、待鳥 浩司、松澤 冨男、松本 雅彦、丸井 規博、水野 慶三、三田村 幌、三家 英明、宮崎 隆吉、宮地 達夫、三吉 譲、村上 靖彦、望月 清隆、望月 紘、元木 章二、森 俊夫、森 厚、森 悦子、森 正樹、森 厚、森口 秀樹、山崎 哲也、山崎 信幸、山下 剛利、山本 修、山本 芳正、山本 忍、横山 太範、吉岡 隆一、吉田 精次、渡辺 哲雄、渡辺 瑞也



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