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自由人権協会 意見書


心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律案に対する意見書

2002年7月29日

内閣総理大臣 小泉純一郎殿
法務大臣  森山眞弓殿
厚生労働大臣 坂口力殿

東京都港区愛宕  1-6-7
愛宕山弁護士ビル 306号
社団法人 自由人権協会

代表理事  更田 義彦
同  弘中惇一郎
同  紙谷 雅子
sd同  田中  宏

心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律案に対する意見書

 当協会は、基本的人権の擁護を唯一の目的とする社団法人ですが、内閣が今国会に提出した「心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律案」(以下「本法案」といいます)について、以下の理由で根本的に見直すべきものと考えます。

1 本法案は、殺人、放火、傷害、強姦、強盗等の対象行為を行いながら、心神喪失者ないし心神耗弱者として公訴提起をされなかった者又は心神喪失者として無罪の確定裁判を受けた者等を対象者として、この対象者が精神障害者であり、かつ、継続的な医療を行わなければ心神喪失又は心神耗弱の状態の原因となった精神障害のために再び対象行為を行うおそれがあると認める場合に、裁判所が、この者を、医療を受けさせるために入院をさせる旨の決定を下すことができること等を規定しています。

2 このように、本法案は、特定の精神障害者のみをその対象とするものですが、日本国内では、依然として、精神障害者一般に対する根強い差別が存在しています。特に、本法案が可決され、「殺人等を犯しながら心神喪失を理由に無罪となった精神障害者の中には、同じ障害によって再び同種の犯罪行為を犯すおそれがある者が存在する」旨が法律で認められたと理解されるようになれば、社会一般に存在する精神障害者への差別感が、より一層強まる ことは確実です。

  本法案については、法案や要綱案の公表すらなされずに国会に提出されたのであり、このまま実質的に検討らしい検討もなされないまま本法案が成立した場合には、精神障害者に対する差別の固定化、強化が強く懸念されます。

3 本法案の最大の眼目は、上記のような特定の精神障害者に強制的な治療を受けさせるための入院命令の新設ですが、その前提となるのは、現在の精神医学において、「特定の精神障害者について、継続的な医療を行わなければ、心神喪失又は心神耗弱の状態の原因となった精神障害のために再び対象行為を行うおそれがあるか否かを判定できる」という認識です。そして、本法案は、指定入院医療機関の管理者に対し、入院命令から6箇月以内に入院継続の確認をすべきことを求めていますから、当初の入院命令発付時には、最大6箇月という期間にわたって上記のおそれが存するか否かを判定できるという立場を採っているものと思われます。

  しかし、今後6箇月以内に再び対象行為を行うおそれがあると判定できるという認識には、重大な疑問があります。むしろ、これまでに公表された研究によれば、そのような判定はできないと考えざるを得ません。  少なくとも、政府は、国会の審理にあたって、このおそれの判断がどの程度可能であるかに関する科学的データとして何を参照したかを公表し、これを広く国民に検討する機会を与えるべきです。

4 本法案が成立し、精神障害者が、新法の手続に従って入院命令を受けたとすると、この者を危険視し、同人との接触を避けようとする傾向が生まれることが予測されます。このように、本法案の対象とされる精神障害者に対しては、強い負のレッテルが貼られることは明らかです。

  したがって、誤って入院命令等の対象になる者が生じないよう厳格な手続を設けることが絶対に必要とされます。特に、本法案のように、民事でも刑事でもない全く新しい制度を創出し、しかもこれまでの日本の裁判制度にない裁判官と精神保健医との協同によって審判するという判定方式を採る場合には、適正な手続を法律自体の中に規定することが絶対に必要となります。重大な人権侵害の危険性がある場合に、最初から運用によってその危険性を 排除できると考えるべきではありません。

  この観点から本法案を見ると、「決定又は命令をするについて必要がある場合は、事実の取調べをすることができる」(24条1項)との基本規定が置かれているだけで、対象者、付添人(弁護士)がどのような活動ができるのかも明確ではありません。さらに、上記のおそれの認定基準(「合理的な疑いを容れない」基準か、検察官と対象者・付添人の間の「証拠の優越」基準か等)についても明記されていないので、裁判所ごとの判断が区々になる可能性も存在します。

  このような貧しい手続規定は、対象者の基本的人権を大幅に制限するという本法案の対象事項の重大さに全くそぐわないものであり、根本的な見直しが必要と考えます。

5 以上に掲げた理由により、当協会は、本法案は根本的に見直すべきものと考えます。また、当協会としては、今後とも、法案にある具体的な問題に対して検討と意見表明を行っていく所存です。

以上


京都弁護士会

自由人権協会京都 声明 2002年4月19日

仙台弁護士会 声明 2002年4月25日

日本弁護士連合会 2002年3月15日 精神障害と犯罪の問題に対する政府案に反対する(会長声明)

日本弁護士連合会意見書 2002年2月15日 精神医療の改善方策と刑事司法の課題


「心身喪失者医療観察法案」 国会審議等

池田小学校事件および特別立法に関連する声明一覧

心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律(案)


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