全国精労協Home>資料庫>声明一覧

日精協誌第21巻・第5号2002年5月4631 巻頭言

司法精神医学確立の礎石として触法新法の成立を望む


日本精神科病院協会 会長 仙波恒雄


 「心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律案」が平成14年3月15日閣議決定され,18日国会に政府提案として提出された。わが国においては今日ようやく,触法行為を行った精神障害者の処遇に対して新たな法制度として提案されたものである。ここに至るまでには昭和39年のライシャワー事件,昭和49年法制審議会の「改正刑法草案」,昭和56年法務省の「保安処分制度(刑事局案)の骨子」の提案等があったが,激しい討議の末廃案となり,以後この論議はタブー視され,実に30数年の紆余曲折の年月が費やされた。


 平成13年法務省,厚生労働省でこの問題の検討が再開され始めた矢先,平成13年6月池田小学校児童殺傷事件が起こり,自民党,政府・与党プロジェクトにより取り上げられ今日の提案となった。日本でもこの法律が成立すれば,先進諸国から著しく遅れていた司法精神医学領域の幕開けとなる。過去の確執やこの法律の複雑さ,困難さはあるが,日精協としては今回この法案の成立に期待するものである。今回の法律案では心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者に対する適切な処遇を決定するための手続きを定め,病状の改善およびこれに伴う同様な行為の再発の防止を図り,もって社会復帰を促進することを目的としている。対象者は殺人,放火等の重大な罪に当たる行為について不起訴,心神喪失を理由とする無罪判決等である。検察官の申し立てにより審判が開始され,審判は全国50カ所の地方裁判所で行われる。処遇の要否は裁判官と精神保健審判員(精神科医)の合議体で,意見の一致したところにより決定する。精神保健参与員の意見を聴く。弁護士である付添人がつく。処遇の決定は,指定入院医療機関での入院決定と地域社会における処遇とに分かれる。指定入院医療機関(国公立病院)においては専門的治療を受け,管理者は裁判所に原則として6ヵ月ごとの入院継続の確認の申し立てを行う。いつでも裁判所は対象者,保護者,指定医療機関の管理者の申し立てにより退院を許可することができる。保護観察所が対象者について退院後の生活環境の調整等を行う。


 通院決定を受けた者および退院を許可された者は指定通院医療機関(病院,診療所,薬局)において通院医療を受けるとともに保護観察所(精神保健観察官)による観察に服する。精神保健観察の下での通院治療の期間は3年間とする(裁判所は通じて2年を超えない範囲で,この期間を延長できる)。ただし,裁判所は,対象者,保護者または保護観察所の長の申し立てにより精神保健観察下での通院治療を終了することができる。裁判所は保護観察所の長の申し立てにより(再)入院決定をすることができる。指定通院医療機関,保護観察所,都道府県知事等は協議のうえ処遇に関する実施計画を定める。精神保健観察官は対象者の円滑な社会復帰を図るため,医療機関および民間団体等の連携の確保に努める。以上がこの法律の概要である。


 一方,触法精神医療の現状は,いままで毎年約800件の検察官通報があり,これらを措置入院制度一本で医療側は司法からこれらの患者を受け入れてきた。民間精神科病院でも新法の対象者である6罪に限っても,現在約1,000人の入院者があり,多くの問題を抱えてきた。たとえば開放処遇や退院時の判定の難しさ,社会防衛的な機能まで全てを負わされているに近い状況の中で,管理者,精神保健指定医の責任は大きく,退院後再び事件を起こせば病院側の責任が追求される。なんとかしてほしいという要望はわれわれの団体には強いものがある。しかし,過去の経緯があり,司法と精神医学に渡る領域で新法を作るとなると,あちらが立てばこちらが立たないということが起こりうる。今回も法務省側と厚生労働省側で責任の分担の押し付け合いは中間領域であるのでやむを得ないかもしれない。


 この案は国会で討議されるが,論点はいくつかある。第1に「再び対象行為を行うおそれ」を要件としていることで,精神科医師が再犯の予測ができるのか等の議論が古くからあるところであるが,まず,多くの精神科医のコンセンサスは遠い将来においては予測はできないが,近い将来において病状の再燃に関し,副次的に対象行為の起こる予測は事例によりできないわけではない。同様な予測は措置入院においても長年行ってきた所でもある。新法ではそのために入院処遇については6ヵ月ごとの審査制度を設け,また裁判官と精神保健審判員の意見が一致したところで判定されることとなっている。一方的に傾かない措置である。欧米での経験では事例の集積により再犯の予測性は高められるとの報告もある。その他,入院期間の上限の問題,保護観察所の役割,精神科医師の精神保健審判員,精神保健観察官等の新しい役割,鑑定問題等の検討が必要である。この新法案はまず骨格が示されているが,運用次第によりよくも悪くもなる。したがって,これからの省令,通知による運用が重要である。また,私はこの法の立法化により先進国から20年遅れている司法精神医学領域の礎石になる法であると思う。この成立は精神科医療全体に及ぼす影響は大きなものがある。この新法を適正に運営するための環境整備は不可欠であり,この法が熟成するまでにかなりの年月と関係者の努力が必要である。


池田小学校事件および特別立法に関連する声明一覧

「重大な犯罪行為をした精神障害者」問題 法務省・厚生労働省合同検討会

重大犯障害者の処遇法案〜与党・政府の動向

隔離新法」 国会上程反対 速報! 国会議事堂前抗議行動!

心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律(案)(更新020324)


精神医療ニュースへ

全国精神医療労働組合協議会

事務局 : 〒604-8854 京都市中京区壬生仙念町30-2

ラボール京都4F 京都民間医労連気付

Tel/Fax: 075-811-5672

E-mail mailto:zenkoku@seirokyo.com

全国精労協ホームページ



2002/07/10 06:00:40;51460;f6876db868v;RETR;ok;/htdocs/archive/folder1/kakurihouan/0205nisseikyo.html