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大阪読売新聞朝刊特集記事
<2002年03月25日大阪読売新聞朝刊3面スキャナー>
心神喪失者医療観察法案 「再犯の予測」巡り議論
厚労省「一定範囲で可能」 学会「長期拘禁に傾く」
重大事件を起こし、刑事責任能力の不足を理由に不起訴になるか、または実刑以外の判決を受けた精神障害者を対象にした「心神喪失者医療観察法案」を政府が十八日、国会に提出した。入退院、通院を裁判所で決めるのが特徴だが、「社会防衛のための予防拘禁になる」「偏見を広げる」との批判も強く、論争が起きている。国会審議を前に論点をまとめた。
(科学部・原 昌平、社会部・吉岡 康生)=関連記事34面■入通院の基準は
最大の焦点は、入通院の基準を「医療を行わなければ、精神障害によって再び対象行為を行う恐れがある場合」とした点だ。
現行の措置入院は精神科医二人の診断をもとにした行政決定。本人のための医療の必要性をベースに「自傷他害の恐れ」を絶えずチェックし、切迫した状態でなくなれば解除するもので、再犯の予測とは見通す時間の長さに違いがある。
厚生労働省が「数か月先の予測は一定の範囲で可能」とするのに対し、日本精神神経学会は「病状はある程度予測できても、再犯の恐れは予測不可能。長期拘禁に傾く」と主張する。■司法関与の意味は
審判は裁判官と精神科医各一人の合議で行い、退院や通院終了も裁判所の許可が必要になる。裁判官の関与は「医師だけに任せて治療が確実にできるか、措置解除を医師一人で決める現状は責任負担が重すぎるのではないか」(与党チーム)という考えからだ。
日本弁護士連合会の伊賀興一・精神医療問題小委員長は「裁判官は被告人の保釈もなかなか認めない。何かあったらと消極的になりがちだ」、全国自治体病院協議会は「再犯の恐れを基準にすると刑事処分的な要素が医療に持ち込まれる」と懸念するが、法務省は「病状の改善と社会復帰が目的で、刑罰に代わる制裁ではない」と強調する。■特別な医療制度とは
法務省は新規入院を年間三百―四百人、入院期間は平均三年とみており、全国で三十から四十程度の専門病棟が必要になる。一般医療と異なる特別な医療制度にしたのが特徴で、精神保健福祉法は適用されない。
「専門的で手厚い医療」について、日本精神病院協会の長尾卓夫理事は「患者と看護職員の比率が最低2対1以上のスタッフとハード面の整備が必要だ」と期待しつつ、「一般病院へ転院できないというのはどうか」と首をかしげる。「特別な治療法など存在しない。専門施設にいたというレッテルが張られ、社会復帰が困難になる」(京都弁護士会)との意見もある。■日常的な支援は可能か
通院確保と社会復帰の柱になる保護観察所は、保護観察中の人や刑務所を出た人を指導・援助する機関。実際の世話はボランティアの保護司が担っている。法務省は今回、保護司にタッチさせず、精神保健福祉士を観察官に雇う方針だが、全法務労組は「日常的に援助できる人数が本当に確保されるのか」と指摘する。
精神保健福祉士の間では「治療に欠かせない信頼関係を強制通院で築けるか」「生活の援助が私たちの仕事で、管理や指導はそぐわない」といった戸惑いが出ている。■権利保障は十分か
審判で弁護士がいない場合、国が無料でつける。決定に不服なら高裁に抗告できる。ただし高裁の審理は裁判官だけで行う。退院許可、通院終了の請求は決定から三か月たたないとできず、弁護士の保障はない。
審判は裁判官が主導する職権主義の手続きで行われ、非公開だが、被害者と遺族には傍聴を認める。
今回、ずさんな簡易鑑定や起訴便宜主義の安易な運用の改革はなく、審判で心神喪失・耗弱が否定されても起訴は検察の裁量になる。拘置所や刑務所の精神医療の改善も手つかずだ。
「きちんとした裁判を受ける権利も奪われている」という精神障害者側の訴えは受け止められていない。■精神医療の底上げは
精神障害者の犯罪率は一般より低い。殺人、放火はやや高いが、初犯が八割を占めており、「再犯防止の法案で不幸な事件は防げない」という指摘がある。
政府は新制度とともに精神保健福祉の総合計画を立て、底上げを図る方針だが、大阪精神医療人権センターの山本深雪事務局長は「隔離収容を強める法律ではなく、安心してかかれる医療、生活支援、相談窓口など地域サポートの充実こそ必要だ」と訴えている。
◆一般精神医療開放進む山上皓・東京医科歯科大教授(犯罪精神医学)
「法制度の欠陥の下で、精神障害を有する一部の犯罪者による悲劇が繰り返されてきた。重大事件を起こした者は、責任能力を欠く場合でも自由を制限されて当然で、司法の厳密な判断によって必要な治療を確実に提供すべきだ。事件を繰り返す患者と区別すれば一般精神医療の開放化も進むだろう。ただし医師による『再犯の恐れ』の評価を拘束の根拠にするのは適切と思えない。また検察は安易に不起訴にせず、できるだけ公判で審理してほしい」◆結局は入院決定に
中山研一・大阪市立大名誉教授(刑法)
「審判では事実認定や責任能力、再犯の恐れが議論される。判断を下すのは裁判官で、精神科医は補佐的な役割でしかない。重大事件を起こした精神障害者に再犯の恐れはないと、判断できるだろうか。結局は入院決定が出て、退院もしにくくなる。『手厚い治療』は重装備の閉鎖病棟を意味するし、保護観察所はそもそも刑事政策を担う役所だ。保安処分の名前こそないが、衣の下に鎧(よろい)が見える。隔離ではなく、精神医療を一般医療に近づける制度にすべきだ」添付図=法案による新制度の概要(略)
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[裁く]第6部・心の闇事件(連載9)精神障害者の犯罪 法案提出
「再犯」見極め 医師と合議で
<2002年03月25日読売新聞朝刊社会面>一九六四年三月二十四日、東京・赤坂のアメリカ大使館敷地内で、男(当時十九歳)がライシャワー大使を襲い、小刀で右太ももを刺した。男は精神病院の入院歴があった。鑑定留置でも精神分裂病と診断され、同年六月に措置入院。八月、正式に不起訴となった。
その前年、刑法の全面改正が法制審議会に諮問されていた。論点の一つだった精神障害者の再犯防止策が、この事件によってにわかに注目されることとなる。「保安処分」である。
七四年、法制審は、保安処分や企業秘密漏示罪、騒動予備罪などを盛り込んだ改正刑法草案を答申した。日本弁護士連合会や刑法学者、市民団体などは「治安主義的だ」と猛反発した。草案では、裁判官から保安処分を言い渡された者は、法務省の保安施設に収容される。事実上、無期限。刑罰と併せて処分を言い渡された場合は、先に刑が執行される規定だった。
最高裁刑事局第一課長として法制審刑事法特別部会幹事を務めていた佐々木史朗(75)(のちに福岡高裁長官、現弁護士)は、「刑務所から出ても保安施設に入れられる。しかも無期限というのでは終身刑と同じだ」と、草案には反対した。ただ、類似の制度が必要だとは考えていた。「刑事裁判は社会の安全を守るもの。治療を受けさせる制度がないため、日本の裁判官は、何とかして責任能力を認める(有罪にして刑に服させる)方向に判例を積み重ねる苦労をしてきた」
八一年、法務省は「保安処分制度(刑事局案)の骨子」を公表。「治療処分」と呼び名を変え、対象となる罪種を限るなどしたが、批判は収まらない。草案そのものが棚上げされた。
罪を犯した精神障害者をどう処遇するか。昨年一月、法務省と厚生労働省の合同検討会がスタートした。期限を設けて何かを決めるといった会ではなかったが、六月、大阪教育大付属池田小の児童殺傷事件が発生。この問題は一気に政治課題となった。のちに同事件の被告、宅間守(38)は精神病を装っていた疑いが強まったが、もう流れは止まらない。十一月、与党三党が新法案を決定。同時に合同検討会は“自然消滅”した。
政府は与党案をもとに今月十八日、「心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律」案を国会に提出した。
殺人、放火、強盗、強姦(ごうかん)・強制わいせつ、傷害、傷害致死を犯したが、心神喪失か耗弱で実刑を免れた者が対象。不起訴や無罪などが決まったら、検察官が対象者の住所地などを管轄する地裁に審判を申し立てる。裁判官が改めて精神鑑定を命じ、精神科医と合議のうえ、対象者が再びこれらの罪を犯すおそれがあると判断すれば、入院や通院して治療するよう決定する。入院先は国公立病院に設ける専門施設。期限は設けず、六か月ごとに継続するかどうかを決める。処遇の決定などに対し、対象者は不服申し立ても可能だ。
日弁連や日本精神神経学会などは、
- 〈1〉再犯のおそれの予測は困難
- 〈2〉精神医療の充実が先決――などとして、反対声明を出した
長期の拘禁につながる危険性は、かつての保安処分と変わらないという主張だ。
一部略、情報は→Yomiuri-On-Line
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