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日本病院・地域精神医学会声明 「心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律案」に反対する 「心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察に関する法律案」(以下「法律案」)が3月15日に閣議決定され,今国会に上程されようとしている。この法律案は,与党プロジェクトチームによって昨年11月にまとめられた報告書「心神喪失者等の処遇の改革案」(以下「与党PT案」)を踏襲しているが,本学会は2001年11月29日の第44会総会(水戸)において,与党PT案に反対する見解を総会決議として採択した。このたびの「法律案」は山積している精神医療・保健・福祉の諸問題と,刑事司法手続きの問題に言及することなく立法化されようとしており,これが実現すれば「心身喪失者」等の拘禁と自由の制限を大幅に強化するものとなり,「法律案」の対象者のみならず精神障害者に対する新たな差別・偏見を産むと共に,その人権を著しく侵害することとなる。
再犯予防という目的のもとに対象者が長期に拘禁され,地域生活においても自由を制限されるとすれば,いかに医療の名をかぶせようともとも本来の医療の主旨から大きく逸脱することとなり,そのような制度は名前を変えた保安処分制度に他ならない。
本学会理事会は以下の理由から極めて問題の多いこの「法律案」には断固反対する。
従って政府・与党は速やかにそれを撤回すべきである。1)この「法律案」は再犯の防止を目的としているが,将来の再犯あるいは危険性の予測は困難であること
精神障害者の犯罪率や再犯率は低いという現状で,再犯予防のために新たな制度を整備する意義は薄い。さらに,再犯や危険性の予測が困難であるにもかかわらず,「再犯のおそれ」を根拠とする拘束や自由の制限を目的とする制度を導入することが,「心身喪失者等」や精神障害者を対象に適用されることが許されるはずもない。精神障害者のみを対象に適用することは,明らかな精神障害者に対する差別である。2)司法管理下の長期拘禁収容及び長期強制通院は医療の理念と相反すること
「法律案」は司法管理下の医療,即ち,入退院の権限に精神科医が関与するとはいえ裁判官との合議となっており,司法優先下の医療である。そのような医療が医療として成立することの是非は全く論議されていない。
さらに,「法律案」では入院期間の上限が規定されておらず,また,保護観察下の通院が3年(さらに2年延長可)とされている。しかし,これらの根拠については全く明示されておらず,恣意的に規定されている。従って,社会防衛的観点から不当に長期の入院が漫然と行われる恐れは大であり,このことは,現行の措置入院者の実態をみれば容易に推測される。また,通院に関しても保護観察所による「精神保健観察」がおこなわれることとなるが,本来,地域精神保健・福祉は,「疾病の辛さ・苦しさ」や「逸脱行為をせざるを得なかった」背景を含めて総合的に斟酌し,当事者との十分な信頼関係を基盤としてはじめて「治療関係や治療意欲」を育むこととなり,結果として「逸脱行為をせざるを得ない辛さ」を和らげる支援が可能となるのであり,司法管理下の強制通院にはなじまないものである。3)これまで問題とされていた司法手続きについて何ら検討がなされていないこと
起訴便宜主義の下で安易な起訴前鑑定がなされてきた現状がある。そして,責任能力の判断に疑問が残る事例や,覚醒剤事犯やいわゆる精神病質の事例も,高率に不起訴とされ医療ルートに乗せられてきた現状について,何ら検討が加えられていない。
「法律案」においても,これらの問題は温存されたままに,あるいはこれまでの制度に接ぎ木をする形で,裁判所の審判と処遇決定がなされることになっており,結局は根本的な問題は解決されないまま,新たな,より強固な拘禁性,強制性を有する収容施設のみが設置されることになるに過ぎない。4)精神医療・保健・福祉の充実を等閑に付したままの「法律案」は精神障害者に対する差別・偏見を助長する恐れがあること
わが国の精神医療は,その著しい隔離・収容主義と社会資源の貧困によりアクセスの困難なものとなっている。そのことが精神障害者に対する差別・偏見を助長してきた一因である。与党PT案においては「精神障害者医療及び福祉の充実」が唱われていたが,このたびの「法律案」においては盛り込まれていない。医療法特例規定等によって劣悪な状況にあるわが国の精神医療水準を向上することなしに,また地域精神保健・福祉システムを充実することなしに「法律案」のような新制度が実現されるとすれば,精神障害者に対する差別・偏見が払拭されないばかりか,この制度の対象者はさらに過酷な差別にさらされる恐れがある。5)対象者の権利擁護が全く不充分であること
「法律案」によれば審判手続きにおける対象者への権利は擁護されておらず,入院等の審判結果についての高裁への「抗告」が認められているに過ぎない。この「法律案」では明らかに「国連原則(精神疾患を有する者の保護及びメンタルヘルスケアの改善のための諸原則)」(1991年,国連総会)に反しており,精神保健福祉法で認められている諸権利さえ認められていないことは全く論外である。2002年3月22日
日本病院・地域精神医学会理事会
(理事長 樋田 精一)
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