全国精労協2001年度活動方針

 《 社 会 情 勢 》

 1990年代バブルの崩壊に端を発した不況の嵐は、2000年代に入った今日もなお、止どまる事無く続いている。政府発表の「景気は底をついた」「緩やかな上昇を…」は大戦中の大本営発表のごとく嘘の上塗りを繰り返し、日本経済は益々混迷を深めている。
 企業はリストラによって赤字経営から脱しようとし、失業者は増える一方であり、「失業率は低下し…」の数字のマジックは、常勤雇用労働者が再雇用時には非常勤労働というからくりによって成り立っている。求人広告はパート募集が増大し、この頃は「正社員」と名を打ちながら給与計算は時給換算という会社まであらわれている。
 IT革命とやらで、コンピューター関連の事業だけは景気が良さそうだが、インターネットによる流通の拡大は、結果として人手減らしにすぎず、中間業者や小売業の倒産やリストラを意味している。経済が更に悪化するのは必然である。
 経済体制の危機と共に、日本国家が「戦争」への身構えを始めたことも特筆しておかねばならない。
 一昨年「日米安保ガイドライン」が締結され、その実体化として、昨年「周辺事態法」が国会において強行採決・成立させられた。この法律は、戦後民主主義・平和主義を投げ捨て、日本の「周辺」事態に際して、自衛隊が米軍と共同して軍事行動を起こすと言うものであり、労働者もこの戦争に動員することを規定しているものである。
 戦争は、労働基本権のみならず、人間の基本的人権すべてを圧殺するものであり、しのびよる戦争国家化日本の足音に、私達は警鐘を鳴らさずにはいられない。

 《 労 働 情 勢 》


 戦後、日本経済の高度成長を支えてきた大きな柱の一つに、「懸命に働けば生活が良くなる」と言う「夢」があった。しかしながら、自分の所属する企業が利潤を上げ大きくなれば、働く自分も豊かになれると言う「幻想」は、「労働」の持つ大事な側面「自らの労働が、社会の中でどの様な意味を持ち、労働を介して社会とどの様に関わっているかを知る、いわゆるアイデンティティの確立(大きくは地球・宇宙規模の問題から、小さくは労働の結果たる製品を手にした消費者の満足であったり、看護を受けた患者さんの笑顔であったりする)」を希薄にさせた。急速な高度成長は労働者のこれらの意識状況に支えられ、生産至上主義による障害者・弱者の切り捨てや環境汚染、アジア各国への経済侵略などを産みだした。
 「労働」が「貨幣」に転化される事の悪弊は、労働の喜びイコール単に金を稼ぐ喜びに陥いり易い事である。「労働の意味を問わない労働者」これは各労働者間の分断をも意味し連帯も断ち切られた(過去、国労の順法ストに『めいわくだ』と、ストの意味も考えずに不快を表すサラリーマンに代表される。本来ならば連帯のゼネストまで行なっても良いはずだったのに・・)「自らの労働の意味を問わない労働者」これほど使い易い労働力は無い。働く「夢」は都合よくすりかえられ・利用され、そして日本は荒廃しつつある。
 働く事の「夢」は今、はじけてしまいつつある。「夢」を支えてきた年功序列制度や終身雇用制度が崩壊しつつあるからだ。バブルと共にドリームもはじけてしまうのだ。資本の論理からすれば経営の理想は、「いかに少ない資本投資で大きい利潤を得るか」であり、人件費率は低いにこした事はないのである。過去の歴史を振り返れば、労働者の生活と権利は為政者・資本家との闘いの中で、一歩ずつ獲得されて来たものである。日本はこの数十年の間に高度成長のぬるま湯に漬かり、この原則を忘れてしまった。労働運動の世代継承もほとんど成されていない状況である。
 今まさに、労働運動を再構築しなければならない。「労働の意味」まで問うた、連帯した労働運動を。そうしなければ、この荒廃を止どめることは出来ないであろう。

 《 精 神 医 療 現 場 》

 昨年4月から施行された改正精神保健福祉法は、その政省令の中に「任意入院は開放処遇を原則とする」と記され、「閉鎖処遇は行動制限」と位置付けるとされる事により、任意入院者は閉鎖処遇時は本人の同意が必要となった。
 入院中における「精神障害者の人権の保障」「適正な医療を受ける権利の保障」は、法的には、やっと改革の「一歩」を踏み出せたと言える。
 しかし、医療現場においては、説明も無く強引に閉鎖処遇の同意書に署名させたり、経営的な都合で安易に医療保護入院に切り換えてしまう、悪辣な閉鎖的病院があとをたたないと言う報告も入っている。
 精神障害者が地域で生活していく為の基盤整備も遅々として進まず、グループホームや作業所も、厚生省の打ち出した2002年達成予定数の半分にも及んでいない。
 医療の内容も、病院によって大きな格差がある。入院者だけでなく、勤務する労働者にとっても、甚大な肉体的・精神的苦痛を強いられる病院が、いまだに数多く存在する。
 閉鎖性の強い病院は、そこで働く労働者の立場も閉鎖的になりがちである。医療現場を変革して行くのは、そこで働く労働者、と言う原則に立ち返るならば、この閉塞・分断された状況を変えて行くものは、精神医療に従事する者の縦横無尽の連携・連帯であり、経営側と対等に渡り合い改革の推進を保障するのが「労働組合」である。
 精神医療現場においても、労働組合の再生なくして精神医療の真の改革はない、と言ってよいであろう。

 《 2 0 0 1 年 度 春 闘 方 針 》

 今、医療業界では、国をあげての「不況」「不況」の大合唱の中で、いわれの無い賃下げを強いられる状況が出てきている。
 高度成長期には「診療報酬が上がらないから」とか「他の業種とは違う」と低賃金を強いられてきた私達が、何故また更に、押さえ付けられなければならないのか?むしろ今こそ、多業種との賃金格差を埋めなければならない時なのである。
 「不況」理由では無く、昨今多いのは、病棟の改築を低額回答の理由にするケースであるが、言語道断である。そもそも改築のための借入金は、経営の責任に於いて、労働者にその皺寄せが来ない様、返済計画をたてるのは当然の事である。

(1)春闘の展開
 春闘要求書提出以前に、関東・中部・関西ブロックに別れて春闘対策会議を開き、経営側の動向も含めた全体的な春闘情報を収集し共有化する。病棟建て替えなど、個別的な状況にある病院については、他病院の経験を共有化するなどして、各加盟単組に応じた具体的かつ柔軟な要求・戦術をたてる。 4月中旬に、春闘交流集会を開催し、各組合での回答や経過を集約し共有し、要求貫徹の為の意思統一を図る。又、闘いの情報を速やかに伝達し、困難な状況での闘いを強いられている組合に、全国的な支援をしていく。
(2)賃金闘争
 '99年'00年と大変厳しい春闘結果が続いている。医療業界は基本的には「不況では無い」と言う事をしっかりと押さえ、経営側の低額回答理由をどこから切り崩すのかを分析し、組合員全体に浸透させる必要がある。又、低額やむなしと言う雰囲気を打破するため、病院職員全体にも情報を行き渡らせる必要がある。
 「今こそ多業種との格差を埋める時」と認識し、大幅なアップとまではいかなくとも、確実にベースアップを獲得することが大切であろう。
(3)一時金闘争
 「一時金は生活給の一部である」。経営側は、業績によって一時金を決定しょうとして来るが、これは低額構造を固定化すると同時に、労働組合の交渉力を否定するものである。業績を伸ばす為のビジョンを出すことは経営側の責任であり、そのビジョンを達成するには、労働者の意欲を鼓舞する為にも、一時金は出されるべきなのである。
 よく「一時金は借入れでやっているから・・・」という言い訳をする経営者が居るが、病院においてはマンパワーそのものが利潤を産み出す資産であり資材である。生産工場に置き換えれば工作機械とも言えるマンパワーに、先行投資をするのは当たり前のことである。
(4)賃金体系の変化
 大きく別けて二種類の変化がある。一つは「職能資格制度」という形をとり、すでに導入されている病院もある。「人事考課」という方式で一時金について導入されている病院もある。様々な利点の様なものも意味付けされてはいるが、経営側の目的が「人件費削減と労働者の分断」にあることはしっかり押さえておく必要がある。
 医療労働のように業績が数値で表れないものを、しかも人間と言う最もファジーなものの判断によって、正当・公平に評価できるか?という問題もある。更に言えば精神医療領域では患者さんにとって、なにがプラスでなにがマイナスかと言う判断すら下し切ることは出来ない。上司や経営にとっては決して容認できないような行為ですら患者さんの心を癒す為には非常に有意義なことも多々ある。これらを含めて評価でき得るか。否できないであろう。
 もう一つは正社員(常勤)からパートへの転換である。栄養課や看護助手に導入される病院も出てきている。不況、就職難のおり、定時で週に4〜5日あるいは6日という常勤と同等な勤務内容で身分はパート、と言うけっして認められない形態を経営側の都合によって強いられている。「同一価値労働、同一賃金」の原則を堅持し闘う必要があるであろう。
(5)労働時間短縮
 労基法改定後「変形労働時間制度」や「裁量労働制」の改悪によって、サービス残業、長時間労働の合法化、手当のカットなど、労働者の負担と犠牲は増大している。組合の監視の目によって、なしくずしに権利を侵害されて行くことの無いよう注意する必要がある。
 賃金要求だけで無く、ゆとりある生活ができるような労働時間を獲得するため、時短・年休が完全消化できるような人員確保・完全週休二日制導入などを要求していく事も重要である。
(6)育児休業制度・介護休業制度
 法的に育児休業制度については、国の少子化対策によって96年4月から児が満一歳になるまでの間、休業中の社会保険料の免除と雇用保険から給与の20%が保障(復帰後半年間勤務すればプラス5%=25%)されるが、介護休業については3か月間で介護対象は一人一回(雇用保険からの給付は無し)とされている。これらの完全実施と、介護休業については期間の延長など、制度以上の内容を獲得・協約化していく。
(7)要員確保
 精神科特例については2000年医療法改正によって多少の前進はありつつも、不十分にしか是正されず、薬剤師の配置基準にいたっては、2001年12月見直しまで、一般70:1に対して精神150:1という現場状況をも無視した差別特例が残された。 療養型病床群についても、配置基準どおりの人員では日勤者確保が不十分であり、結果として、長期在院者の社会復帰促進にまで力が及ばず、従来通りの隔離「管理」に止どまりがちになっている現状がある。
 配置基準にあまんじる事なく、現実に必要な人員を要求し「患者さんの人権と適正な医療を受ける権利」を守り「誇りの持てる看護労働」を獲得する必要がある。
 又、経営側の「募集しても人が来ない」等の言い訳に対しては、賃金の底上げや(引き抜きの為などの一部の人間だけのアップは許してはならない)待遇の改善など、問題点の是正を要求する必要がある。
 職員間では最も不安定な立場にあるパート労働者については、経営の皺寄せがかかり易い。同じ職場で働く仲間として、雇用と労働条件の改善に取り組み、しっかりと組織していく必要がある。特に、常勤並みの労働条件であるのに、経営的な理由でパート化している場合には、常勤化闘争を組む必要がある。
(8)病院給食等の業者委託阻止
 経営側の安易で一方的な合理化の発想によって広がりつつある「病院給食等の業者委託策動」に対しては現場労働者の生活を守ることに止どまらず、直営ならではの「安全・栄養・心」のこもった「医療一環」の食事を提供する為に、断固反対していく必要がある。
 経営側の動きとして、委託前段に常勤職員の欠員をパートで補充する、部門ごとに委託職員を入れる(例えば食器洗浄部門に限定とか)、病棟改築時に一挙に委託する、特に病棟改築時は老朽化した病棟を新しくすると言うバラ色の「夢」と引き換えにされたり、現場職員が新棟完成まで旧棟で作業をしていて移転と同時に作業に入りずらいことに付け込み新棟完成直前から委託業者を新厨房で習熟させるなどが見られる。
 病棟改築の計画が上がっている病院については、計画段階のうちから委託の考えの有無を明らかにさせ、場合によっては改築をも阻止する方針をもって交渉を行なう必要がある。
(9)春闘総括集会
 2001年度の春闘の実状と問題点を明確化し、個別情勢や形態に配慮しながら全国の問題として共有する。そして、次年度の闘いへと指標を立てることを目的に開催する。

 《 中 央 行 動 》


 全国精労協は、結成以来重要な活動の一つとして、働く者の立場から厚生省に対し、精神医療・福祉政策や労働条件の改善、精神障害者の人権確保などについて、毎年厚生省交渉をもち、これらの訴えを行なって来た。
 「誇りある精神医療労働を獲得する」ことは、我々労働者のアイデンティティにも関わる重要な目標でもある。
 2000年施行開始となった改正精神保健福祉法の政省令の中に「閉鎖処遇は行動制限と位置付ける」「任意入院は開放処遇を原則とする」が明記されたことは、長年に渡り要求を積み重ねて来た我々の努力の結実である。
 しかしながらこれらは、法的には、精神医療が過去長きに渡って続いてきた「隔離と収容」の時代から、やっと改革の一歩を踏み出したにすぎず、現場の医療に於いてどのように生かされるかは、正に「現場の声」の発言者である我々の肩に掛かっていると言って過言ではないであろう。
 さらには「精神科特例」や「欠格条項」、社会復帰政策の立ち遅れや社会的偏見の是正など、問題はまだまだ山積みにされている。
 精神医療現場の労働組合として唯一厚生省交渉を行なっている自負を持ち、全国から一人でも多くの仲間が参加し、全国精労協の力を中央行動に向けて結集しよう。

 《 地 方 自 治 体 交 渉 》

 厚生省交渉と平行して、実質的な行政機関である都道府県に対する交渉にも重点をおく。この自治体交渉は1999年東京都衛生局交渉(DC・OT活動の一環としての院内喫茶廃止指導の撤廃、働きながら看護資格が取得できる制度の存続を、等)から開始しているが、今年度はさらに、東京・京都を始めとして大阪、三重などにも交渉を広げ、より現場に近い、具体的な問題や、自治体独自の問題、さらに各精神医療審査会が確実に機能しているかのチェック等様々な諸問題の解決の糸口とする。
 又、2000年より開始した東・西NTT交渉(閉鎖病棟へのカード式公衆電話設置促進への協力要請)のような民間企業への要請行動も、必要に応じて精力的に行なう。

 《 医 療 内 容 の 点 検 活 動 》

 全国精労協は設立以来、精神障害者の人権保障、より良い精神医療の提供を目指し、改善に取り組んで来た。
 患者さんの人権が守られない、と言う事はその職場で働く労働者の人権も守られないと言う事であり、患者さんの人権に無自覚であると言う事は、自分自身の人権にも無自覚であると言う事を常に忘れず、一人一人が毎日の労働を点検する必要があるであろう。
 全国精労協に加盟している病院の中でも、医療内容に大きな差の有る現実がある。今後も医療内容の向上の為に、継続して職場の医療内容やサービスについての情報を交換し、点検活動を主体的に行なう。実態の改善に行政的な動きが必要な場合、政策委員を通じて厚生労働省、各自治体に働きかけて行く。

 《 精 神 医 療 研 究 懇 談 会 》

 今年は、京都精労協より引き継いだ精神医療研究懇談会の第30回を岐阜の郡上八幡で開催する。精神医療分野以外からの講師を招いて学び、又、組合活動における諸問題、医療内容の問題や現場での課題などでの分科会を行なう。又、この間行なって来ている初日の夜間分散会は、とくに栄養課や薬局・政策委員会主催の医療人権問題など、職種・領域に分れ(勿論他の職種でも参加歓迎)より詳細な交流が行われている。
 日常の労働に終始するだけでなく、全国の仲間たちと交流を図り、論議し、貴重な体験が出来る場として、結集をはかる。

 《 組 織 の 拡 大 ・ 強 化 》

 全国精労協は今年度で結成11周年を迎える。この間少しずつでは有るが積み上げた実績は、今、厚生省や地方自治体に対し、交渉し、提言し、追及出来得る所まで進んで来た。
 「全国精労協」と言う名のもとに、全国的な問題に取り組めているのは、ひとえに、精労協に役員を送り出し、支えて居てくれる各単組の組合員の努力の結果である。この貴重な協力は、全国規模の問題だけではなく、一つ一つの組合の中にも生かされなければならない。
 その為にも各組合は、労働者の生活と権利を守る為に、如何に労働組合が必要であるのか、何故全国的な連帯が必要であるのかを、各組合員に熟知してもらう必要がある。10周年を期に第二版が作成された「ハンドブック」をこれに活用されれば幸いである。
 又、より強固な陣形を構築し、広がりを持ったものにしていくためにも、精神医療現場で働く仲間たちとの交流を深めて、全国精労協への加盟をよびかけて行く。
 それと共に、福祉領域で働く人達や友誼団体とも連携し結集を求めていく。 又、厳しい状況に置かれている組織に対しては、強力な支援体制を確立し、防衛し、援助しあえるよう、一層の組織拡大・強化をしていく必要がある。                
 以上。

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