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ノーベル賞受賞者  リゴベルタ・メンチュウからブッシュ大統領への手紙



大統領閣下、

 まずはじめに、先日十一日の火曜日にあなたの国で起こった痛ましい出来事を耳にして、お国の方々に申し上げた連帯と慰めの気持ちをあらためて表明させていただきます。と同時に、このようなテロリズムの行いに対する深甚な怒りと非難とを私が皆さんと共有するものであることをご理解ください。
 この数日間、私は事態の発展を追ってまいりましたが、そこから今もっとも必要なのは硬直な反応ではなく、反省であることを確信しています。怒りではなく、冷静な知恵。復讐ではなく、正義の模索、それこそが求められているのではないでしょうか。私は訴えてきました、世界中の人々の良心に、メディアに、平和の探求を倫理的使命とする著名な人々に、国家元首や国際機関の指導者たちに、沈着さこそが私たちの行いを照らすのだと。
 にも関わらず、大統領、昨晩あなたが議会でなさった演説を聞いて、私はあなたの言葉がもたらすかもしれないことへの恐れを抑えることができません。あなたは国民に「いままで経験したことがないような大規模な軍事行動」に備えるよう呼びかけられた。軍人たちには、誇りを持って戦いに赴けとおっしゃった、世界中の人々を巻き込む戦争へと。
 あなたは、進歩、多元主義、寛容、自由、そうしたものの名において、自由の恩恵も文明の果実も分け与えられていない私たちのような人間にどんな選択も許そうとはなさらない。あなたが守ろうとされている自由や文明、それはあなたの国民のため、それだけでなく私たちのようにいまだかつて一度もテロリズムに同情したことなどない者たちのためにあるのではないのですか。私たちはテロの犠牲者なのですから。私たちにもあなた方とは異なる文明があり、それに誇りを抱いています。そして、日々生きながら、差別や無視がいつか認知と尊敬に変わる日を待ち望んでいるのです。私たちの魂の奥底には、かつて私たちの同胞に対して犯された民族虐殺の痛みがまだ疼いています。他国の戦争で死んだ者たちを埋葬するのはもうたくさんだ、そう心底から思っている私たち。そんな私たちにとって、あなたがご自分を絶対視する傲慢さを共有することはできない、あなたが私たちに押しつけようとする唯一の道を共に歩むことはできません。「世界のあらゆる地域のあらゆる国家はいまや決断を迫られている、我々と共にあるか、それともテロリストと共にあるかの」と決めつける、そんなあなたとは。

 今年の初め、私はこの地球の男たち、女たちといっしょに、次のような千年紀平和のための倫理基準を宣言しました。

 正義なくして平和はありえない
 平等なくして正義はありえない
 発展なくして平等はありえない
 民主主義なくして発展はありえない
 人々とその文化の尊厳およびアイデンティティに対する尊敬なくして民主主義はありえない今日の世界において、これらはすべて稀有な価値であり実践です。とはいえ、それらがあまりにも不平等な形で分配されているために、無力感や絶望、憎悪を増幅する結果になっています。あなたの国が現実の世界秩序のなかで果たしている役割、それは中立とはほど遠いものです。昨夜私たちが期待していたのは冷静な演説、反省と自己批判の言葉でした。でも私たちの耳を撃ったのは、受け入れることのできない脅迫でした。
 あなたがおっしゃるように「この争いの経過は分からない」、わたしもそう思います。でもあなたが「その結果は分かるのだ」と高らかに宣言されたとき、私のからだに唯一くっきりと入り込んできたのは、甚大で不必要な犠牲が払われるだろうということ、そしてまたもや途方もない嘘が語られている、という確信でした。

 戦争を宣言される前に、あなたにお願いしたいのは、違った形の世界の指導者としてのあり方を考えていただきたいということです。それは、征服ではなく説得です。「目には目を」という野蛮人にとっての正義、中世の暗黒時代の人間の思考を私たちは過去千年かかって克服してきたことを人類は示すことができるです。神や創世について違う考え方をもっている人々を尊敬することを学ぶためには、新たな十字軍など不要です。進歩がもたらしてくれる成果を連帯して分かち合い、地球上にいまだ残っている資源をより良く守り、そしてひとりの子供も飢えたり教育を欠いたりすることがないような世界を築くこともできるのです。

一縷の望みを抱き、心よりの気持ちを込めて、



リゴベルタ・メンチュウ・トゥム
ノーベル賞受賞者
善意と平和の文化大使

本橋哲也訳


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