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「心神喪失者医療観察法案」国会情勢緊迫! 法案は廃案しかない!


154-155国会審議の検証(簡略版)
提案者・賛成者に見るダブルシンク(二重思考)


精神科医 吉岡隆一


「ダブルシンクとは一つのマインドに中に同時に二つの相矛盾する信念を保持し、双方を受容する力を意味する。当人はおのれの記憶をどの方向に変えねばならないのかを知っている。したがって当人は現実相手に小細工をしていることは判っていながら、ダブルシンクを実践することによって『現実を侵犯しているのではない』として自己を満足させる。このプロセスは意識されていなければならない。さもなくばダブルシンクに必要な精密さが得られないであろう。しかしまた無意識的でもなければならない。さもなくば嘘くさいという感じがどうしても起こってしまうであろう。・・ダブルシンクという言葉を使う時にもダブルシンクを実践しなければならない。(ジョージ・オーウエル「1984年」)」(『心的外傷と回復』ジュディス・ハーマン 中井久夫訳 より)
 心神喪失者医療観察法案の国会審議に見られた提案者の態度は、まさにダブルシンク的である。

1 措置入院要件と新法の再犯のおそれ予測は同一である、かつ、同一でない
同一であると繰り返し述べられた。しかし法の文言は異なっているから、同一ではない。
同一であるから、措置入院の判断と同じく再犯の予測は可能であると述べられた。
措置入院では比較的近い将来のものとして行なわれている(6/28坂口大臣)。
両者は基本的に同一(6/28森山大臣)

2 措置入院における自傷他害の判断は適正に行なわれている、かつ、行なわれていない。
措置入院と一般医療が適正に機能しているからこそこの法案の処遇は決定でき、かつ、措置入院と一般医療が適正に機能していないから、この法案が必要である。
措置入院での判断が適正に行なわれているから、同一である再犯予測も処遇要件も可能であるとされた。同時に12/4塩崎委員は措置入院と一般医療の機能していないからこの法案が必要と述べた。
植田議員質問趣意書への回答8/27では広島市のある病院は60名の措置入院者を入院させている。もちろん適正であるから、本法案の再犯予測や医療必要性判断も可能になる。
しかし、地域差があるのが問題であるともあちこちで述べられた。同回答書では宮崎で1/3以上が20年以上、京都では0である。したがって妥当な再犯予測も修正案の処遇の要件も判断不可能でもある。
新規措置入院者の年次動向(衛生行政業務報告:厚生省報告例):地域格差は明らか
厚労省は「検証可能な診断書」や保健所用マニュアルの作成に乗り出した。(日経新聞2002年12月8日)。

3 検察官の責任能力判断は適正に行なわれている、かつ、行なわれていない
適正に行なわれていたが、鑑定医一人当たりの件数や精神障害の診断率は大きくことなっていた。
適正に行なわれていたが、鑑定を行なわないことが相当数あった。簡易鑑定には(本鑑定にも)精神病質を無責とするものが含まれていた。(犯罪白書、措置入院制度のあり方に関する研究:平成13年度厚生科学研究)これらの鑑定を受けて検察官がどうした判断を行なったのかは不明である。
人格障害を前提として責任能力がないとされることはない(7/5古田参考人)

4 再犯の予測は確率的には可能である、かつ、予測を行なうデータは存在しない
確率的な予測は可能であると示唆しつつ、予測のための枠組みはいらないかそのデータは存在しないことには触れないで、川本参考人は法案を支持する。司法精神医学の世界では確率的な予測が最新であるが、それが枠組みを持たないことはありえないのだが、司法精神医学は未発達なのかもしれない。

5 修正案に再犯の予測は含まれている、かつ、含まれていない。修正案の中心的な目的は医療の必要性である(塩崎委員)が同様の行為の再発の防止を図りと続いて含まれている。
原案では「再犯を予防するということが大前提」であった(6/28坂口大臣)が大前提はどこに行ったのであろうか。
再犯の予測は原案で可能と断言され、かついまもなお、措置入院の判断と同一で可能であるから、行為の再発の防止を予見することはできるはずであるが、措置入院の判断は適正化が必要であるともいう。
鑑定に当っての参照事項は原案も修正案も同じであるから、再犯の予測は含まれているが、法の目的が異なり鑑定事項は異なっている。
修正案では「特定の具体的な犯罪行為やそれが行なわれる時期の予測は不可能と考えられ漠然とした危険性が感じられる場合におそれの予測はできないという批判は理解できる」(塩崎委員12/4)とのべているが、「同様の行為」は法第二条第二号の重大犯罪のどれかに属するものをいう(12/4)から、特定はされた犯罪群について予測はできるのでもあるのか。

6 本法案は保安処分と同一ではなく、かつ、同一である
再犯の予測は可能である、なぜなら、ドイツで坂口大臣が可能であったと聞かされたから。
さて、ドイツは保安処分を有する国ではなかったのか?
ドイツでは平均入院期間はかつて4.5年であったが6年に延長した(山井委員7/5)のは再犯の予測が変化し続けている証拠なのかもしれない。長期化しない特別病院や保安施設への収容の歴史を持たない国などなかったが。
刑法のなかにおかれた手続きでない本法案は保安処分でないとされた。
イギリスがお手本になるとも言われている。古田参考人はかつて、「イギリスについて大陸法系の諸国におけるような保安処分の概念はないが・・処遇上特別の取り扱いが適当な犯罪者に対しては種種の制度が設けられており、これらは実質的に保安処分に相当するものといえよう」と述べた。(判例時報997号「ヨーロッパ諸国における保安処分制度とその運用の概要(1)」)。彼はこのとき刑事局の検事であった。イギリスは当時も今も精神保健法の枠組において犯罪を犯した精神障害者を処遇している制度を有しているが、さて、それは保安処分であったはずだが、今度の法律は保安処分ではないという。

7 精神障害者の再犯率は本法案の立法に関係がなく、かつ、関係がある。対象者は400人程度であり、かつその6割程度であり、かつ、それよりも低い。
精神障害者の再犯率が低いことは認められたが、再犯率に関係なくこの法が必要であると答弁された(6/28古田参考人)。一方、再犯率のデータに回顧的なデータを使って言及し前科前歴を有するものの比率を30%弱と答弁していた後に、重大な犯罪に関する前科前歴を有するものは12%弱と訂正した。山上の貴重な再犯率に関する展望的データ(8%程度)は言及されていない。
対象者の数は当初心神喪失耗弱重大犯罪者400名弱とされていたが、そのうちの一部分にしか過ぎないはずであることを指摘されても、その数は不明であるとしかされていない。12/4には重大犯罪を犯して措置入院になる比率6割程度を参照数字とする(森山大臣)様でもあったが、再犯率のデータと距離がありすぎる。修正案は原案よりもなお対象者の数がすくなるかのように塩崎委員から答弁がなされたが、依然として対象者の数のシミュレーションは行なわれていない。資料が作成提出されるかどうかは理事会が協議するらしい。
したがって、どれほどの手厚い医療を行なう指定医療機関の体制が必要なのかもまだわからない。

8 裁判官の再犯予測は連続量としてのリスクをどこできるか決定することであるかもしれない。しかし医師にも考えてもらわなければならない。裁判官の責任能力判断もアバウトであると同じく再犯予測もアバウトであってよいかもしれない
川本参考人の紹介する精神科医の意見(7/9)によれば、連続量を切ることが法律家の判断である。おそらく血圧値や血糖値の連続量を切って高血圧症や糖尿病の判断も裁判官に任せたらいいことがあるだろう。なぜならそれも連続量だから。こうした法律判断は連続量を切る判断であるというのは新説であるがあるいはかなり正確な理解かも知れない。確かに法律判断は2分法に基づくことが多いから。確かに司法精神医学はまだ未発達かもしれない。注;法律判断はこの場合不利益処分を科することの正当性にかかわるのであり精神科医の意見は誤りである。誤りを指摘してあげないで紹介して自説の補強に使おうという法律学というものもあるのだろうか。
医師にも連続量としてのリスクの切り口を考えてもらわないといけないという意見もある(前田参考人7/9)。裁判官もアバウトな判断をしているからというのは、どういう誘惑なのであろう。司法精神医学の文献では、医師のかかわることではないともされている(Monahan)が、司法精神医学に対する警告だろうか。

9 措置入院制度は拘禁的でなくなったので新法案が必要である、かつ、措置入院制度は過剰に拘禁的である
 前田参考人(7/9)によれば開放化に伴い侵害行為を行なうということが起こってくるし措置入院が身柄が拘束できるという安心感が失われ「治療に純化し」たのでこの法案が必要であった。すなわち措置入院は適正な機能を失ってきた。また措置入院は従前から目前の症状だけで判断を行なってきたのではないから、再犯の予測は可能である。(かつ、目の前の症状だけで判断するものではないものとしてこそ新法に求められるものだというのが政府参考人の主張でもあった。)措置入院の長期入院者が存在している(20年以上が1/4)である。日本の地域医療は遅れていると繰り返しほとんど全委員が述べており国会審議の進行とともにこの論調は強化されたが、この法律家は措置入院の医療純化が問題であると述べ、法案を支持している。そして措置入院診断書の適正化が厚労省によって叫ばれ始めながら、なおかつ地域医療の実施体制作りは依然不明確なままである。
アメリカの措置入院の入院期間は2週間程度であった。

10 犯罪に当たる行為を犯した精神障害者には特別な治療法が存在する、かつ、存在していない。
入院をされてからの治療方法につきましてはそんなに違わないんでしょう(6/27坂口大臣)が、急性期治療をへて怒りのマネージメントなどの特別な治療法が必要になる。(高原参考人)。川本参考人は法案を支持しながら「イギリスの例を見ても治療方法その内容事態は変わりません」とのべる。
諸外国では精神病質の治療可能性は低いことは司法精神医学の常識的見解であるうえ、怒りのマネージメントはうつ病、PTSD、家族等々に用いられる認知行動療法であって、犯罪を犯した精神障害者が治療の対象というわけでもない。

11 措置入院の判断は、純粋な医療判断以外を含み、かつ含まない。純粋な医療判断は、生活環境に照らして治療の継続が確保されるのかどうか考慮し、かつ、考慮しない。
前田参考人(7/9)は措置入院でもこうした純粋な医療判断以外の判断を行っているともいい、措置入院は医療に純化したともいう。漆原委員(12/3)によれば生活環境に照らすような判断は純粋な医療判断ではないので裁判官が関与すべきである。
専門的で高度な特別な治療法は裁判官は門外漢でもあり、かつ、医療を受けさせる決定に関与しなければならない。

12 諸外国は司法精神医療を地域医療の推進の上で作り出した、かつ、作り出していない

13 日本の地域精神医療は十分である、かつ、十分でない

14 わが国には7万2000人の退院可能者が存在してない、かつ、存在している
法案審議で散々挙げられたこの数字は社会保障審議会障害者部会精神障害分会報告書では(私には)見つけられなかった。

15 医療法特例は廃止された、かつ、廃止されていない
新看護基準の採用によって一般医療とおなじ看護基準が導入されたので医療法特例は廃止された。大学病院等では3:1基準に引き上げられた。同時に精神医療のほとんどを担っている民間精神病院の基準は6:1看護でもよく療養病棟と同じ基準であって、一線的に医療を担う基準ではない。

16 原案は医療に焦点を置いていない、かつ、置いている

17 わが国に司法精神医学は存在していない、かつ、存在している

18 保護観察所は通院医療命令を実質的にコーディネートできる、かつ、その体制ははっきりしていない
対象者の数ははっきりしないが、社会復帰調整官の担当ケースは数件が適当であり、50箇所に配置する予定である。保護観察所のノウハウが利用でき、かつ、全く異なる職務でもある。

ダブルシンクに巻き込まれてしないためには、強く私たちの視点を一貫させておく必要がある。
治療には迅速性と地域性を、刑事手続きにおける事実認定、責任能力判断には厳正さと慎重さを求めねばならない。
わが国の精神医療の歴史と現状は、隔離収容に大きく傾き、その桎梏の下に今なおある。
外国の司法精神医学は、特別病院や保安処分という地域医療以前の前世紀の隔離施設に端を発し、その閉鎖性・拘禁性の重圧にあえいできた。米国では一般地域医療の進展と同時に司法患者はその治療を求める権利や過剰拘禁からの自由を求め法廷が釈放した長期拘禁された司法患者の再犯の少なさが衝撃を与えた。マッカーサーリスク評価研究は短期予測、明確な結果の定義、予測と予測因子と予測期間と結果の定義を明確にした枠組みの上で確率的な暴力行動の予測を行おうとした。その成績はいまだに大きく限定されたものである。研究と平行して、精神医学はさまざまな諸事件に揺さぶられ続けた。タラソフ事件からは外来患者の暴力の予見やありうべき被害者への警告義務を求められたり、レーガン大統領の狙撃事件の衝撃から精神障害者の責任能力基準の改変を強く求められてきた。それでも地域医療は進展し続け、それが司法患者に及ぶ動きがうまれた。イギリスにおける地域保安ユニットの導入やダイバージョンはそれらを反映しているが、なお、長期拘禁のそしりを免れてはいない。翻って彼我の地域医療の差は歴然たるものである。司法精神医学が自らの犯罪の予測能力に限定を行い、社会防衛のための強制医療をミニマムにする努力を続けている傍ら、わが国の精神病床が減少を始めたのはせいぜいこの10年に過ぎず、しかもそのかなりが入院患者の高齢化と若年者の短期入院化によっているという事実によっている。そしてそれでも、精神障害者の犯罪は増えてはいないし、社会的入院者は減ってもいないのである。
国会審議を読み返してみて、感想は後半になれば成る程、結局議論のそこに横たわる現実と司法精神医学の制限性が浮かび上がってくる。そしてそれが各委員に意識されればされるほど、法案を「修正」しようとする動きがまた別のダブルシンクを呼び覚ましているように思われてならない。措置入院でできている判断だから新法でもできるとされていた再犯予測や処遇決定は措置入院の実態が明らかになることによって、その前提を失いつつあるように思われる。おそらく犯罪と精神障害をめぐる問題に近道はない。刑事手続きの厳正さと慎重さをこそ法律家は求めねばならず、治療提供の迅速さと地域性をこそ臨床家は求めねばならず、それぞれがその責任を果たし、判断の内容をお互いに取り違えた上で合議とするブラックボックスに入れてしまうことを避けねばならない。


「心身喪失者医療観察法案」 国会審議等

自民党塩崎議員修正案(衆院法務委員会)

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心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律(案)


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