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「心神喪失者医療観察法案」国会情勢緊迫! 法案は廃案しかない!

法務省・厚生労働省の「論点整理」を批判する! その3


2002年11月7日

「法務省・厚生労働省ペーパー」について


精神科医                    
日本精神神経学会・精神医療と法に関する委員会委員
中島 直

【論点整理】
1. いわゆる「再犯のおそれ」に対する懸念について
○ 本制度の「おそれ」の要件は、措置入院の要件である「自傷他害のおそれ」から、本制度による処遇の対象とする者をさらに限定するため、「自傷のおそれ」と「軽微な他害のおそれ」を除いたものであり、その判断過程や判断方法は「自傷他害のおそれ」の判定と同様であることを明確にするため、第42条第1項第1号等に規定されている「再び対象行為を行うおそれ」を「重大な他害行為を行うおそれ」に変更する。
○ 本制度による手厚い専門的な医療を行うことが入院の目的であり、そのような医療が必要な者が対象となる。

批判は吉岡大杉富田文書を参照されたい。ともあれ、これはせいぜい単なる言い換えに過ぎず、修正を施したものではない。

2.保護観察所が社会復帰に関与することに対する懸念について
○第20条に規定する精神保健観察官の資格要件については、「精神保健福祉士その他の精神障害者の保健及び福祉に関する専門的知識を有する者として政令で定めるもの」と法定することによって、保健・福祉の観点を明確化する。

これも批判は富田文書等を参照されたい。

3.見直し条項を付すことについて
○ 法案の施行状況を踏まえて見直しを行うことを附則に明記する。

これだけの問題が指摘されているのであるから、まずは廃案にするのが当然である。「見直し」があるから問題があっても成立させろとの態度は無責任以外の何物でもない。

4.「等」には人格障害や精神病質者も含まれるのではないかとの懸念があるので、「心神喪失等」の「等」をはずせないかとの指摘について
○ 「等」は「心神耗弱」を意味するものであるところ、心神耗弱者は、その精神障害のために弁識能力や行動制御能力が著しく劣っている者であって、心神喪失者と同様、手厚い専門的な医療を必要とする者である。なお、人格障害のみを有する者については、一般に心神喪失者でも心神耗弱者でもないと解されており、本制度による処遇の対象とはならない。

人格障害、ないし精神病質のみを有する者が多数、心神喪失ないし心神耗弱とされ不起訴になっている事実は犯罪白書によっても明らかである。起訴された場合でも、心神耗弱とされ減刑される例があることは、犯罪白書、および判例により明らかである。

5.家裁に社会的機能を持たせ、処遇の要否・内容の決定は、家裁で決定するべきとの指摘について
○ 家庭裁判所は、少年問題と家庭問題を専門的に取り扱うために特に設置された裁判所であって、少年問題とも、家庭問題とも異なる本制度による処遇の要否・内容の判断については、原則的な第一審裁判所である地方裁判所において行うことが最も適当と考えている。

筆者はこの制度の運用が行われるのは地裁であろうと家裁であろうとほぼ同質の問題があると考えているので、この点についてはコメントしない。

6.事実認定は正式な裁判手続で実施すべきとの指摘について
○ 本制度は、刑罰に代わる制裁を科すことを目的とするものではなく、手厚い専門的な医療を行うことにより、本人の社会復帰を促進することを目的とする毛のであるので、その手続は刑事訴訟手続と同様のものでなければならない理由はなく、現に、少年の保護事件においては、非行事実の認定も刑事訴訟手続とは異なる審判手続により行われている。
○ 本制度においては、裁判所が適切な処遇を迅速に決定し、医療が必要と判断される者に対してできる限り速やかに本制度による手厚い専門的な医療が行われることが重要であって、刑事訴訟手続より柔軟で、十分な資料に基づいて適切な処遇を決定できる審判手続によることが最も適当と考えている。

本制度による入院は不利益処分である。本人の利益を最優先する医療的判断のみであれば医師等の医療従事者のみの判断で足りるはずで、それ以外の判断基準が存在するからこそ裁判官が判断主体の一翼を担っているのである。また、本法案に基づく入院は無期限のものと成り得る(あるいは多数が無期限となる)のであって、その間家族からも遠く離れた医療機関に拘禁される可能性も併せて考えれば、不利益処分以外の何物でもない。これが不十分な手続で決定されてよいというのはまさに人権侵害である。趣旨も運用も全く異なる少年事件と同列に扱うことはそもそも不適切であり論ずるに値しないが、一点だけ付言するなら、少年事件では本法案のように「再び対象行為を行うおそれ」という曖昧な要件によって無期限の拘禁が許容されるような構造になっていないことが意識されるべきである。

【心神喪失者等医療観察法案の必要性について】
1 現状の問題点
  現行の措置入院制度に対しては,
 (1)心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者についても,その入退院の判断が事実上医師に委ねられており,医師に過剰な責任を負わせることになっている。
 (2)退院後の通院医療を確実に継続させるための実効性のある仕組みがない。
 (3)実施主体が地方公共団体であり,都道府県を越えた連携を確保することができない。
 (4)心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者に対し,手厚い専門的な医療を実施することができない。
 (5)重大な他害行為の被害者等が,対象者の処遇がどのように決定されるかを知ることができず,また,その結果を知ることもできない。
等の問題点が指摘されている。

2 問題点への対応
 (1)心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者についても,その入退院の判断が事実上医師に委ねられており,医師に過剰な責任を負わせることになっている。
  ○一般対策の限界
   ・心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の適切な処遇を決定するに当たっては,その者の生活環境等に照らし,治療の継続が確保されるか否か,問題行動を起こしやすい状況にあるか否かといった,純粋な医療判断とは異なる判断を行うことも必要であるが,そのような判断は,必ずしも医師が専門とするところではなく,むしろ裁判官が行うことが相応しく,医師と裁判官が処遇の要否・内容を決定することが適当であるが,現行の措置入院制度の枠組みでは,裁判官も加わった合議体が決定主体となることは困難である。
   ・措置入院制度においては,すべての精神障害者をその対象としていることや,患者の診察のための入院制度が整備されていないこと等から,短時間の問診により「自傷他害のおそれ」の有無を判定せざるを得ず,また,判定に必要な資料を十分に収集するための実効性のある手段もない。
  ○政府案における対応
   ・裁判官と医師による合議体が,医療的判断と併せて法的判断を行うことにより,両者の意見の一致によって,個々の対象者について最も適切と考えられる処遇を決定する。
   ・対象者を入院させた上で,精神科医による詳細な鑑定を行うことに加え,処遇の要否を決定する裁判所に事実調べの権限を付与するとともに,検察官や弁護士である付添人等に資料の提出・意見の陳述権を認め,さらに,保護観察所が対象者の生活環境を調査することにより,適切な処遇を決定するための十分な資料を収集する。

生活環境等の判断については、医師も、精神保健福祉士等と共同しながら、常に行っていることであり、裁判官の方が優越すると判断される根拠はない。措置入院の入院時の診察の時間が短いのは事実であるが、措置入院はその時点で自傷他害のおそれが認められなくなれば即座に退院となるのであり、その点で誤りが正される形になっている。実際の救急医療はそのような形で運用されている。未来における「再び対象行為を行うおそれ」が消失しなければ退院できない本法案の入院とは異なる。
医師の責任が過剰であるというのはしばしばなされる批判であるが、医師が医療的な観点から判断を行うのは当然のことであり、それが責任過剰であると言うのであれば医師としての責任放棄である。また、添付されていた「【指定入院医療機関への入退院の判定について】(2)裁判所の合議体を構成する精神科医と裁判官の意見が不一致の場合は、より自由の制約の少ない処遇に決定される。」が実際に遵守されるのであれば、精神科医の「入院させない」「退院させる」との判断は即座に対象者を外に出すことにつながるのであり、医師の責任が重いことは変わらない。

 (2)退院後の通院医療を確実に継続させるための実効性のある仕組みがない。
  ○一般対策の限界
   ・措置入院制度においては患者を強制的に通院させる制度がなく,退院後は患者の任意の通院に委ねられている。
  ○政府案における対応
   ・精神保健観察官による退院前の生活環境の調整,退院後の観察・指導等を行うことにより,退院後の医療の継続を確保する。

通院中断の問題が存在するのは事実であるが、それは本法案の対象者のみの問題ではない。また地域での医療保障の問題は本来強制的な通院ではなく地域でのサポートシステムの充実によって対処すべき問題であり、本法案の通院制度はこれを怠って安上がりに済まそうとするものである。さらに、強制通院制度を有する国があることは事実であるが、批判も多数あり、むしろサポートシステムの充実こそが重要であるとする議論が強い。

 (3)実施主体が地方公共団体であり,都道府県を越えた連携を確保することができない。
  ○一般対策の限界
   ・実施主体が地方公共団体である以上,都道府県を越えた密接な連携を確保することが困難である。
  ○政府案における対応
   ・全国の各都道府県に所在している保護観察所が,対象者が退院した後の処遇に関するいわばコーディネーターとして,指定通院医療機関の管理者や都道府県知事等と協議の上で処遇の実施計画を策定し,また,対象者が転居するような場合には,元の居住地の保護観察所と転居先の保護観察所とが緊密に連携すること等により,都道府県を越えて関係諸機関の連携の確保を図る。

これはまさにためにする議論である。この問題が存在することは事実であるが、それは本法案の対象者に限られる問題ではない。都道府県を越えた連携をいかに確保するかという点で議論が組み立てられるべきであり、本法案の必要性とは一切関係のない問題である。

 (4)心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者に対し,手厚い専門的な医療を実施することができない。
  ○一般対策の限界
   ・地方公共団体においては,心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者について,専門的な司法精神医療を提供する医療機関を運営することや,そのための人員・財源を確保することは困難である。
  ○政府案における対応
   ・医療関係者を手厚く配置した指定入院医療機関を新たに設け,専門的で手厚い医療を実施する(施設整備費や医療費を含む運営費は全額国庫負担)。

専門的な医療が必要なのは本法案の対象者のみではない。思春期、合併症など、専門的な医療が求められながら行政がそれを怠ってきた課題は多い。また逆に、本法案の対象者がすべて「手厚い専門的な医療」が必要とされるわけではない。通常の精神科医療がもっとも適切な人々も多数いる。むしろ、本法案の対象者すべてを、家族や友人から引き裂いて遠方の医療機関に入院させ、退院後のサポートも困難にし、本法案の対象になったとのスティグマを負わせることの不合理こそがより大きな問題である。さらに、医療法特例を温存するなど、精神科医療全般をきわめて低いレベルに置いているこれまでの政策こそが修正されなければならない。加えて、「専門的な医療」の内容が今に至るまで明らかにされず、医療機関の施設基準すら明らかにされていない状況で、「専門的な医療が行われるのだから」という説明は説明になっていない。

 (5)重大な他害行為の被害者等が,対象者の処遇がどのように決定されるかを知ることができず,また,その結果を知ることもできない。
  ○一般対策の限界
   ・処遇の決定過程や決定結果を被害者や遺族に明らかにするための制度がない。
  ○政府案における対応
   ・被害者や遺族に審判手続の傍聴を認め,また,.審判の結果を被害者や遺族に通知する。

これも、本法案による制度が必要とされる理由の主たる要因とは成り得ないものである。

【民主党提案の内容について】
1.精神科集中治療センターの指定
  (趣旨)高度な精神医療を行う施設を確保。
対応⇒
 ●病態に応じた精神病床の機能分化の推進
  ・急性期・重症者等を対象に高度・専門的かつ集中的な精神医療を行う治療ユニットを確保
  ・一般精神病院について医療法に基づく人員基準の引き上げ
  ・指定病院、応急入院指定病院の基準の引き上げ
  ・診療報酬によるきめ細かい対応
 ●精神科救急システムの拡充
  ・24時間医療相談事業の早急な全国実施
  ・初期救急輪番制の導入
 ●司法精神医学研究の推進一
  ・国立精神・神経センターに司法精神医学研究部を設置し、精神医療の高度化及びその普及を図る。
2.「判定委員会」及び「精神保健福祉調査員」の新設
  (趣旨)措置入院に係る判定の適正化
対応⇒
 ●措置入院の判断の標準化
  ・指定医研修の改善
  ・保健所等の行う事前調査のマニュアル作成等
3.社会復帰支援体制の強化
  (趣旨)関係者間の相互連携と、協力体制整備
対応⇒
 ●約7万2千人のいわゆる社会的入院者の社会復帰
  ・ホームヘルプなどの在宅福祉サービスの充実
  ・精神科救急整備
  ・地域医療体制・相談体制の充実
  ・社会復帰施設の整備等

これらはすべて、本法案とは関係ない項目であり、本法案の成立を条件であるかのように示す法務・厚生労働両省の態度こそが批判されるべきである。医療法特例の廃止については、平成12年の医療法改定の際に、医療従事者の側からあれだけ強く主張されたにもかかわらず、厚生労働省は日本精神病院協会と一体となってこれを拒絶したのであり、さらにその後も精神科医の不足等を口実としてこれの実行は困難である旨を繰り返し説明している。この説明が正当であったのであれば、この状況がいくらかでも変化したと言えるのであろうか。民主党は、このような、何の実効の保障もない、官僚の説明を聞くべきではない。

以上



2002年11月6日 入手

法務省・厚生労働省

【論点整理】
【心神喪失者等医療観察法案の必要性について】
【民主党提案の内容について】
【指定入院医療機関への入退院の判定について】
第154回国会衆議院法務委員会・厚生労働委員会連合審審査会議事録 (人格障害関連)

法務省・厚生労働省の「論点整理」を批判する!

2002年11月6日 

その1「論点整理」について 弁護士 大杉光子 
その2 論点整理ペーパーの批判 「再び対象行為を行うおそれ」を「重大な他害行為を行うおそれ」へ変更することについて 吉岡隆一

2002年11月7日 

その3「法務省・厚生労働省ペーパー」について 日本精神神経学会・精神医療と法に関する委員会委員 中島 直 



「心身喪失者医療観察法案」 国会審議等

池田小学校事件および特別立法に関連する声明一覧

心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律(案)


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