「心神喪失者等医療観察法案」に関する国会審議は政府与党の思惑に反して、法案の重大な問題性が明らかになり、採決できず、継続審議となりました。(「心神喪失者医療観察法案」の審議の経過 1999年5月〜2000年7月)
あまりにお粗末な答弁しかできなかった、厚生労働省の高原亮治障害保健福祉部長と法務省古田佑紀刑事局長は首をすげ替えられました。政府は必至に巻き返そうと法案成立に向けて、修正案のための法務省・厚生労働省が論点整理を作成したもので、厚生労働省の部長や法制局長が関係国会議員室を訪問しているようです。
厚労省の役人は、これで成立しなければ、精神保健関連予算を塩付けにするとほのめかしたようです。そうした圧力のせいか、精神医学講座担当者会議と国立精神療養所所長協議会が、廃案派からこぼれている状況になりました。
修正のポイントは
- 〈1〉入退院の判断基準をより限定する
- 〈2〉見直し規定を付則に明記する
- 〈3〉対象者のケアを担当する精神保健観察官は保健・福祉の専門家に限定する
・〈1〉で「再び対象行為を行うおそれ」を「重大な他害行為を行うおそれ」に変更
→表現があいまいな分、むしろ対象が広がって社会防衛的性格がより強くなった
・「措置鑑定と同様の判断過程・判断方法」
→措置鑑定の「今ここで」の自傷他害のおそれの判定と、「再犯を予測」の判定とは、精神科医が行なうこと以外は全く違うもので、「同様の判断過程・判断方法」の根拠はない
・「人格障害は含まない」
→実際の心神喪失心神耗弱判定では人格障害者が簡易鑑定でも20%含まれているウソであるなどの批判が出ています。小手先の修正であり、本質的には何も変わっていません。
批判文については、下の法務省・厚生労働省の「論点整理」を批判する! を読んでください!
追記:すでに問題は役人のレベルを越えて、与党、自民党が修正を模索する段階に入ったようです。民主党のプロジェクトチームは論点整理では、修正協議には入らないとの点で固まっているようです。重大な他害行為のおそれ、が純粋な医学的なものに変わらない限り民主党は協議には入れないとの立場です。
頑張れ! 民主党!
法務省・厚生労働省
- 【論点整理】
【心神喪失者等医療観察法案の必要性について】
【民主党提案の内容について】
【指定入院医療機関への入退院の判定について】
第154回国会衆議院法務委員会・厚生労働委員会連合審審査会議事録 (人格障害関連)2002年11月6日
- その1「論点整理」について 弁護士 大杉光子
- その2 論点整理ペーパーの批判 「再び対象行為を行うおそれ」を「重大な他害行為を行うおそれ」へ変更することについて 吉岡隆一
2002年11月7日
- その3「法務省・厚生労働省ペーパー」について 日本精神神経学会・精神医療と法に関する委員会委員 中島 直
【論点整理】 1. いわゆる「再犯のおそれ」に対する懸念について
○ 本制度の「おそれ」の要件は、措置入院の要件である「自傷他害のおそれ」から、本制度による処遇の対象とする者をさらに限定するため、「自傷のおそれ」と「軽微な他害のおそれ」を除いたものであり、その判断過程や判断方法は自傷他害のおそれ」の判定と同様であることを明確にするため、第42条第1項第1号等に規定されている「再び対象行為を行うおそれ」を「重大な他害行為を行うおそれ」に変更する。
○ 本制度による手厚い専門的な医療を行うことが入院の目的であり、そのような医療が必要な者が対象となる。2.保護観察所が社会復帰に関与することに対する懸念について
○第20条に規定する精神保健観察官の資格要件については、「精神保健福祉士その他の精神障害者の保健及び福祉に関する専門的知識を有する者として政令で定めるもの」と法定することによって、保健・福祉の観点を明確化する。3.見直し条項を付すことについて
○ 法案の施行状況を踏まえて見直しを行うことを附則に明記する。4.「等」には人格障害や精神病質者も含まれるのではないかとの懸念があるので、「心神喪失等」の「等」をはずせないかとの指摘について
○ 「等」は「心神耗弱」を意味するものであるところ、心神耗弱者は、その精神障害のために弁識能力や行動制御能力が著しく劣っている者であって、心神喪失者と同様、手厚い専門的な医療を必要とする者である。なお、人格障害のみを有する者については、一般に心神喪失者でも心神耗弱者でもないと解されており、本制度による処遇の対象とはならない。5.家裁に社会的機能を持たせ、処遇の要否・内容の決定は、家裁で決定するべきとの指摘について
○ 家庭裁判所は、少年問題と家庭問題を専門的に取り扱うために特に設置された裁判所であって、少年問題とも、家庭問題とも異なる本制度による処遇の要否・内容の判断については、原則的な第一審裁判所である地方裁判所において行うことが最も適当と考えている。6.事実認定は正式な裁判手続で実施すべきとの指摘について
○ 本制度は、刑罰に代わる制裁を科すことを目的とするものではなく、手厚い専門的な医療を行うことにより、本人の社会復帰を促進することを目的とするものであるので、その手続は刑事訴訟手続と同様のものでなければならない理由はなく、現に、少年の保護事件においては、非行事実の認定も刑事訴訟手続とは異なる審判手続により行われている。
○ 本制度においては、裁判所が適切な処遇を迅速に決定し、医療が必要と判断される者に対してできる限り速やかに本制度による手厚い専門的な医療が行われることが重要であって、刑事訴訟手続より柔軟で、十分な資料に基づいて適切な処遇を決定できる審判手続によることが最も適当と考えている。
【心神喪失者等医療観察法案の必要性について】 1 現状の問題点
現行の措置入院制度に対しては,
(1) 心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者についても,その入退院の判断が事実上医師に委ねられており,医師に過剰な責任を負わせることになっている。
(2) 退院後の通院医療を確実に継続させるための実効性のある仕組みがない。
(3) 実施主体が地方公共団体であり,都道府県を越えた連携を確保することができない。
(4) 心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者に対し,手厚い専門的な医療を実施することができない。
(5) 重大な他害行為の被害者等が,対象者の処遇がどのように決定されるかを知ることができず,また,その結果を知ることもできない。
等の問題点が指摘されている。2 問題点への対応
(1) 心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者についても,その入退院の判断が事実上医師に委ねられており,医師に過剰な責任を負わせることになっている。
○一般対策の限界
・心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の適切な処遇を決定するに当たっては,その者の生活環境等に照らし,治療の継続が確保されるか否か,問題行動を起こしやすい状況にあるか否かといった,純粋な医療判断とは異なる判断を行うことも必要であるが,そのような判断は,必ずしも医師が専門とするところではなく,むしろ裁判官が行うことが相応しく,医師と裁判官が処遇の要否・内容を決定することが適当であるが,現行の措置入院制度の枠組みでは,裁判官も加わった合議体が決定主体となることは困難である。
・措置入院制度においては,すべての精神障害者をその対象としていることや,患者の診察のための入院制度が整備されていないこと等から,短時間の問診により「自傷他害のおそれ」の有無を判定せざるを得ず,また,判定に必要な資料を十分に収集するための実効性のある手段もない。
○政府案における対応
・裁判官と医師による合議体が,医療的判断と併せて法的判断を行うことにより,両者の意見の一致によって,個々の対象者について最も適切と考えられる処遇を決定する。
・対象者を入院させた上で,精神科医による詳細な鑑定を行うことに加え,処遇の要否を決定する裁判所に事実調べの権限を付与するとともに,検察官や弁護士である付添人等に資料の提出・意見の陳述権を認め,さらに,保護観察所が対象者の生活環境を調査することにより,適切な処遇を決定するための十分な資料を収集する。
(2) 退院後の通院医療を確実に継続させるための実効性のある仕組みがない。
○一般対策の限界
・措置入院制度においては患者を強制的に通院させる制度がなく,退院後は患者の任意の通院に委ねられている。
○政府案における対応
・精神保健観察官による退院前の生活環境の調整,退院後の観察・指導等を行うことにより,退院後の医療の継続を確保する。
(3) 実施主体が地方公共団体であり,都道府県を越えた連携を確保することができない。
○一般対策の限界
・実施主体が地方公共団体である以上,都道府県を越えた密接な連携を確保することが困難である。
○政府案における対応
・全国の各都道府県に所在している保護観察所が,対象者が退院した後の処遇に関するいわばコーディネーターとして,指定通院医療機関の管理者や都道府県知事等と協議の上で処遇の実施計画を策定し,また,対象者が転居するような場合には,元の居住地の保護観察所と転居先の保護観察所とが緊密に連携すること等により,都道府県を越えて関係諸機関の連携の確保を図る。
(4) 心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者に対し,手厚い専門的な医療を実施することができない。
○一般対策の限界
・地方公共団体においては,心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者について,専門的な司法精神医療を提供する医療機関を運営することや,そのための人員・財源を確保することは困難である。
○政府案における対応
・医療関係者を手厚く配置した指定入院医療機関を新たに設け,専門的で手厚い医療を実施する(施設整備費や医療費を含む運営費は全額国庫負担)。
(5) 重大な他害行為の被害者等が,対象者の処遇がどのように決定されるかを知ることができず,また,その結果を知ることもできない。
○一般対策の限界
・処遇の決定過程や決定結果を被害者や遺族に明らかにするための制度がない。
○政府案における対応
・被害者や遺族に審判手続の傍聴を認め,また,.審判の結果を被害者や遺族に通知する。
【民主党提案の内容について】 1.精神科集中治療センターの指定
(趣旨)高度な精神医療を行う施設を確保。
対応⇒
●病態に応じた精神病床の機能分化の推進
・急性期・重症者等を対象に高度・専門的かつ集中的な精神医療を行う治療ユニットを確保
・一般精神病院について医療法に基づく人員基準の引き上げ
・指定病院、応急入院指定病院の基準の引き上げ
・診療報酬によるきめ細かい対応
●精神科救急システムの拡充
・24時間医療相談事業の早急な全国実施
・初期救急輪番制の導入
●司法精神医学研究の推進一
・国立精神・神経センターに司法精神医学研究部を設置し、精神医療の高度化及びその普及を図る。2.「判定委員会」及び「精神保健福祉調査員」の新設
(趣旨)措置入院に係る判定の適正化
対応⇒
●措置入院の判断の標準化
・指定医研修の改善
・保健所等の行う事前調査のマニュアル作成等3.社会復帰支援体制の強化
(趣旨)関係者間の相互連携と、協力体制整備
対応⇒
●約7万2千人のいわゆる社会的入院者の社会復帰
・ホームヘルプなどの在宅福祉サービスの充実
・精神科救急整備
・地域医療体制・相談体制の充実
・社会復帰施設の整備等
【指定入院医療機関への入退院の判定について】 本法案においては、下記のような制度が整備されており、対象者は、医療上の必要性から、必要な限度において医療を受ける仕組みが担保されているものである。
(1) 裁判所に設ける合議体による入院の要否の判断は、精神科医の鑑定結果を基礎として行われる。
(2) 裁判所の合議体を構成する精神科医と裁判官の意見が不一致の場合は、より自由の制約の少ない処遇に決定される。
例えば、仮に、裁判官が入院が必要と判断したとしても、精神科医が入院は不要と判断した場合には、入院は行われない。退院の可否を判断する場合も同様である。すなわち、精神科医の適正な医療的判断が決定に反映される制度としており、対象者に対しては、適正かつ必要な限度において医療が行われることとなる。
(法案第14条)第11条第1項の合議体による裁判は、裁判官及び精神保健審判員の意見の一致したところによる。(3) 裁判所の合議体に加わる精神科医は、一定の経験を有する医師を精神保健審判員として任命することとなるため、適正な医療的判断が可能。精神保健審判員の候補となる精神保健判定医については、次のような要件を定めることを予定している。
・精神保健指定医として10年以上の臨床経験を有すること
・措置診察を10回以上行った経験を有すること
・厚生労働大臣が定める研修を終了していること(4) また、指定入院医療機関に入院中の対象者については、医師がその状態を日常的に観察する中で、常にrおそれ」の有無を判定する。このrおそれ」が認められない場合には、直ちに裁判所に対して退院の許可の申立てがなされ、退院の可否が判断される。
(法案第49条第1項)指定入院医療機関の管理者は、当該指定入院医療機関に勤務する精神保健指定医(精神保健及び精神障害者福祉に関する法律第19条の2第2項の規定によりその職務を停止されている者を除く。第117条第2項を除き、以下同じ。)による診察の結果、第42条第1項第1号又は第61条第1項第1号の決定により入院している者について、第37条第2項に規定する事項を考慮し、入院を継続して医療を行わなければ心神喪失又は心神耗弱の状態の原因となった精神障害のために再び対象行為を行うおそれがあると認めることができなくなった場合は、保護観察所の長の意見を付して、直ちに、地方裁判所に対し、退院の許可の申立てをしなければならない。
第154回国会衆議院法務委員会・厚生労働委員会連合審審査会議事録
(抜粋)平成14年7月5日〇五島正規委員
(中略)
そこで,厚生労働大臣にお伺いしたいわけですが,人格障害による心神喪失あるいは心神耗弱状態ということがあり得ると考えているのかどうか。(中略)その点についてお伺いしたいと思います。○高原政府参考人(厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部長)
本制度におきます対象者の要件につきましては,心神喪失等の状態で重大な他害行為を行ったことでございます。入院または通院の要件は,対象者について,裁判所において,継続的な医療を行わなければ心神喪失等の状態の原因となった精神障害のために再び対象行為を行うおそれがあると判断されることであります。
したがいまして,人格障害のみを有する者につきましては,我が国では一般的に完全な責任能力を有すると解されております、心神喪失者等とは認められていないため,御指摘のとおり,本制度の対象とはならないものと考えております。(以下略)○古田政府参考入(法務省刑事局長)
(中略)
人格障害みたいなケースにつきましては,これは先ほど厚生御当局の方からも御答弁がありましたけれども,そのことのみによって心神喪失あるいは耗弱と認定されている例というのは,これは現実問題としても一般にない。したがいまして,そういう意味で,仮に人格障害という判断が出た場合に,責任能力についての判断がばらっいているというふうなことはないものと考えております。○古田政府参考人(法務省刑事局長)
(中略)
捜査,公判段階におきまして人格障害というものがあるという認定が精神医療的な判断であった,そういうふうな者につきまして,それを前提に責任能力が否定される,あるいは減弱されるということは一般的にあり得ないことでございます。(以下略)
2002年11月6日 入手法務省・厚生労働省
- 【論点整理】
【心神喪失者等医療観察法案の必要性について】
【民主党提案の内容について】
【指定入院医療機関への入退院の判定について】
第154回国会衆議院法務委員会・厚生労働委員会連合審審査会議事録 (人格障害関連)法務省・厚生労働省の「論点整理」を批判する!
2002年11月6日
- その1「論点整理」について 弁護士 大杉光子
- その2 論点整理ペーパーの批判 「再び対象行為を行うおそれ」を「重大な他害行為を行うおそれ」へ変更することについて 吉岡隆一
2002年11月7日
- その3「法務省・厚生労働省ペーパー」について 日本精神神経学会・精神医療と法に関する委員会委員 中島 直
「心身喪失者医療観察法案」 国会審議等 池田小学校事件および特別立法に関連する声明一覧 心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律(案) 精神医療ニュースへ 全国精神医療労働組合協議会 事務局 : 〒604-8854 京都市中京区壬生仙念町30-2 ラボール京都4F 京都民間医労連気付 Tel/Fax: 075-811-5672 E-mail zenkoku@seirokyo.com
全国精労協ホームページ