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精神科看護事例集    平成12年3月

厚生省保健医療局国立病院部政策医療課
看護婦等要請指導室

保護室隔離中の看護を見直す


国立療養所犀潟病院 平野哲則

[はじめに]
 本来、保護室とは「(1)封入:自傷及び他害行為から安全な場所へ患者の動きを封じ込める。(2)遮断:保護室によってもたらされる対人関係から
の遮断は対人葛藤からの開放されたオアシスとして役立つ。(3)知覚刺激の低減:重い精神病患者は知覚刺激に脆いが、保護室は相対的な単調さを
つくりだし、それによって過剰な知覚刺激からの好ましい開放がもたらされる。」とGuthiel(グテイール)は定義している。
 隔離の対象となる患者の多くは、精神分裂病で漠然とした不安による不穏・興奮状態を呈することが多い。激しい症状の安定を目的に隔離が
行われるが、中には隔離することでかえって本来持つ症状としての不安をさらに憎悪させるケースがある。
 その原因を探る事は今後の保護室に隔離中の看護(以下保護室看護)の指標になると考えた。犀潟病院が臨地実習を受けいれている、新潟県立
看護短期大学長野勝助教授の了解を得て、「実習の目標である『精神科の特徴的な治療環境を物理的側面と人間関係的側面について学ぶ』」と
いう点から、学生の隔離体験を通して不安の要因を明らかにすることとした。
 平成11年度実習に来た90名の学生に事前に口頭で同意を得た上で入室体験をしてもらいアンケートをとった。アンケートを集計し、その結
果から、隔離中の患者の不安の要素が「音」にあることがわかり、このことで保護室看護が改善できたと思われるので報告する。


[体験内容]
 実習中に5〜15分(平均9分12秒)の入室体験をした。これは実習時間の関係上、短時間の設定となっている。入室に際しては隔難する患者と
同様に物の持ち込みを制限し、体験時間を知らせず、入室体験中に病棟看護者が意識して声をかけるグループと全く声をかけないグループとに
分け、その後のアンケートで保護室の印象を比較した。
 比較のため看護者が声かけしたグループをA群(48名)、看護者が声かけしなかったグループをB群(42名)とした。


[アンケート内容]
 (1)入室時間の長さの感じ方(体験者に「何分位の体験と思うか」を聞いたあと実際の時間を伝えた。)
 (2)気になったこと 視覚に関する事 聴覚に関する事 臭覚に関する事 

 (3)全体の感想(自由記載)を共通する項目に集計


[結果]
 (1)入室時間の長さの感じ方について(グラフ1)
  A群(48名中)
    長いと感じた人  34名(71.8%)
    短いと感じた人  13名(27,1%)
    どちともいえない  1名(2.1%)
  B群(42名中)
    長いと感じた人  33名(78.6%)
    短いと感じた人   9名(21.4%)
 (2)気になったこと(グラフ2)
  A群(48名中)
    足音       23名(47.9%)
    話声       28名(58.3%)
    壁の色・落書き  32名(66.7%)
    床        18名(37.5%)
    臭い       12名(25%)
    トイレ      18名(37.5%)
  B群(42名分)
    足音       25名(59.5%)
    話声       26名(61.9%)
    壁の色・落書き  27名(64.3%)
    床        13名(31%)
    臭い        7名(16.7%)
    トイレ       8名(42.9%)
 (3)全体の感想(有効回答76名)(グラフ3)
  A群(有効回答39名)
    隣の音・声や廊下の音が気になった  12名(30.8%)
    落ち着けずイライラした     5名(12.8%)
    圧迫感を感じた      7名(18%)
    不安だった      3名(7.7%)
    苦にならなかった      2名(5.1%)
    落ち着けた      8名(20,5%)
    Dr・Nsの声や気配があると安心できた 2名(5.1%)

  B群(有効回答37名)
    隣の音・声や廊下の音が気になった 13名(35.2%)
    落ち着けずイライラした   6名(16.2%)
    圧迫感を感じた    7名(18.9%)
    不安だった     9名(24.3%)
    苦痛だった    1名(2.7%)
    苦にならなかった    1名(2.7%)


[考察]
 (1)入室時間の長さの感じ方においてはA群、B群の結果の比較では大差はなかった。
 (2)気になったことではA群B群ともに足音や話し声といった聴覚に関連した項目が高い数値を示し、音に対して敏感になっていることがうかが
える。これは音の原因が自分では確認できないことから発生するものと考えられる。
 (3)全体の感想ではA群のほうは負のイメージが69.3%で、苦にならなかった。落ち着けた。Dr・Nsの声や気配があると安心できた。など30.7%
が正のイメージであったのに対し、B群のほうは負のイメージが94.6%でありかなりの差が出た。
これらのことから隔離が精神に与える影響は時間の流れを遅く感じさせ、退屈で苦痛な空間である事は明らかである。


[まとめ]

 今回は隔離中の患者の不安の軽減に焦点を当てた調査とした。その調査の結果から関わる側としては患者に与える影響の強い「音」に対し
て、慎重に行動し、音の原因を知らせる努力をし、なるべく頻回の訪室を心掛けることとした。
 これまでの保護室看護の巡回基準は厚生省からの精神保健福祉法の運用マニュアルが配布される前は「1時間毎」とのみ病棟内で規定してあ
ったものを、(!)最低30分に一度声をかける。(2)観察廊下を通るときは何をしに行くのかを入室中の患者に伝える。(3)大きな音をさせる時はあら
かじめ患者に伝える。とより具体的に基準化した。このことにより隔離中の患者の不安の軽減につながっているものと考える。
 今後は隔離体験を職員に拡げ、1〜2時間の体験の中から声掛けの内容による不安の度合いを測る調査を行い、さらに細かな基準を策定する予
定である。

[参考文献]
小林八郎他 精神疾患患者の看護   医学書院1974
坂田三充編 心を病む人の看護  中央法規出版1995
坂田三充    精神看護と隔薙拘束
        精神科看護VOL,26No48-12 日精看1999


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